第46回:新たな目標

2015年の初場所(1月場所)が始まった。
注目は、横綱が史上最多となる、
通算33回目の優勝を成し遂げるかどうか。
その偉大な記録への正直な思いを、
横綱が語る――。

 大相撲初場所(1月場所)が、1月11日から両国国技館(東京都)で開催されています。

 初場所が開催されるのは、お正月のすぐあとということもあって、例年観戦にいらっしゃるお客さまの姿は和装の方が目立ち、会場はとても華やいだ雰囲気になります。今年もそうしたムードに変わりはありませんが、例年以上の熱気を感じています。

 昨年、おかげさまで私は5度の優勝を果たし、九州場所(11月場所)では昭和の大横綱・大鵬関(1960年代から1970年代前半にかけて活躍した第48代横綱)が持つ、通算優勝32回という記録に並ぶことができました。また一方で、逸ノ城や遠藤という若きスターが登場し、相撲界全体の注目度がアップしました。その結果、本場所はもとより、地方巡業においても、会場はどこも満員という盛況ぶりでした。そうした、相撲界に吹いた"いい風"が今年も続いているのでしょう。

 この初場所、国技館は10数年ぶりに初日から満員御礼が続いていますし、その活気は「『若貴ブーム(※)』の頃のようだ」という声も聞かれます。そんな状況にあることは、非常にうれしく、感動さえ覚えます。同時に、驚きでもあります。そのため、やや戸惑いの日々ではあるのですが、この相撲界のいいムードをこれからも継続できるように、我々力士は一層精進して、ファンのみなさんに喜んでもらえる相撲を精一杯取っていきたいと思います。
※1990年前半、元大関・貴ノ花(二子山親方)の息子である、兄・若花田(のちの若乃花)と弟・貴花田(のちの貴乃花)が、ともに若くして活躍。その兄弟の奮闘ぶりがメディアを騒がせ、ファンの熱狂を呼び込んで、相撲界に一大ブームを起こした。

 さて、昨年末は何かと慌しく過ごしてきましたが、所属する宮城野部屋恒例の餅つきを終えたところで、私も休暇に入りました。そして、一昨年も訪れた沖縄に家族みんなで行ってきました。

 沖縄では、暖かな日差しの中、久しぶりにゴルフをしたり、夜は沖縄料理を堪能したりしていました。強めのお酒もたしなんで、とてもリラックスした時間を過ごすことができました。

 また、6年ほど前に巡業で鹿児島や沖縄の離島を回ったことがあるのですが、そのときに立ち寄ったお店に、今回6年ぶりに行ってみました。すると、6年前に書いた私のサインがまだ店内に飾ってあったのです。「大切にしてくれていたんだな」と思って、なんかすごく感激しましたね。それでうれしくなって、そこではかなりお酒を飲んでしまいました(笑)。

 以前から感じていることですが、沖縄の人のスピリットは、モンゴル人のそれに近いものがあります。熱い血が流れているというか、人をもてなす流儀などが、なんとなく似ているんです。

 沖縄民謡に代表される音楽もいいですよね。あれを聞くと、モンゴルのことを思い出したりするんですよ。ちなみに、沖縄県出身のバンド、BEGINの「三線の花」は、カラオケで歌う私の十八番です。

 何はともあれ、プロスポーツ選手は、体を休めることも大切だと、私は常々思っています。横綱になって7年半が経ちますが、この間、私が一度も休場していないのは、オンとオフの切り替えができているからではないか、と思っています。というよりも、そのように務めている、といったほうが正しいかもしれません。

 実際、今回も短い時間でしたが、休暇をとってしばし相撲から離れたことで、「よし、今年もがんばろう!」という気持ちになりました。スポーツに限らず、仕事などもそうだと思うのですが、全力を尽くして、最大の成果を挙げるためには、休むことも大事なのではないでしょうか。

 こうして迎えた2015年、1月3日から稽古が始まりました。スローペースながら、自分なりにしっかりと体を作っていましたが、その際、メディアの方などに「2015年の目標は?」と問われることには、ちょっとだけ苦痛を感じていました。というのも、通算32回目の優勝は、心身すべての力をつぎ込んで手にしました。だから本音を言えば、その戦いが終わって、もう次の戦いが始まってしまうのか......という思いもあったんです。それで、いきなり次の目標を聞かれても困るというか、「ちょっと考えさせてほしい」というのが正直なところでした。

 けれども、そんな気持ちが、一門の連合稽古に参加したり、出稽古に行って若手力士の相手をしたりしているうちに、徐々に変わってきました。

 史上最多の69連勝の記録を持つ、角聖・双葉山関(1930年代から1940年代前半にかけて活躍した第35代横綱)は、年2場所の時代に通算12回の優勝を遂げました。それを抜いたのが大鵬関なのですが、13回目からの優勝はまさに未知の世界。そんな誰も歩んだことのない道を、大鵬関は32回という数まで歩み続けたわけです。そのときの気持ち、心と体の持ち方は、大鵬関にしかわからない部分でしょう。

 私はたまたま大鵬関の記録に並ぶことができましたが、その心持ちは到底知ることはできません。しかし、あと2、3年がんばって、さらに優勝を積み重ねることができれば、少しくらいは大鵬関の気持ちがわかるようになるのだろうか――今は、そうした思いが強くなっています。できることなら、大鵬関が感じたもの、大鵬関にしか味わえなかったことを体感してみたいな、と思っています。

 ところで、初場所が終わると、私には楽しみなイベントが待っています。今年で5回目となる少年相撲大会「白鵬杯」が2月1日に両国国技館で開催されるのです。

 今回は、従来の日本やモンゴルなどに加えて、オーストラリア、ブルガリア、エストニア、アメリカなど、計8カ国からエントリーがあって、およそ800人の子どもたちが参加予定です。彼らがどんな相撲を見せてくれるのか、今からワクワクしています。

 子どもの相撲は、筋書きのないドラマというか、予想もしないような展開が見られて、本当に面白いんですよ。個人戦の他、国別の団体戦も行なわれるのですが、これがまた、非常に見応えがあります。

 翻(ひるがえ)って、「白鵬杯」の参加選手から、少しずつ新たな芽が出始めています。この初場所で、18歳の若さで十両に昇進した阿武咲(おうのしょう)が、そのひとりです。

「白鵬杯」で活躍したのは、青森県の中学校時代。当時から思い切りのいい相撲を取る、元気のある少年だな、と注目していました。するとその後、高校1年生のときに国体で優勝。その実績を引っ提げて、すぐに相撲界に入門しました。しかしそれから、わずか2年で関取になるとは......私の想像をはるかに超えていましたね。

 勝負根性もあり、なかなかの器の持ち主です。近い将来、遠藤や逸ノ城のような、次世代を担う力士になるのではないか、と期待しています。が、私もまだまだ彼らには負けてはいられません。まずは、一年の最初の場所である初場所に全力を注ぎ、みなさんに新たな記録をお見せできればと思っています。そして今年も、大きな夢を持って、全力で相撲に取り組んでいくつもりです。

武田葉月●構成 text by Takeda Hazuki