AAAで鍛えられたラッパー、SKY-HIの「スマイルドロップ」は“甘え”のない一級品
 いまアイドルに求められる役割とは、一体どのようなものなのでしょうか。

 もはや笑いを取るのは当たり前。それだけでは目立てないので、“ヨゴレ”的な扱いさえもいとわない芸人顔負けのキャラクターもいる。そんな光景に思わず「デフレ下の過当競争」といったいやな言葉も浮かんできてしまいます。

 しかしそんな惨状のおかげか、当たり前のように歌やダンスが上手いとか、音楽に真面目に取り組む人たちの存在が、少数だからこそ自然と浮かび上がってくるのですね。

 その代表的な存在と言えば三浦大知なのでしょうが、このSKY-HI(スカイ・ハイ)も負けていません。

※【SKY-HI】
ダンスボーカルグループAAAの日高光啓。ソロ活動はSKY-HI名義で行っている。
エイベックスのオーディションで、AAAのメンバーとして2005年にデビュー。その傍ら、クラブでラッパーとして活動、楽曲をYoutubeで発表したり、各地でライブを行う。2013年8月、エイベックスよりSKY-HIとしてメジャーデビュー。

◆歌手としての基礎体力がある

 昨年12月12日にリリースされたシングル「スマイルドロップ」は、Jポップ的なバタ臭さをきちんと引き受けつつ、ラップではないボーカルが乗っかっている。なんともユニークな一曲なのです。

⇒【YouTube】SKY-HI /「スマイルドロップ」Music Video http://youtu.be/XsavQ6ly9wU

 しかもその歌が「ラッパーがメロディをなぞりました」という水準を遥かに超えているところが面白い。声質、声量、声域のどれをとってもボーカリストとして一級品。真っ当に歌が上手いことが、ここでは重要な意味を持ちます。そこに詞の音節を分解して多声的なリズムを再構成するヒップホップ的な素養が加わる。

 するとポップなコード進行を持つソウルファンク調の曲に、折り目正しいラフさが効いてくるのですね。タイムを保って音程をホールドする歌い手としての基礎体力があるからこそ、詞を無理にいじくりまわしてもぶれない。むしろ聴き手が曲の中でリラックスできる余裕すら与えている。

 これは初めにAAA(トリプルA)というグループに所属することで得られたアドバンテージなのではないでしょうか。粗さに先立つ訓練が、SKY-HIというミュージシャンの稀有なキャラクターを形作っているように思うからです。

◆“アーティスト”扱いされなかったことの強み

 また彼自身による詞も、ステレオタイプなヒップホップのイメージに流されることなくクレバーです。現代の打たれ弱い男性像を、きちんと描いているのですね。言葉をリズミカルに操る技術だけを取り込みながら、詞の指し示す場景はきちんといまの日本の一面を映し出している。それはこの見事なフレーズからも分かるはずです。

<枯れ葉達が舞う水辺 雨上がり 空が眩しくて
少し腫れた目に刺さった まぁ涙目にはなった>

 単純な視覚がいつの間にか知覚へと変わり、それが抑制された内面の吐露へとつながる。言葉によって代えの効かない空間が出来上がっているのですね。ひとつひとつの単語を取ってみても、突飛なところはない。しかしこういう詞を書ける男性ソングライターはなかなかいません。何よりも事物を見つめるまなざしが純粋です。

 もっとも、いまだにSKY-HIを「アイドル」と呼ぶことに異議を唱える人もいるかもしれません。しかし彼が最初から“アーティスト”としてご大層に扱われていたとしたら、果たして「スマイルドロップ」のような名作を残せたでしょうか。なぜならこの楽曲には表現欲求といった甘えの入り込む余地が見当たらないからです。

 もしかしたら彼にとっては不本意な肩書なのかもしれませんが、それでもSKY-HIをアイドルと呼ぶことにいささかの抵抗も感じません。現状の日本の音楽シーンにおいては、アーティストであるよりも上質なアイドルでいることの方が格段に難しいのですから。

※最後に、スマイルドロップを聴いてたら思い出してしまったポップなヒップホップを。

⇒【YouTube】Kurtis Blow-The Breaks http://youtu.be/5ZDUEilS5M4

⇒【YouTube】Kendrick Lamar-Now Or Never(Feat. Mary J. Blige) http://youtu.be/72mrfnyc8Dg

<TEXT/音楽批評・石黒隆之>