『相続百人一首 相続対策を短歌で学ぶ!』(文藝春秋)

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 百田尚樹『殉愛』(幻冬舎)騒動によって、あらためてスポットが当たっているのが、遺産相続の問題。故・高倉健の養女による遺産総取り報道や、昨年3月に亡くなった宇津井健も死去2週間前に結婚した新妻と息子のあいだで相続問題が勃発。そこに便乗してか、今春に復活する『渡る世間は鬼ばかり』(TBS系)も宇津井が演じた岡倉大吉の遺産問題をテーマにするらしい。ここまでくると下世話が過ぎる気もするが、遺産相続が世間のホットワードであることに違いはないだろう。

 このように遺産相続に注目が集まるのは、仕組みのわかりづらさにもあるはずだ。はたして遺産相続では、どんなことが問題になるのか。それをなんと短歌で(!)解説しているのが、先日発売された『相続百人一首 相続対策を短歌で学ぶ!』(森欣史/文藝春秋)だ。たとえば本書では、なんともタイムリーな、こんな短歌が登場する。

〈相続人 前妻の子と 後妻さん 考えただけで かなり揉めそう〉

 まるで、やしきたかじんの妻・さくら夫人と長女のバトルを意識したかのような短歌だが、著者によれば「この家族構成は遺産相続争いが起こりやすい典型的なパターン」だという。被相続人を男性と仮定すると、通常は"前妻との間に生まれた子と、再婚した妻がいる場合、相続人は子と後妻となり、法定相続分は2分の1ずつ"となる。しかし、「前妻と別れた理由が離婚か死別か」「前妻と別れてから後妻と再婚するまでの期間の長短」「その時の子の年齢」などが遺産相続にも影響する。とくに揉めやすいのは、後妻が「略奪婚」であったケース。さらに被相続人である父親の死亡時に子が未成年だと、本来なら相続権がない前妻が法廷代理人として加わるから、もう大変。前妻vs.後妻の遺産争い......リアル火曜サスペンス劇場のような修羅場である。

 また、気になるのは、〈財産を 相続させたくない人を 相続人から 排除できる?〉という短歌だ。

 これまた、さくら夫人は、"たかじんが娘には一切遺産を相続させないという旨の遺言状を遺している"と主張しているが、対して長女は「父親が正常な判断力を失った状態で書かされた」として無効の訴えを起こしている。だが、正常な判断云々の前に、血のつながった実の娘に一切相続させないということが可能なのだろうか。

 本来なら、この答えは"相続人から排除するのはかなり難しい"となる。相続人には「遺言の内容にかかわらず遺産の一定割合が保証される制度(遺留分)」があるため、遺留分減殺請求を行えば一定の割合は相続できる。実際、たかじんの長女もこの遺留分減殺請求を起こしている。逆に、相続から排除されるのは、「定職に就かずに反社会集団に加入し、重大な犯罪行為を繰り返して服役中の息子」や、「重病で入院中の夫を見捨てて年下の男と同棲し、看病も見舞いもしなかった妻」といったようなケースらしい。

 さらに、関西で連続して起こった"後妻業"事件でクローズアップされたのが、「公正証書遺言」。逮捕された筧千佐子容疑者の切り札は男性が遺した公正証書遺言だった。これは「遺言する人が、二名以上の証人の立ち会いの下で、遺言の趣旨を公証人に告げて、公証人に代筆してもらう遺言状」のこと。本書では「遺産を本人が望んだ人に迅速かつ確実に承継させるという点では、公正証書遺言が最も優れている」と書かれているのだが、無効となるケースもあるらしい。それは、〈遺言を 公証人が 読み聞かせ 本人はただ うなずいただけ〉という場合だ。

 じつは公正証書遺言の作成は、「本人自身、もしくは本人から依頼を受けた弁護士や行政書士が、その内容を事前に公証人と打ち合わせたりファックスでやりとりしたりして決めておくことがほとんど」で、作成当日は「公証人が、事前に準備しておいた遺言の文面を本人に読み聞かせて、本人がその内容で間違いない旨を口頭で述べ、その証書に本人、証人、公証人が署名押印」する。このとき、本人が言葉を発せられないような状態に陥っており、公証人が読み上げる内容にただ首を振って意思表示した場合は、遺言が無効になることもあるという。

 体力を奪って首を縦に振らせる......想像するだけでげに恐ろしい場面だが、もっとこわいのは、相続を有利な内容にするべく遺言書を書かせることだろう。

 しかし、これも本書には〈遺言を 無理に書かせた 人間は 相続権を すべて失う〉とある。具体的に挙げると、相続権を失うのは次のような者たちだ。

「遺言する人を騙したり脅したりして、自分に有利な遺言をさせた者」
「自分に有利な内容になるように遺言の内容を変更させた者」
「自分に不利な遺言がなされるのを妨害した者」
「自分に不利な遺言を撤回させた者」

 このほかにも、「自らの手で遺言書を捏造」したり、「本物の遺言書の内容を改ざん」「わざと破棄」「わざと隠した」場合も相続権を失う。こうした行為を働いた者がいれば、「なんら手続をしなくても」相続権を失うが、得てしてそういう人は「それはでっち上げだ! 自分には相続権がある!」と主張するもの。そうなると、裁判で決着をつけるしか道はないようだ。

 ドラマのように悪事が暴かれればいいが、現実はこれがなかなかうまくいかない。いま、世間を賑わせている芸能人たちの相続問題は、はてさて、どんなカタのつき方をするだろうか......。
(島原らん)