1月特集 2015年錦織圭の挑戦!(8)

錦織圭vs「BIG3」
【第3回:ラファエル・ナダル編】

「BIG3」と言われる、世界ランキング1位のノバク・ジョコビッチ、2位のロジャー・フェデラー、3位のラファエル・ナダル。錦織圭が世界の頂点に立つためには、打ち破らなければいけない壁である。なかでも、これまで未勝利のナダルに勝てるかどうか。自らの成長を示すとともに、それがグランドスラム制覇へのひとつのカギとなる――。

 試合中、選手がベンチでシャツを着替えると、スタンドから口笛が吹き鳴らされる。とりわけ、ラファエル・ナダル(28歳。スペイン/世界ランキング3位)がシャツを脱いだときは、そのボリュームがひと際膨れ上がり、スタンド全体が色めき立つ。

テニス界一、セクシーな男」――"ラファ"の愛称で親しまれている前王者ナダルの、もうひとつの称号だ。洋の東西、男女を問わず、人々を魅了するその逞しく鍛え上げられた肉体は、「打倒フェデラー」のために築いてきた努力の結晶と言っていいかもしれない。

 並外れたパワーと、「すべてのポイントがマッチポイント」と言われるほどの、全力かつ隙のない試合運びは、"天才"ロジャー・フェデラー(33歳。スイス/世界ランキング2位)の技を切り崩すためのもの。ナダルが肉体の鍛錬を重ね、そこまでのテニスを確立させたのも、フェデラーの偉大さがあってこそ、だ。

 フェデラーの全盛時代(2004年2月〜2008年8月)、ナダルはフェデラーが唯一勝てなかった全仏オープン(2005年)で初のグランドスラム大会を制し、トッププレイヤーとしての地位を築いた。その翌年(2006年)には、全仏オープン連覇を果たすと、「クレーコート・キング」の座に収まらず、ウインブルドンでも決勝進出(準優勝)。世界中を驚かせた。トップスピンのグラウンドストローカーである彼のプレイスタイルは、クレーでこそ威力を発揮するが、ボールが弾まず、ネットプレイ勝負になることが多い芝のコートでは通用しないと考えられていたからだ。

 しかしナダルは、翌2007年もウインブルドン決勝へ駒を進めた。決勝では再びフェデラーに敗れるも、前年の快進撃がまぐれでないことを証明した。そして2008年、ついにウインブルドン決勝でフェデラーを撃破。フェデラーの6連覇を阻止するとともに、芝の最高峰の舞台で頂点に立った。

 その翌月には、4年半もトップに君臨していたフェデラーから王座を奪った。以降、フェデラーとしのぎを削りながら、2009年に全豪オープン、2010年には全米オープンも制したナダル。2009年の全仏オープン初優勝で決めたフェデラーに続いて、通算グランドスラムを達成した。ちなみにナダルは、2008年北京五輪でフェデラーがシングルスでは手にしていない五輪の金メダルも獲得している。

 フェデラーに追いつき、フェデラーを追い越しても、ナダルの目にはいつも前を走るフェデラーが映っていた。事実、練習中のフェデラーを、まるで熱烈なファンのように、いつまでも見つめていたナダルの姿を目撃したことがある。そしてナダル自身、以前こう語っていた。

「僕は、ロジャーのように完成されたプレイヤーじゃない。ロジャーにまだ伸びる余地があるなら、僕にはもっとある。ロジャーがまだ練習するなら、僕はもっと練習しなくてはいけない」

 ナダルが獲ったグランドスラムのタイトルは、14個。史上最多となるフェデラーの17個には及ばないものの、フェデラーとの5歳の年齢差を考えれば、史上最多記録の更新は確実、とも言われている。

 だが、凄まじい気力が肉体の限界を超えてしまうのだろうか、その道をしばしば阻むのが故障だ。自らのキャリアにおいて、グランドスラムは一度も欠場したことがないフェデラーとノバク・ジョコビッチ(27歳。セルビア/世界ランキング1位)に対し、ナダルは過去3年間だけでも、全米オープンで2回、全豪オープンで1回、欠場している。

「テニスは永遠には続けられない。だから、試合に出られないと、限りあるキャリアの、とても大事な時間を失っているように感じるよ。でも、その時間だって、僕のキャリアの一部なんだ。アクシデントは、どうしても起こる。ならば、どんな状況も受け入れて、その時々に違うことを楽しむんだ」

 それが、故障の度に不屈の精神で這い上がってきたナダルの心の境地であるが、昨年もケガや病気で多くの勝利の機会を逃した。ウインブルドンの4回戦で敗れたあと、右手首のケガで戦列を離れた。秋になって復帰したかと思えば、虫垂炎にかかってシーズン最後のマスターズ(※)であるパリ大会と、ツアーファイナルを欠場した。
※ATPワールドツアー・マスターズ1000。四大大会とツアーファイナルに次ぐ規模の大きな大会。年間9大会行なわれている。

 その間、大躍進してきたのが、錦織圭だった。錦織は「勝てない相手はもういない」と語ったが、ナダルにはまだ一度も勝っていない。過去7度対戦して全敗である。

 それでも、昨年の全豪オープン4回戦では、ストレートで敗れたとはいえ、6−7、5−7、6−7という接戦を演じて、錦織はナダル戦での確かな手応えをつかんだ。その後、5月に行なわれたマドリード・マスターズ決勝でも、6−2、4−2として、勝利まであと2ゲームに迫った。結局、そこから腰に痛みが出て逆転を許し、最終セットで途中棄権となってしまったが、クレーコートのマスターズ大会決勝という舞台でナダルを追い込んだこの一戦は、錦織に大きな自信を与えた。

 ナダルのディフェンス力はツアー屈指だ。しかし、速いタイミングでボールをとらえて、相手の時間を奪う錦織のテニスには、そのディフェンス力を打ち破る力がある。さらに、多彩なテクニックを持つ錦織が、それを高い精度で発揮し続ければ、ナダルが得意とするクレーコート大会(全仏オープンは2010年から5連覇中)の頂点に立つことも夢ではない。

 年が明け、ナダルが表舞台に帰ってきた。錦織にとって、8度目の挑戦の日が来るのは、そう遠くはないだろう。その際、錦織の真価が改めて問われることになる。

山口奈緒美●文 text by Yamaguchi Naomi