昨年11月、ミラノのマルペンサ国際空港で本田圭佑に会ったとき、ミランの10番はこんなことを言っていた。

「チームが苦しいときに助けられる選手になりたい。たとえばブラジルW杯のギリシャ戦では、あれだけ押し込みながら、日本には何かできる選手が自分を含めてひとりもいなかった。これからの4年間でその力を身につけたい」

 昨年のブラジルW杯の惨敗を受け、本田はひとりでチームを救える選手を目指し始めた。具体的には「ゲームメイクを我慢して、ゴールに集中する」。以前のように組み立てには参加せず、ゴールを狙い続けるということだ。

 わかりやすく言えば、ゲームメイカーからフィニッシャーへのモデルチェンジ――。

 その取り組みの甲斐あって、アジアカップのヨルダン戦ではこぼれ球にいち早く反応して先制点を決めることができた。

 本田は「もっと反応しなきゃいけないシーンが他にもいっぱいあった」と満足していないが、新たなスタイルは間違いなく日本の武器になっている。チーム最多の3得点をあげているだけでなく、シュート数もチーム内でトップだ(1位本田13本、2位岡崎9本、3位香川6本)。

 ヨルダン戦後、本田はこう語った。

「チャンスになってないところでも、反応していればチャンスになったなという場面がやっぱりいくつか心に残っているんでね。いいところはいいところで続けたい。ただ、自分自身のビッグチャンスが少なかったですから、それを増やしていけるように、いい動き出しを続けたいと思います」

 ただし、新たなスタイルへの手応えを口にしつつ、本田はマルペンサ空港でこうも語っていた。

「前の自分みたいなこと(ゲームメイク)をできる選手が、日本代表に出てこないと厳しい」

 では、本田がフィニッシャーに徹している一方で、誰がゲームメイク役を担っているのだろう? チーム内の「パスランキング」を見れば、何かしらの傾向がわかるはずだ。

 GKを除く先発メンバーのグループステージ3試合のパスランキングは、以下のようになっている。フル出場してない選手に関しては、カッコ内に90分に換算したパス数を書いた。

【パスランキング】
1位 長谷部誠  214本
2位 香川真司  204本
3位 吉田麻也  193本
4位 酒井高徳  170本
5位 森重真人  167本
6位 本田圭佑  139本(140本)
7位 長友佑都  132本
8位 遠藤保仁  131本(169本)
9位 乾貴士   70本(119本)
10位 岡崎慎司  56本(61本)
(データ提供元:Opta)

 パス数が200本を超えたのは長谷部と香川のみ。このふたりが積極的に組み立てに関わっていることがわかる。ピッチ上のどこでプレーしたかがわかるヒートマップを見ると、香川は誰よりも広範囲を動いており、その積極的な姿勢がパス数につながっているのだろう。

 さらに本田との関係性だけに限ると、より香川の存在が浮かび上がってくる。本田へのパスの本数が、香川は右サイドバックの酒井高徳に次いで多かった。

【本田へのパスランキング】
1位 酒井 33本
2位 香川 29本
3位 遠藤 14本
4位 岡崎 13本
5位 長谷部、川島永嗣 8本

 香川の基本ポジションは4−3−3のインサイドの左MFで、ポジションチェンジをすることもあるが、距離は右MFの遠藤の方が本田に近い。にもかかわらず、香川が遠藤の約2倍のパスを本田に送り込んでいるのは、本田の前への動き出しを常に気にしているからだろう。

 こういうデータを見ると、本田が必要とするゲームメイカー役を担っているのが香川であることがわかる。香川はヨルダン戦でゴールを決めて「ノーゴール」という重圧から解放されたが、これだけゲームメイカーとして仕事をしているのだから、フィニッシャーの仕事まで求めるのは酷なのかもしれない。

 ちなみにOptaの「チャンスクリエイト数」(グループリーグ3試合)を見ると、本田が9本、香川が7本で、全チャンス数の40%をふたりで占めている。

 実際、本田は試合ごとに連係が深まってきていると感じていた。ヨルダン戦後にこう語った。

「あまり評価しすぎるのは良くないですけど、合宿の練習試合に比べると、明らかにこの数日間で良くなってきているんではないかなと思います。

(香川)真司もゴールを決めて非常に喜んでました。ゲームメイクするだけでなく、ああいうところで決定力を見せてくれるのは、非常に心強いですね」

『フィニッシャー・本田×ゲームメイカー・香川』

 ふたりの化学反応は、新たな勝利の方程式になるのか。アジアカップのトーナメントで待ち受ける厳しい戦いが、その答えを出してくれるだろう。

木崎伸也●取材・文 text by Kizaki Shinya