今大会を通じてメディアの前でほとんど口を開かない長友。そこには4年前とは異なる優勝への強い決意が感じられる。 写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

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「すみません」
 
 そう言って、長友佑都が話し始めたのは、質問者の質問が終わってから、3分22秒後だった。準々決勝・UAE戦前日の公式会見に、アギーレ監督とともに出席した長友に投げかけられたのは、いくつもの要素が詰まった質問だった。
 
「ブラジル・ワールドカップでなにが足りなかったか? 今後の4年間をどうやらなければ世界基準になれないのか。それを踏まえて、アジアカップでどういうステップを踏みたいのか。明日のUAE戦も含めてどう考えているのか? 考えを聞かせて下さい」
 
 しばらく考えたのちに「僕個人のことですか?」と長友は質問者に問い、質問者は「長友選手のこと、チームのこと」と重ねた。
 
 そこからまた1分近くの沈黙が続くと、長友の印象について問われていたアギーレ監督が「じゃあ、先に僕が話しましょう」と場を持たせた。監督がスペイン語で話し、それを通訳が日本語、英語に訳す。その後にやっと長友が重い口を開き、約1分弱、一気に語りつくした。
 
「すみません。さっきの時間でいろいろ考えていましたけど、なかなかワールドカップの時の心境と、次のワールドカップへ向けての心境を語るのは本当に難しくて。今、そのことについて考えていて、言葉に発するためにはエネルギーが必要で、ここではちょっと勘弁してもらいたい。今、そのエネルギーを使うくらいなら、明日の試合のダッシュ1本にエネルギーを使いたいと思います。
 
 ただ、ひとつ言えることは、いかに本当にチームのために犠牲になれて、チームのために走れるかということが、今の自分の課題であって、目標です。その、本当に犠牲の精神や、チームのためにという気持ちが本気であるならば、本当に大事な時に、最高のパスが来たり、今までミスしていたところがミスではなくなったり、そういうものに繋がっていくかと思います。

 だから、明日の試合もチームのために走ります、はい」
 
 長友が質問に即答できなかったのは、彼の誠実さの表われのように思えた。とても簡単に答えられるような内容ではなかったからだ。もちろん、上手く帳尻を合わせて答えることも可能だっただろう。しかし、彼にはできなかった。
 
 今大会に入って以降、テレビの取材は受けても、いわゆる新聞や雑誌など活字媒体の取材に応じることがなかった。「長友選手!」と声をかけられても、柔らかい表情で頭を下げ、足を止めることなくバスに乗り込む。そんな姿から、今大会に賭ける彼の想いの強さを感じていた。
 
 これまでは「有言実行」というタイプだった。語ることで覚悟を決め、自身を追いつめ、夢や目標を実現してきた。
 
 しかし、今は少し違うように思う。
 
 語らないことで生まれる変化を探しているのかもしれない。まだ、語れる”なにか”が定まらないのかもしれない。そして、アジアカップのタイトルを手にした時に、初めて新しい一歩を踏み出せると考えているのかもしれない。同じ「優勝」でも、その意味は彼自身の中で4年前とは違うはずだ。
 
「明日の決勝戦に勝って、サムライとしての刀を手に入れたい」
 
 4年前のアジアカップ決勝を前に、そう話していた長友は、優勝を決めた後には「まだまだこの刀は細くて、折れやすい」というコメントを残している。前回大会のタイトルは世界へ出ていくための「自信」となった。今の長友にとって、アジアカップを手にすることはどんな意味を持つのだろうか。
 
 その答えは、長友にも分からないのかもしれない。だからこそ、それを手にしなければならないだろう。優勝カップの重みとそこへ至るまでの激闘が、次の扉を開く鍵になるのは間違いないのだから。

取材・文:寺野典子