ヨルダン戦では、股抜きクロスで香川のゴールをお膳立てした武藤。UAE戦で鍵を握る存在になりそうだ。写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

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 ヨルダン戦では、投入された3分後の82分に対面した相手の股を抜くグラウンダーのクロスで見事なアシストを決めた。「ボールを出すタイミングをわざと遅らせて、股を狙って、思い通りのパスになりました」。「パスを出す前からゴール前に走り込んでくる真司くんがしっかり見えていた」武藤にとって、イメージ通りのプレーだった。
 
 香川は言う。「今日は(中へ入る)タイミングがなかなか合わないところもあったんですけど、最後に武藤が上手く見てくれました。相手の股を狙ってくれた武藤のチョイスに感謝です」。チームの誰もが待ち望んだ背番号10の今大会初ゴールは、ふたりの天才がシンクロした瞬間でもあった。
 
 もっとも、天才などと持ち上げてしまうと自称「努力家」の武藤は即座に否定するかもしれない。ただ、努力だけでは身に付かない特別な才能を持っていなければ、プロ1年目からJリーグでゴールを量産し、A代表まで上り詰めることなど不可能だろう。
 
「あそこは(ドリブルで)仕掛けても良かったのですが、あの角度だとカバーリングもいましたし」と瞬時に複数の選択肢のなかから最適解を導き出せるのも、そして「『サイドに広がって、裏とかを狙って行け』と言われて、その通りに動いたら得点につながった」と指揮官の要求を事も無げにピッチで実践できるのも、生まれ持ったセンスがあるからに他ならない。
 
 グループリーグ以上にタフな戦いになる決勝トーナメント。中2日で臨むUAEとの準々決勝は疲労の蓄積が懸念される主力組よりも、まだまだ元気なベンチメンバーの働きが重要になるはずだ。なかでも、ヨルダン戦でひとつ結果を出したことで吹っ切れた可能性もある武藤は、有力な「切り札」候補だろう。
 
 本田、岡崎、香川あたりが抑えられ、前線に停滞感が漂うシチュエーションになれば、この若武者の卓越した攻撃センスは間違いなく必要だ。今回のアジアカップを自ら「サッカー人生の分岐点」と位置づける武藤の覚悟が問われるのは、むしろここからである。
 
取材・文:白鳥和洋(サッカーダイジェスト)