――偶然にも、今作の『幸せについて私が知っている5つの方法』がオープニングテーマに起用されているアニメ『幸腹グラフィティ』と、同日に発売されるエッセイ『満腹論』が“腹”繋がりですが、“食事”と“幸福”の関係性についてどのようにお考えですか?

坂本:食べることが好きだからこそ『満腹論』というタイトルの本を書いたんですけど、食べることは一番手っ取り早く人間が幸福感を感じる方法だと思います。動物は皆、食べないことには生きていけない訳で、好きでも嫌いでも、誰もが通らなければならない道だから、食が楽しい方が、人生が楽しいと思いますね。

大げさに言うと生き方に通じてくるというか、食を大事にすることは、自分を大事にすることだと思うんですよね。体に良い物を食べたり、気持ち良いと思える場所で食べたり、笑顔で誰かと一緒に食べたり、そういう時間を作ったり。自分を大事に出来るかどうかって、実は食に現れる部分もあるんじゃないかと思って。『満腹論』を書いて7年目で、食を通して“価値観”と言うと大げさですけど、自分の生活の中で色々と通じる所に目を向けて書いてきたんです。

全く偶然にも関わらず、今回同じタイミングで『幸腹グラフィティ』というアニメに出会って。原作は、ひたすら美味しそうな物が出てくる4コマ漫画なんですけど、主人公はずっとお婆ちゃんと暮らして教わった料理を作ってきて、今までは美味しかった料理が、お婆ちゃんが亡くなって自分一人のためだけに作ったら不味くなったという。そのことに危機感を感じて、誰かに食べさせたいという想いで、人間関係を育んでいくんです。

私も料理が好きでよく作るんですけど、自分のためだけに作ると、いつも通り作ってもどうも味気ない物しか出来ないんですよね。精神的なものなのか、一人分だと量が難しいとか物理的なものなのか分からないんですけど、すごく共感できたんです。

結局、食べるということは、栄養素を摂ったり、おなか一杯になるだけじゃなく、何を、どんな風に食べるかが大事なんだなと。食事の時間が充実してたなと思うことで幸せになったり、頑張ったからご飯が美味しいとか、色んな捉え方があると思うんですけど。味覚は人それぞれだし、どんな高級品でも嫌いな相手と食べると不味いかもしれないし、曖昧なものだと思うんですよ。だから、味がどうこうより、何をどうやって食べるかを大事にできる人生は、きっと幸福に繋がっているに違いないと思います。

――歌詞に「美味しい時は 美味しいって言おうよ」とありますが、気持ちを言葉にして伝えることの大切さを痛感しますね。

坂本:本当にそうですよ! どなたか作ってくれる方がいたら、毎日用意されていることが当たり前になっちゃって、「美味しい」って言わない日もあったり、「そんなの簡単じゃん」って思う人もいると思うんですよ。でも、年齢を重ねてみると、そんな単純なことがなぜか難しいと感じる瞬間があったり、大人ほど簡単なことを複雑にしてしまう人や、複雑にせざるを得ない状況ってあると思うんですよね。この曲は、そんな大人が聴いて、自分にとって何が本当に幸せなんだろう? と考えさせられる曲だと思います。

――先程、自分で曲を作るとキーが低いという話もありましたが、真綾さんの曲はキーが高い曲も多いですよね。この曲の大サビも結構高い気がしていて、下げようとは思わなかったんですか?

坂本:Rasmus Faberという曲を作ってくれた人は元々、私の曲を聴いてくれてた方で、今回で何度目かなんですけど、最初に作ってくれてたキーは、半音下だったんですよ。

――えっ、逆にキーを上げたんですか!?

坂本:そうなんですよ(笑)。幅がある曲なので、サビに一番気持ちいい所がくるには、って色々試してここに落ち着いたんです。次の曲の『色彩』もすごく高くて、私だったら明らかにこんなキーは作らないんですけど(笑)。それはそれで、人に作ってもらって楽しい部分でもあるし。もちろんボーカルは大事なんですけど、『幸せについて私が知っている5つの方法』に関しては全体で世界観を作っているような曲なので、ボーカルがある種楽器に徹しているというか、高くても張り上げて歌うような曲ではないので。私自身の体感的には高い、苦しいというキーではないんですよね。