ザックジャパン時代に比べ、よりゴールにこだわったプレーを見せる本田。ピッチ外での言動でも、戦術に関して一歩引いた立場をとっているようだ。写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

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 ヨルダン戦後の何気ない一言の中に、本田の“冷静さ”が滲んでいた。
 
「今のチームの経験値なら、攻撃のオプションを考えられるのは僕だけじゃないと思います。だから試合中でも、ちょっとした会話でパッと解決策を見出すことが、アジアではできるような気はしています」
 
“アジアではできる”。逆に言えば、ヨーロッパや南米の強い相手とやったら、同じようなことができる保証はないということだ。意訳すれば、この程度で調子に乗ってはいけないということである。
 
 ヨルダン戦後、ミックスゾーンで自分に言い聞かせるように、「満足していない」、「評価しすぎるのは良くない」という言葉を本田は繰り返した。
 
――ヨルダン戦の先制点のシーンでは、長谷部選手から乾選手へ縦パスが出た瞬間に、本田選手はすでに反対側で動き出していた。ブラジル・ワールドカップ後に取り組んでいる「早い動き出し」が上手く出たのでは?
 
「うん、そうですね。まあ満足できるものではないですけど、あのシーンに限っては、非常にいい形で反応できたんじゃないかなと。ただもっと反応しなきゃいけないシーンが、他にやっぱりあったんで。チャンスになってないところでも、反応していればチャンスになったなという場面がいくつか心に残っているんでね。良いところは良いところで続けるとして、でもやっぱり自分自身のビッグチャンスが少なかったですから。ビッグチャンスを増やしていけるように、良い動き出しを続けたいなと思います」
 
――開幕前のセスノック合宿では、コミュニケーションを取っていけば、選手の連係は絶対に良くなると言っていた。グループステージの3試合をやって連係はどう?
 
「あまり評価しすぎるのは良くないですけど、あの時の練習試合に比べると、明らかにこの数日間で良くなってきていると思います」
 
 3試合連続でゴールを決めているとは思えないほど謙虚な姿勢。意識して発言にブレーキをかけている。そんな印象を受けた。
 
「ここからはノックアウトのトーナメント。厳しい緊張感のなか、なにが起こるか分からない。先制されても2点奪い返せる攻撃のオプションを持っておきたいです」
 
 本田が意識的にブレーキをかけているのは、発言だけではない。チーム内における立場も、以前よりも一歩引いた位置を保とうとしているように見える。
 
 ヨルダン戦後、攻撃のオプションの話になった時のことだ。本田は落ち着いた口調でこう語った。
 
「全員と攻撃のオプションの話をしているわけではないし、あとは監督ともそういう話をしているわけではないんで」
 
 ザックジャパンの4年間を綴った『通訳日記』(矢野大輔著/文藝春秋社)によれば、本田はザッケローニ監督と頻繁に戦術について意見交換していた。だがアギレージャパンにおいては、チーム全体の戦術については干渉しすぎないようにしている印象を受ける。あくまで自分の仕事はゴールを決めることで、他のことは「ヤットさん(遠藤)やマコ(長谷部)に任せる」という感じだ。
 
 ただし、このやり方が正解なのかはまだ分からない。
 
 今大会中、本田が「それは大会が終わってから訊いてほしい」と口にしたのを何度か耳にした。きっと本人も手探りな部分があるのだろう。
 
 以前のように、本田は強烈な個性でチーム全体に影響を与えるべきなのか? それとも今のように仲間を信じ、自分の役目に徹するべきなのか? アジアカップのトーナメントが、その最初の答えを出す。
 
取材・文:木崎伸也(スポーツライター)