「イリーナ・スルツカヤの演技を見るのはトリノ五輪以来だな」「キミー・マイズナーが世界選手権で優勝したのは9年前か......」

 さまざまことを懐かしく思い出す大会だった『メダルウィナーズオープン2015』。プロスケーターとして活躍する五輪や世界選手権などのメダリストたちが競演し、一夜限り競技者に戻るISU(国際スケート連盟)公認の大会が3年ぶりに開催され、男女各6選手が出場した。

 この大会の採点は通常の試合とほぼ同じスタイルだが、より表現力を重視している。また、小物や照明での演出が可能だ。

 男子は激しい上位争いになった。2番滑走のジョニー・ウィアー(アメリカ)は転倒したとはいえトリプルアクセルに挑戦する気迫を見せ、続くジェフリー・バトル(カナダ)はジャンプでミスが出たものの、キレとメリハリのある大きな滑りで、技術の高さと表現力の素晴らしさを発揮した。

 そんななか、存在感を見せたのが5番滑走の織田信成だった。

「今も関西大学の練習場を使わせていただいていて、練習時間もたくさんとれる環境にいる。現役の選手と一緒に練習することも多く、宮原知子選手などの頑張る姿勢をみて刺激を受けている」

 そう語った織田は、冒頭の4回転トーループ+3回転トーループを現役選手顔負けの完璧さで成功。続くトリプルアクセルは着氷で乱れ、後半の3回転ルッツは転倒するミスも出たが、85・15点でトップに立った。

 織田の演技を見て闘争心に火がついたのが、最終滑走のエフゲニー・プルシェンコ(ロシア)だった。「11カ月間休養していたので試合の感覚を忘れていたが、この大会に出場して、やはり自分は戦うことが大好きなのだということがわかった」と話す"皇帝"は、最初のトリプルアクセルをきれいに決めると、次のトリプルアクセル+2回転トーループも成功。スピードのある滑りで観客を熱狂させ、86・95点で優勝した。

男子順位
1位 エフゲニー・プルシェンコ(ロシア)...2002〜2014五輪4大会連続メダル
※ソルトレイク・銀、トリノ・金、バンクーバー・金、ソチ・団体金)
2位 織田信成(日本) ...2006年四大陸選手権金メダル
3位 ジェフリー・バトル(カナダ) ...2006年トリノ五輪銅メダル
4位 ジョニー・ウィアー(アメリカ) ...2008年世界選手権銅メダル
5位 エバン・ライサチェク(アメリカ) ...2010年バンクーバー五輪金メダル
6位 本田武史(日本) ...2002、2003年世界選手権銅メダル

 女子では、5番滑走のジョアニー・ロシェット(カナダ)が、気合いの入った滑りでパーフェクトの演技を披露し、64・67点の高得点でトップに立った。その後に、13年12月の全日本選手権を最後に引退した安藤美姫が最終滑走者として登場した。

「今までとは違った印象の演技を見てもらいたかった」と言う安藤が選んだ曲はショパンの『バラード4番』。伸びのある滑りで、3回転サルコウ+2回転トーループは成功したが、続く3回転ルッツは回転不足で転倒。スピンを丁寧にこなした後、コレオシークエンスに入ってステップに移ろうとした瞬間、スケートの後ろ側が氷に引っかかって転倒するミスをしてしまった。

 結局、安藤の得点は54・10点でロシェットとサラ・マイヤー(スイス)に次ぐ3位だった。

女子順位
1位 ジョアニー・ロシェット(カナダ) ...2010年バンクーバー五輪銅メダル
2位 サラ・マイヤー(スイス) ...2011年欧州選手権金メダル
3位 安藤美姫(日本) ...2007、2011年世界選手権金メダル
4位 ラウラ・レピスト(フィンランド) ...2010年世界選手権銅メダル
5位 イリーナ・スルツカヤ(ロシア) ...2006年トリノ五輪銅メダル
6位 キミー・マイズナー(アメリカ) ...2006年世界選手権金メダル

「最初は柔らかい滑りから入って、最後は盛り上げて力強く、ひとつの女性像を表現したいと(振り付けの)デイビット(・ウィルソン)と話していました。ここから盛り上げようといういちばんのお気に入りのステップで転んでしまった。リベンジしたいので、ショーで滑ることができればと思います」

 試合後、そう語った安藤は悔しそうな表情を見せた。

 久しぶりの試合形式の滑りで、どの選手も「楽しかったが緊張もした」と話していたこの大会。

 安藤は「ジャッジが採点する試合であると同時に、照明で幻想的な空間を作った中で演技もできる、フィギュアスケートの魅力が詰まったエンターテインメントの大会」と表現していた。また、競技という点から、安藤が今回一番迷ったのが、「ルッツを入れるかどうか」だったという。

「日本ではアイスショーが多いので、現役時代からエンターテイナーとしていろんなことに挑戦する経験はしてきています。ショーでの滑りは表現者としてメッセージを伝えることが大きな目的ですし、プロは失敗なくこなすのが義務だと思っています。今回はショー的な要素がありながらも、試合という気持ちの方が大きかった。だから、ジャンプの難度を落として簡単にするのではなく、(難しい)3回転ルッツを入れて挑戦する姿を観客のみなさんに見せたかった。この大会を経験させていただいて、これからはショーでもルッツを入れていきたいと思いましたし、プロとしてさらに技術を上げていこうという気持ちになりました」

 安藤にとって今回の大会は、今後アイスショーで難度の高いジャンプを加えていくモチベーションになったようだ。

 試合という場だからこそ表に出てくる、彼らの競技者としての向上心。それが、今後彼らが出演するアイスショーの質をさらに上げていくことになり、その流れがフィギュアスケート界全体のレベルアップにつながっていくはずだ。

 プロスケーターたちの一夜限りの競演は、彼らのアスリートとしての本能を目覚めさせるとともに、フィギュアスケートの魅力を十分に伝えてくれるものだった。

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi