2013年8月に原著のフランス語版が発売、翌年4月に英語版が発売、世界的ベストセラーとなった『21世紀の資本』(トマ・ピケティ著、山形浩生・他訳、みすず書房刊)がついに日本にも登場した。本書の訳者・山形氏が、ピケティの主張に沿ってアベノミクスを解釈した。

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 ピケティは日本については、今後、格差が拡大する傾向が強い局面にあると指摘しています。では、それを防ぐ方法としてピケティが提案している施策を基準に解釈すると、アベノミクスはどう評価できるのか。格差をより拡大するものなのか、それとも縮小するものなのか。

 まず、ピケティは資本に対する累進課税を理想的な方法として提案しているわけですが、アベノミクスはそれをやろうとはしていません。

 アベノミクスが目指すのは成長路線です。それは、ピケティの考えに沿います。特に日本の場合、長年のデフレのおかげで潜在成長率と実際の成長率との差が大きくなっているので、それを埋めるだけでも分配のパイが増え、資本所得のひとり勝ち状態は弱まります。

 ただし、アベノミクスの掲げる成長戦略が経済成長にとって有効かどうかは別ですし、消費増税は経済成長にとってマイナスとなり、逆進性が強い(所得の少ない人ほど税負担率が高くなる)ので、格差を拡大します。

 それと関連して、デフレからの脱却を掲げていることも、ピケティの主張に沿います。ピケティは、格差拡大を防ぐための第2の方法として、インフレ策を提案しているわけですから。インフレは資本の価値を減少させ、労働者の所得を上昇させます。

 日本の場合、ここ1年ぐらいの状況を見ると、デフレからの脱却が進み、いわゆるブラック企業に人が集まりにくくなり、有効求人倍率が上昇し、完全失業率が下がり、“人手不足感”が出てきた。低所得者の状況は多少は改善されていると解釈できるのではないでしょうか。

 以上のような観点から見ると、アベノミクスはピケティ的な格差縮小策の側面もかなり持っています。ただし、若年層は資本は持たず、相対的に所得は低く、失業率は高い状態が続いている。その点ではもっと積極的なパイの分配策を考える必要があります。

※SAPIO2015年2月号