画像を拡大 NHKの給与明細

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普段は看板や商品でしか知りえぬ大企業。しかし、たった1枚の紙片から、そこで額に汗する無名の人々のナマの息遣いが伝わってくる――。(※各明細は一部加工してあります。)

■“発言問題”で「また削られそう」

「あの案件で、取材先に『安倍政権の広報機関に話すことは何もない』と言われたりします」――そう嘆くのは、NHKの番組制作現場で働くディレクターだ。

2013年4月、NHKでは役員の年間報酬を最大で前年度比3%カット。職員の基本給を段階的に削減し、2017年度をメドに1割減らすことで労使合意している。そこへ出てきたのが、籾井勝人新会長の従軍慰安婦に関する発言問題だ。

「経営側の『これで削減は終わりになる』という言葉を信じたのに……。また懲罰的に削られそう」(同)

やってられんよ、というボヤキもわからなくはない。社員食堂で大河ドラマの甲冑姿の武将とも席を並べるいかにもな職場環境だが、東京・渋谷から徒歩圏内に住むことが番組制作上必要だという。

独身で月5万5000円、既婚者なら9万円の給付が付くものの、無理して確保した住居の費用はやはり大きい。「しかも、地方局時代に買った車のローンがまだ残ってる」。地方取材で車は絶対必要なのに、なぜ自腹? と嘆き節は続く。

「民放に比べたら、明らかに(年収は)低い。番組の質で負けていることはありえないのに、矛盾を感じます。人付き合いもどんどん増えていくから、生活はずっと苦しいままでしょうね。給料の前借りもしました」

2014年2月、大雪で多くの車両が立ち往生した中央自動車道のSAで、積み荷を周囲に振る舞った山崎製パンの運転手がSNS上で絶賛された。

「実は、あれにはちょっと困ってて……以前の新潟の集中豪雨の際にも同じことはあったんですが、今回だけ報道されちゃった」と、同社の50代前半の正社員は苦笑する。

「また同じ状況に陥ったとき、(パンを配るか否かの)判断は難しい。車が看板を背負ってる宿命で、普段からささいなことでクレームがたくさんあるし……。佐川さんとかヤマトさんも同じだと思います」

次に被災したとき、同社トラックに群がる他の車の運転手が「今度はくれないのかよ!」とねだる光景を想像したくはないが……。

「3.11の際、一番大変だったのは原材料の手配。(小麦)粉やバターは何とかなったんですが、包装紙やジャム、ちょっとした具材が足りなくなった。東北に出す際は、つくるものを絞って効率を上げました」

その東北に、80代の父親を残している。「元気ですよ。ちょっと耳が遠くなったくらい。人に紹介された一回り以上下の女性と同居しています」。妻の両親は健在で、近隣に住む実兄が面倒を見るが、「2人が1人になったらいろいろ考えないと」と話しているという。

■年上の介護士妻と結婚1年で死別

逆に、「まったく身寄りがない」という40代半ばの男性は都内の老人ホームに派遣社員として勤務。フロアの男性10人、女性30人を男女2〜5人でケアする。「人数は法律で決められた通りだけど、事務職の人が介護を兼任させられてる」。

夜中に認知症の老人が何度も鳴らすナースコールが。「わがままな人もいます。でも、最大で3000万円の入所金をいただいてるお客様だから、強くは出られません」。

現在の税込み年収は230万円だ。

「ハードワークですよ。でも、1円も昇給してないのがつらいし、賞与なんてまれ。あのアクリフーズの阿部さん(利樹容疑者、冷凍食品工場で製品に農薬を混入し逮捕)の気持ち、わからなくもないです。手当を削られるなんて、冗談じゃないよ」

大卒後、郵便配達を約10年。「配達先でも小包の営業活動をさせられ、時間とノルマに追われる毎日。自腹で小包を買ったりしていた」。

税込み500万円強の年収を捨て、36歳で思い切って退職。「これからの仕事だと思って」介護の道へ。同じ介護士で一回り年上のバツ2女性と結婚。しかし、不幸にして1年後、肝硬変で死別したという。

「結婚を反対した親類とは縁が切れました。私も連れも両親はすでに他界。向こうの兄弟とは連絡がつきません。一人っ子だし、今は天涯孤独の身です。きついです。付き合ってる女性もいないし、今の職場で見つけるのは難しそう。正規の職員を目指してますが……不安ですよ。ホームレスになるのが怖い。引き取ってくれるところがあればいいけど」

■食品偽装問題では嫌われ役に徹した

三越伊勢丹勤務の40代前半男性も、高校生のわが子を私立高に通わせる。彼が居を構える地域は、近隣小学校の生徒の半分が中学受験を試みるという土地柄だが……。

「偏差値より好きな部活動が活発か否かが決め手でした。中・高生活はやはり部活が中心。そこで体力さえつけておけば、受験は何とかなる」

昼間は催事の行列の整理や案内など立ちっ放しの仕事が多く、「ふと気がつくと午後3時」の毎日だが、研究熱心が高じてか、「休日に家族で繰り出す先は、ライバル百貨店の催事場(苦笑)」だという。

2013年の秋、一連の食品偽装表示では同社の名も。「乗り込んでくる客もいれば、『そちらは被害者』と言ってくれる客も。ただ、やはり自分たちで売った商品。担当者は国産か否か等々、食材の徹底チェックを業者に要求、嫌われ役に徹しています」。

景気変動だけでは推し量れぬ十人十色の営みは、やはり面白い。

(西川修一=文)