「佑都くんや篤人くんの凄さは、僕が誰よりも一番知っています。目標だし、追い越したい。でも同時に、僕は『酒井高徳だ』とも考えています。ふたりにはない僕の良さで負けるわけにはいかない。ずっと、ふたりが試合に出ているのをベンチで眺めてきました。でも、いつまでもそういう立場ではいけない。強い国、強いチームは、どんどん若い選手が出てきて、出場機会を掴んでいる。日本も日常的に下からもっと選手が出てこないとレベルアップはしないと思うんです。そのなかのひとりにならなければ、という想いでやってきました。それはキヨくん(清武弘嗣)もそうだし、ブラジルに行った自分たちの世代の選手はそういう自覚を持ってやってきたし、これからもやっていかなくちゃならない」

 絶対的な存在となっている選手をリスペクトしながらも、虎視眈々とチャンスを待つ。そのために必要なのは、熱い闘志ばかりではない。チーム状況に応じて自身の立場を理解し、現実を見極める力が鍵となる。

 酒井にとって大きなチャンスとなるアジアカップ。そこで成果を出し、いかに成長できるか。ライバルの存在を意識するよりも、その場所で、自分自身を見つめることが大切なのかもしれない。

「優勝まで、ひとつずつ階段を登って行くしか道はない」

 追いかける側はチャンスを掴むと勢いに乗れる。しかし、その勢いに身を任してしまっては、足下をすくわれることもある。連日、多弁に記者の質問に答える酒井からは、慢心を許さない用心深さと冷静さを感じる。バックアッパーとして過ごしてきた時間もまた、酒井の武器になるかもしれない。

 好機到来だからこそ、油断は禁物。
そのことを酒井はその経験で学んでいるに違いない。

取材・文:寺野典子