ショートショート作家・田丸雅智(写真左)とピース又吉直樹(写真左)によるトークイベント。テーマは「想像力と発想力の原点・考え方」

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「ショートショート大好きなんですけど、書評を書くのはめっちゃむずいですね。タイトルと設定は言っていいと思うんですけど、あらすじはもったいない。僕が田丸さんを紹介するときには人柄を書いたり、『可能性に満ちている』と言ってみたり。これのどこが書評やねん、という」

1月18日、ショートショート作家・田丸雅智と、読書家として知られるお笑い芸人又吉直樹ピース)のトークイベントが開催された。田丸は2014年3月に初の単行本となる『夢巻』を上梓。同年10月には第二作目となる『海色の壜』が刊行され、2015年にはすでに3冊の新刊刊行が決まっている。一方、又吉は初の純文学作品「火花」を月刊文芸誌『文学界』(文芸春秋)で発表。同誌は発売と同時に売り切れが続出し、創刊以来初めてとなる増刷が行われるという異例の事態となった(累計4万部!)。

二人の出会いは、田丸が初単行本『夢巻』を送ったのがきっかけだったという。
田丸「テレビで見て『この人、好きだな』と一方的にファンだったんです。一冊目が出るときにファンレターと一緒にお送りしたら、それを読んでくださっていた」
又吉「僕はショートショートが好きで、星新一さんの『ショートショートの広場』をずっと読んでいたんです。田丸さんの作品はショートショート本来の発想の面白さがありながら、現代的でもある。長編小説に匹敵するような読後感を与えてくれる作品もあって、これはすごいな、と」
田丸「ありがたいです」
又吉「ショートショートって発想の入り口が、お笑いと近いところがあるように思うんです」

■EVERNOTEにネタを集め、紙×手書きで発想を広げる(田丸)
アマチュア時代を含めるとすでに270編近い作品を書いているという田丸。どのようにアイディアを量産し、作品に昇華しているのだろうか。

田丸「普段から何か思いついたら、EVERNOTEにメモしておいて、原稿を書くときはまず、紙にメモを書き写します。そこから話をふくらませてものをワードで文字起こしをし、プロットを立ててから原稿を書きます。このとき、意識しているのは作品のなかにひとつの軸を通すこと。例えば、ふぐならふぐ、桜なら桜の特徴を自分が知っている限り洗い出して、物語にまとめていきます」
又吉 「海から連想することをぶわーっと書いていて、つながっていくの待つんですか。それとも、『これとこれは採用!』みたいな感じですか」
田丸 「後者ですね。書きすぎないほうがいいなと思ったところはあえて抑えることもあります」
又吉 「漫才もそうですが、説明しすぎたり、深追いしすぎると伝わらへんものも」
田丸 「とくに情緒系のお話はそうかもしれません。例えば、『海酒』という作品では“どういう海か”を説明しすぎないようにしました。作中に登場する海は、僕にとっては生まれ故郷の海ですが、別の人が読んだときは、その人にとっての海の情景が浮かぶといいなあと」
又吉 「そこが本の素晴らしいところですね。好きな小説が映画化されると、(なんでこいつやねん自分の主人公はこいつじゃなかった……)という思いがある。でも、それは映像がダメなんじゃなくて、人それぞれで見えてる景色が違う。本を読むのは自分との共同作業なんですよね」

単行本『夢巻』の表題作は、小学生の作文で作った葉巻--夢巻という単語を思いついたところからのスタート。一方、『海色の壜』収録の作品「O型免許」は運転免許センターで流れていたアナウンスを聞いて、ふと浮かんだアイディアがもとになっているという。
「すごいですね。どうやんねんやろ」と興味を示す又吉。「できますよ」と田丸に背中を押され、即興発想タイムがスタート。又吉が選んだお題は「パイプ椅子」。

「折りたためる」
「座れる」
「使い過ぎると斜めになって……でも、斜めになっているとは言いにくいから、斜めになってない顔で座ることが多い」
「舞台の下を開けると収納できるところがあって……」
と、特徴を挙げていく又吉。
パイプ椅子という単語からどこまで話がふくらませられるのか。その様子はこちらの動画でどうぞ。

■リアルな体験の断片を原稿用紙240枚に落とし込む(又吉)

一方、又吉は原稿を書くにあたって「プロットはほとんど立てない」という。今回の「火花」(原稿用紙240枚)もプロットはなし。

田丸「筆の動くままってことですか!」
又吉「頭のなかには断片的に、自分の体験談に似た風景があるんですけど、体験したこととまったく同じには書いてなくて……。同世代の芸人ならだいたい同じような経験していると思うんです。こんなことあるな、こんなこともあったなと」

執筆期間はわずか2カ月半。じつはお笑いコンビ「ピース」としてテレビで活躍する前から「小説を書いてみないか」というオファーはあったが、なかなか踏ん切りがつかなかったという。「『そのうち書きます』と言いながら、食事をご馳走になり、でも書かない。“いつか書く詐欺”みたいになっていた(笑)」と又吉は笑う。

又吉「いよいよ『書こう』と思ったとき、アホやら何人かの編集さんに同時に言ったんですよね。異なる媒体の……」
田丸「えっ」
又吉「文学界の場合は“できた作品が良かったら掲載”というお話だったんです。それは僕の希望でもあって。満を持して書いて載せてもらえへんというのも、それはそれでネタになるじゃないですか。でも、その前に書かなくてはいけない、よその原稿もあって、そうこうしているうちに9月半ばです。『今書けているところまでいいので読ませてください』と、文学界から安否確認が来まして……その時点でゼロ枚です」
田丸「ゼロですか!」
又吉「『来週ぐらいに一回持っていきます』と切り抜けて、これはヤバいぞと。最初の20枚ぐらいを書いて持っていきました」
田丸「すごいですね。他の作家さんのインタビューを見てもみなさん『“書き始めると、物語が勝手に動いていく”というのは、一部の天才タイプだけ』とおっしゃってますが、又吉さん、その天才タイプってことですよね。
又吉「芸人だからじゃないですか。コントの作り方がそうなんですよね。1時間のライブでも構成作家が前に座って、メモっておいてくれへんていってしゃべりだすんですよ
田丸「いや、あの作品をプロットなしで書くのはすごいことです。要所要所に盛り上がるというか、おさえどころがあって、引きずりこまれる。文学界が発売されてすぐ読んだんですが、あまりに興奮してしまい、ちょっと時間をおいてから感想を送ったぐらい」
又吉「その場に行かないと書かれへんというようなところはあるんですよ。今回の作品でも、お酒を飲む場面を書くために、吉祥寺の飲み屋に一人で行ってパソコンを広げて、徐々にに酔っていく自分の感覚を書いていったり。寝て起きて読んでみたら、ぜんぜんおもろなかったですけど(笑)」

人によって書き方はまるで違う。しかし、「自分で書いてみると、小説がもっと面白くなる」と又吉は語る。又吉が初めて小説を書いたのは18歳のとき。長編小説のつもりで書き始めたが、いざ書いてみると原稿用紙10枚足らずであっけなく終わったという。

又吉「読み返してみると、単なるあらすじみたいになってたんですよね。小説ってどうなってたんやっけと思いながら読んだ次の瞬間から、読書が変わりました。一行目からめっちゃおもしろくなった。以来、今日に至るまで、本を開く瞬間からワクワクしてます。みなさんもよかったらぜひ書いてみてください」
田丸「ショートショートなら短いですし、すぐ書けますよ(笑)」

2月7日(土)には田丸雅智の作品「海酒」(『海色の壜』所収)にちなんだカクテルを登場するトークイベントが開催される。
(島影真奈美)