『流星ワゴン』(重松清著・講談社刊)。TBS日曜劇場でドラマ化され、2015年1月18日より放送スタート

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今夜18日(日)よる9時からスタートするドラマ「流星ワゴン」(初回は2時間スペシャル)。
原作は直木賞受賞作家・重松清の同名長編小説です。
2002年に刊行され、累計発行部数110万部を超えるベストセラーとなった。
先日、都内で完成披露試写会が開催。サザンオールスターズが歌う主題歌「イヤな事だらけの世の中で」が流れるだけで、もう泣きそう。もちろん、内容も!
というわけで、原作をおさらいしながら、ドラマの見どころを挙げていきます。

原作で描かれるのは「父親と息子」という関係性の断絶と再生。本書には3組の父と息子が登場します。

●主人公・一雄と息子・広樹
主人公・永田一雄は30代後半の会社員で、同い年の妻と中学一年生の息子と三人暮らし。家族を最優先に生きてきたという自負とはうらはらに、息子が突然荒れ始め、妻も不自然が外出や外泊が増えるなど、挙動不審。さらに突然、会社からリストラを言い渡されるという、踏んだり蹴ったり。どんどん追い詰められていきます。

●主人公・一雄と父・忠雄
裸一貫から事業を興し、一代で財をなした父親を、一雄は嫌っています。家業を継がず、郷里を離れ、東京に就職したのも、父親から逃げるためでした。親子の確執は解消されないまま、父親は余命いくばくもない状態で入院中。父親に対するわだかまりを抱え続けながらも、一雄は「御車代」欲しさに、せっせと父親の見舞いに通っています。

●“橋本さん”と息子・健太
信州の高原をドライブしていた3人家族が乗ったワゴン車がトラックと正面衝突し、母親は一命をとりとめるが、父親と息子は即死。その事故を引き起こし、息子・健太を死なせてしまった父親が“橋本さん”。幽霊になった今も息子の健太くんとワゴンに乗り、旅をしています。

今夜、死んでしまいたい。そう思いながら、ぼんやりとたたずんでいた一雄の目の前に、“赤ワインような色をした古い型のオデッセイ”が停まります。一雄は誘われるままに、橋本さん親子とともにワゴン車に乗り込み、過去にタイムスリップ。「どこで選択を誤ったのか」を探り、人生をやり直す旅に出るという設定。

重松清は「文庫版のためのあとがき」のなかで、こう語っています。
《「父親」になっていたから書けたんだろうな、と思う自作はいくつかある。『流星ワゴン』もその一つ--というより、これは、「父親」になっていなければ書けなかった。そして「父親」でありながら「息子」でもある、そんな時期にこそ書いておきたかった》

今回のドラマで、息子を心配する父親であると同時に、父親へのいらだちやコンプレックスのような感情を抱く息子でもある主人公・一雄を演じるのは、西島秀俊。原作のイメージからすると、ちょっとかっこよすぎるかなと思ったけど大丈夫。ちゃんとしょぼくれていました。しょっちゅう泣くし、目も血走ってるし、情けない言動オンパレード。ヘタレバージョンの西島秀俊を堪能できます。

うまくいっていない妻・美代子を演じるのは、井川遙。原作ではやや存在感が薄く、どちらかというと平凡な人妻の隠された欲求が大爆発! な雰囲気がありましたが、ドラマでは美人度も妖艶度もアップ。男と腕を組んで歩いていても、良き妻然としてキッチンに立っていても隠し切れない人妻エロス。回を増すごとにパワーアップしていくのか、原作とは違う“裏切り”が描かれるのか、あれこれ妄想をかきたてられます。

吉岡秀俊演じる、幽霊の“橋本さん”という役どころもぴったり。
「私ね、もともと子どもの頃から不器用だったんです」
「申し訳ないと思ってます。父親失格ですよね」
「おかげで運転はすっかりうまくなりましたけどね」

飄々とした語り口があまりにもハマっていて、原作を読み返していても、吉岡秀俊の声に脳内変換されるほど。明るいけどはしゃぎすぎず、淡々としながらクスリと笑わせる、独白芸がたまりません。

そして、主人公の父親・忠雄を演じるのは、香川照之
原作によると、
《昔から短気なひとだった。せっかちなだけでなく、すぐにカッとなって、カッとなるとすぐに拳が出てくる》
《大柄な体格を周囲に見せつけるように、いつも胸を張り、肩を持ち上げ、ズボンのポケットに両手を突っこんで歩いていた》
《世の中で正しいのは自分だけだ、強いのは自分しかいない、と身振りで示しながら町を歩く父が大嫌いだった》
という、たいがいなキャラ。すぐに怒鳴りちらすし、ガサツだし、所構わず立ち小便までしちゃう。じつに身勝手でサイテーだけど、どうにもチャーミングな濃ゆい男を演じさせたら、香川照之の独壇場。切れ味抜群の飛び蹴りにも注目です。
(島影真奈美)