『聞き出す力』(日本文芸社)

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 日本初(?)のプロインタビュアーとして、雑誌やラジオ、最近ではテレビでも人気の吉田豪。入念な下調べによって数々の著名人たちの意外な素顔や驚愕の発言を引き出す仕事ぶりで、「(噂は)吉田豪が裏をとる」(©大森靖子)とまで言われるほど。

 そんな吉田豪が、昨年末、ついに初のインタビューの心得をまとめた『聞き出す力』(日本文芸社)を上梓した。阿川佐和子のミリオンセラー新書『聞く力』(文藝春秋)に丸乗りした商売っ気が露骨すぎるタイトルだが、しかし中身は期待を裏切らない、インタビュー術とともにタレントの裏話が満載のお得な一冊だ。

 プロインタビュアーとして名を馳せたがために、取材前から樹木希林に「あなたは本人よりもその人に詳しいそうだから楽しみにしてます。私が知らない話が出てくるのを」と言われたり、インタビュー開始1時間を経て「私の知らない話がまだ出てこないんだけど?」とプレッシャーをかけられたりしたという苦労話は有名だが、これは相手が相手なだけに、ふつうは吉田の追及に戦々恐々とする人も多いはずだ。たとえば、触れられたくない話題をぶっ込まれて記事のカットを懇願したのは、あの江頭2:50。

 吉田が江頭への取材でツッコもうと考えたのは〈江頭さんがああ見えてスタイルもいいし私服のセンスもいいしで実はモテるらしいという疑惑〉。そこでインサイダー情報を元に、とあるグラビアアイドルと付き合っていた過去について探りを入れるのだが、江頭は「え? え?」と狼狽。吉田の発言を遮って一方的に吉田を持ち上げはじめたという。そして、「なんでこんな話をするかわかりますか?......さっきの話は載せないでほしいんですよ!」と直訴したらしい。被災地への物資運搬話と同様に〈実は美女にモテるというエピソードは芸人として人を笑わせる上でマイナスだと判断したわけなのだろう〉と吉田は推測するが、こうして江頭は実際モテるということが明らかになってしまったわけだ。

 褒め殺しでその場を凌ごうとした江頭はじつに微笑ましいが、問題はインタビュー相手を怒らせてしまうこと。だが、吉田は〈相手から怒られるくらいのことを聞く覚悟が必要〉というだけあり、相手が誰であろうと果敢に切り込む。その最たる例が、業界内で「インタビュアー泣かせ」の異名をもち、〈どんなに仲のいい相手との対談でも三十分で飽きるとの伝説〉まである元AKB48・前田敦子だ。新曲プロモーションの取材の席で、関係者から何度も「もっと新曲の話をして下さい!」と怒られつつもアイドルビジネスの話を振りつづけ、さらに「アイドルをやるのって大変じゃないのか」と問うたのだ。

 が、当の前田は「いや、アイドルになることが一番楽だと思います。(中略)アイドル自体は誰でもなれるし簡単だと思います」と、達観しすぎる返答。その上、前田が絶頂期に見せた不安定さを心配して秋元康にメンタルケアの必要性を迫った人物の話をしても、〈「えーっ? 秋元さんにそんなこと言ったんですか? 変わってますねー(笑)」と鼻で笑う始末〉だったらしい。ちなみにこの取材時、前田が「ちゃんと読んだ本はあれが初めてで、あれ以来読んでないです」と言ったのは、水道橋博士の『藝人春秋』(文藝春秋)。サインまでもらった町山智浩の本は「あれ、読んではいないんです」と答えるなど、そのマイペースぶりには吉田も、
〈空気を読みすぎるぐらい読む指原莉乃と、全く読まない前田敦子。その両極端などちらも秋元康が面白がる気持ちはわかるけど、インタビューする上では圧倒的に指原がやりやすかったのは事実。結論。前田、最強!〉
 とまとめている。

 逆に、インタビュー相手と大いに盛り上がっても、関係者が記事にダメ出しするケースもある。たとえば、吉田が〈とある美容&ファッション系の女性誌〉でインタビュー連載をやることになったとき、第一回目のゲストとして登場したモデルの平子理沙の場合。まず、彼女の過去の音楽活動の素晴らしさを吉田が伝えたところ、「今からレコード会社の前の担当者に会って、また音楽をやりたいって言ってくる!」と言い出すほどに平子は気をよくしていたようなのだが、〈ブログにフリーメイソンの墓のことやフォトンベルトのことを書いてたりの陰謀論&超常現象的な話〉まで話題を掘り下げたのがよくなかったのか、〈原稿チェックに出したら大変なことに〉なってしまった。結局、大幅な手直しを余儀なくされ、前後編の後編は掲載不可になってしまった挙げ句、〈連載はこれ一回だけで終了!〉となってしまったという。これは吉田にも平子にも罪はなく、編集サイドのヘタレっぷりが露わになったエピソードだろう。

 余談だが、このとき平子は〈携帯の番号を書き加えた名刺〉を吉田に渡したほどで、吉田本人も〈夫である吉田栄作よりも話が合ってる気がするほどで、これは何かの間違いでも起きるんじゃないかと思えるぐらいだった〉らしい。同様に、さとう珠緒にも「吉田さんのことがもっと知りたい!」「今度、飲みに行きましょうよー!」と誘われたというが、このおいしい誘いには乗ることもなく、取材後にデートしたのは米良美一だったそう。インタビュアーのなかにはアイドルやタレントを口説くことばかり考えていそうな人間もいるが、〈誰でも誘ってそうなさとう珠緒よりも、めったに人を誘うことがなさそうな米良さんのほうが貴重だし!〉と言い切るあたり、さすがは吉田豪である。

 このように、インタビューの極意を知ることができるばかりか、著名人の裏話が尽きない本書。だが、そんななかでもっとも興味深いのは、芸能人ではなく、著者である吉田豪本人のエピソードだ。

 時は遡って彼が専門学校生だった時代、吉田青年は喫煙所で会う掃除のおばちゃんの愚痴話を聞いているうちに学長の愛人話をキャッチ。「これは面白いことになってきた」と思い、教師にも愚痴を聞いてみたところ、「学校案内のパンフに載ってる体育館、あれ本当はないんだよ」「学長が脱税で二度逮捕されてる」といった情報が出てきた。さっそく裏を取るべく図書館に行って新聞をあたったら〈無事に二回分とも脱税記事を発見!〉。そして、吉田青年はこの調査結果を専門学校の卒業制作に。なんと、学校の暴露本を卒業制作にしたのである。これはなんともすばらしすぎる作品だが、しかし、これまでは卒業生の作品は上野の森美術館に展示されるシステムだったのが、この年から代表者のみの展示となったらしい。もちろん、そんなことに怯まない吉田青年は〈その暴露本を勝手に美術館に展示してくるというテロを仕掛け〉たという。

 吉田豪いわく、〈自分がインタビューのプロを図々しくも名乗れるポイントがどこにあるのかというと、技術的なことがどうだとかいうよりも、どんな危機的状況でも動じず、流れに身を任せることができるのが大きいんじゃないかと思っている〉というが、それを可能にするのは、自分がおもしろいと思うことを人に伝えることへの並々ならぬ貪欲さがあるからだろう。本の帯には仰々しく《対人関係・人間力の磨き方のヒント》と銘打たれているけれども、たしかに『嫌われる勇気』などの自己啓発本を読む時間があるなら、こっちのほうがよほど人生に効きそうだ。
(サニーうどん)