バーバリーのデジタル革命を率いた戦略家ジャスティン・クック

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2010年秋冬コレクションで、バーバリーはランウェイのライヴストリーミングを行い、ファッション界に衝撃を与えた。当時この“革命”を率いたデジタルストラテジスト、ジャスティン・クックがイノヴェイションの哲学を語る。雑誌『WIRED』VOL.13より、ファッション×テックのキーパーソンへのインタヴューをウェブで連載。

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JUSTINE COOKE|ジャスティン・クック
Tunepicsとデジタルコンサルティング会社innovate7創立者でCEO。トム・フォード、バーバリー、トップショップなどを経て2012年に独立。ファッション、サッカーチーム、博物館、学校などのデジタルストラテジストとしても手腕を振るう。

空を見てノスタルジアに浸ったり、切ないメランコリーに襲われたり…。誰もが体験したことのある日常のある瞬間に芽生えた繊細な感情を、言葉や画像だけで表現するのは難しい。でも、どうにか家族や友人たちとシェアしたい──そんな発想から誕生したのが、新しいソーシャルネットワーク「Tunepics」だ。開発したのは、ファッション界にデジタルの波を起こしてきたジャスティン・クック、その人である。

2010年秋冬コレクションで行われたバーバリーのランウェイのライヴストリーミングは、当時のファッション界において、まさに未曾有の事件だった。FacebookやTwitterのライヴサイトでは、ファンたちがリアルタイムでコメントし合い、さらには、ショー直後から、発表されたばかりのモノが予約・購入できる特設サイト「Runway Made to Order」や、トレンチコートのスナップ投稿サイト「Art of Trench」が立ち上げられた。ラグジュアリーブランドのランウェイという、“特権階級”しか覗くことのできなかった聖域が、初めて世界に「シェア」された瞬間だった。

3回シリーズ「バーバリーのデジタル戦略」

21世紀の「ラグジュアリー」を定義せよ──バーバリーはいかにしてデジタル改革に成功したか【上】デジタルブランディングは社内から始まる──バーバリーはいかにしてデジタル改革に成功したか【下】ファッションブランドはアップルを目指す──クリストファー・ベイリーが語る、バーバリーのデジタル戦略

当時のCEOアンジェラ・アーレンツ(現Apple)と、CCOクリストファー・ベイリー(現在CEO兼任)とともにこの革命を率いたのが、ジャスティンである。

「ぼくらミレニアム世代は“待つこと”を知らない。リアルタイムでシェアし、レヴューするのが普通なのに、ファッションはそうじゃなかった。アンジェラとクリストファーは素晴らしいリーダーシップの持ち主で、若いぼくのアイデアに耳を傾け、鼓舞し、実現を後押ししてくれたんだ。顧客とつながり、新しい消費者行動を創造する、本当にマジカルな体験だった。ラグジュアリーブランドのなかには、実店舗や紙の広告と同クオリティの審美世界をデジタル上では表現できない、と考えるきらいがいまだにあるけれど、それは違う。本当は、既存の表現方法とはまったく異なる、もっと新しくて美しい体験がつくれるんだ」

CMOとして指揮したトップショップでは、ランウェイで発表されている服をオンライン上でカスタムオーダーできる「Shoot the Runway」を実現した。

「ショーは本来的に収益に直結する行事ではなく、エンターテインメントでありアートフォームであるべき。つまりマーケティング演習であり、ブランドのヴィジョンをクリエイトする場所。だからこそ、そこには強いメッセージやストーリーが絶対に必要なんだ」

ではランウェイを開催する予算のない小規模なブランドは、どうすればいいだろう? ジャスティンの哲学は、とてもシンプルで本質的だ。

「ランウェイに代わる表現方法があるなら、それでいい。それがデジタルなのだとしたら、アイデアを絞ればいい。大掛かりな専門チームを組織する必要はまったくなくて、ただひとつ重要なのは、新しい世代の声を聞き、正しい視点をもつリーダーがいるかどうか。その視点に沿った魅力的なコンテンツを創出できるか否かに、成功はかかっていると思うんだ」

さて、話をTunepicsに戻そう。彼のこの新発明は、まさに「正しく魅力的なコンテンツ発信」のベストパートナーのひとつとなるだろう。事実、ローンチ直後からヘヴィユースする者のなかには、ファッションデザイナーたちも多数含まれている。ポール・スミスは、ショー開催前から終了後までの印象的な瞬間を、ショーで使用した音楽と合わせてリアルタイムでシェアしていた。あるいはクロエのデザイナー、クレア・ワイト・ケラーは、ごく私的な日記を綴るように、彼女の美意識が触発された日常の瞬間にBGMを付けて、ファンに発信している。

「彼らはあくまで、ひとりの個人としてTunepicsを楽しんでいる。売らんかなという態度では、もう人の心は動かせない。より親密でパーソナルなつながりをみな求めているし、そんな環境をクリエイトすることが、いま、もっとも求められているんじゃないかな」。

雑誌『WIRED』VOL.13
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