ピンクの髪にしただけで非難殺到(画像は山田優 Instagramより)

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「こんなお母さんヤダ」「これで母親だなんて、どうかしてる」「母親失格だろ」

 ネット上に吹き荒れる辛辣な声の嵐──。昨年9月に小栗旬とのあいだに第一子をもうけた女優・山田優の子育てが、いま、炎上を繰り返している。

 まず、昨年12月に山田が生後2か月の娘を連れて自身の母親とともに居酒屋で食事したことが「女性セブン」(小学館)で報じられると、「赤ちゃんがかわいそう」「居酒屋はありえない」と非難が殺到。1月21日にも山田がピンク色にカラーリングしたヘアスタイルをInstagramにアップすると、冒頭に紹介したような意見が次々に寄せられた。

 だが、このようにバッシングを受けているのは山田だけではない。とくに有名なのは元モーニング娘。辻希美で、「1歳児に食パン与えるとかありえない」「子連れでグリーン車乗車なんていい迷惑」「メニューにウインナーが多すぎる」とその一挙手一投足が話題に。先日離婚秒読みと報じられたばかりのスザンヌも、生後2か月の息子とディズニーランドに行ったことなどが批判を受けている。まさに"炎上子育て"というジャンルが確立されつつあるといってもいい。

 芸能人であるがゆえ注目を集めてしまうのは仕方がないにしても、気になるのは「母親として間違っている」「子育てがなってない」という過剰なダメ出しだ。そして、裏を返せば、「母親はこうあるべき」という強迫が社会に蔓延していることを象徴しているようにも思われる。

 実際、子育てブログや書店に並ぶ子育て本を読んでみると、「自分はダメな母親なのでは?」と悩んでいる人がいかに多いかがよくわかる。たとえば、『産後、つらくなったら読む本』(やまがたてるえ/合同出版)には、がんばりやすぎて誰も頼れず電池が切れそうになっている女性や、良妻賢母だった母親のように家事・育児をこなせず精神的に不安定な状態に陥る女性など、「自分が悪い」と責める母親のケースが紹介されている。こうした悩みは、「母親はかくあるべき」という理想と、「子どもは母親の愛情がもっとも重要」という広く世間に浸透している理論から生まれているのだろう。

 だが、この自明化している「子どもは母親の愛情がもっとも重要」という理論は、決して古くからあるわけでもなければ、すでに覆されている考え方だ。

 そもそも、昔の日本では、子育ては地域の共同体や家族全体で行われてきた。専業主婦という概念さえなく、母親が子どもにつきっきりで育てるなどというのは金持ちの道楽でしかなかった。それが一変するのは、戦後の高度経済成長期。核家族化が進み、一方で家庭の収入が増えたことで、女性は家事や育児に専念するようになるが、そこで社会に広がったのが「3歳までは母親が育てないと子どもに悪影響を与える」という三歳児神話をはじめとする、育児の母親責任論だ。多くの人はこの規範をいまも信じ、疑いようもない真実だと考えている。

 しかし、このことに疑問を呈する研究は数多い。そのひとつが"ソーシャル・ネットワーク"という考え方だ。『愛着からソーシャル・ネットワークへ―発達心理学の新展開』(マイケル・ルイス/新曜社)では"乳児期の母子関係がその後の発達を決定する"という理論に反駁し、"子どもは誕生から母親、父親、きょうだい、祖父母など複数の人間関係のなかで発達する"と提唱。子どもにとっては母子関係だけが重要でとくべつなのではなく、さまざまな関係のなかのひとつにすぎないことを説いている。

 さらにいえば、三歳児神話の下敷きになっている"母性は女の本能"という考え方自体、18世紀の時点で否定されているような眉唾モノの話だ。にもかかわらず、いまなお母親である女性たちは母親規範に縛られ、苦しめられている。もちろん、芸能人の子育てが炎上する理由にも、根本にはこの母親規範がある。「母親なのに愛情が足りないから、赤ちゃんを居酒屋なんかに連れて行くんだろ」「愛情が足りないから、母親のくせに自分を犠牲にできず、髪を母親らしくない下品なピンクなんかに染めるんだ」......そうした非難の声が飛び交うなかで、さらに女性たちは世間に叩かれない"母親らしさ"を内面化していくのだ。

 現実には、完璧な母親などいないし、完璧な育児もない。それなのに理想の母親になることをめざしすぎて、結果ストレスを抱え込み、うつ状態になったり、虐待やネグレクトに走ってしまう女性は多い。こんな世の中にいま必要なのは、芸能人の育児の揚げ足をとることではなく、根強い母親規範を疑う目ではないのだろうか。

 ......だいたい、山田の"炎上子育て"だって、たまには居酒屋に行くくらいの楽しみをもたなくては息抜きだってできないし、髪の色をピンクにするのは落ち込みやすい産後にあって、ひとつの気分の盛り上げ方にもなりそうではないか。「ありえない」と育児にバツ印をつけていくより、「アリかも」を見つけ、増やしていく。そのほうが、ずっと建設的で生きやすくなると思うのだが。
(田岡 尼)