最近、コービー・ブライアント(ロサンゼルス・レイカーズ)の試合後のロッカールーム取材が興味深い。その一方で、寂しさを感じることもある。

 ゲームで消耗した両足を氷水のバケツの中につけて、アイシングする間にコービーが話すトピックは、その試合やチームのことにとどまらず、自身のバスケットボールに対する姿勢や、昔のように身体が回復しない中での苦悩、さらにはリーグやバスケットボール界全体に対する考え方など多岐にわたる。

 基本的には記者からの質問に答える形で話すのだが、試合に直接関係ない話でも熱を入れて語ることが多い。以前は、負け試合後の無関係な質問にはひと言で答えることが多かったが、今では負けた後でも(今季は3試合に2回は負けているのだ)、気分のムラを感じることは少ない。足を氷水につけるころには、すでに気持ちを切り替えているかのようだ。

 たとえば、1月2日のメンフィス・グリズリーズとの対戦後、3点差という悔しい敗戦だったにもかかわらず、コービーは対戦相手のマルク・ガソルや、マルクの兄で元レイカーズのパウ・ガソル(現シカゴ・ブルズ)の称賛に始まり、さらにヨーロッパとアメリカの育成方法について比較論を繰り広げた。ガソル兄弟のようなスキルを持ったビッグマンがアメリカから出てこない理由について、コービーは即答で、「AAUバスケットボールのせいだ」と切り捨てた。「AAU」というのは、高校生までの子どもたちが夏の間に入るクラブチームのこと。練習することよりも、全米規模のシューズ会社主催大会に参加することを主目的とするチームが多く、また、その大会が大学の主なリクルートの場にもなっている。

「AAUバスケットボールでは、子どもたちにバスケットボールの基礎をまったく教えていない。その結果、派手な動きばかりをやって、ポストアップの仕方も知らないビッグマンが育つわけだ。バスケットボールの基礎を知らないからだ」

 コービー自身は、父親のジョー・ブライアントがイタリアのプロリーグでプレイしていた影響によって、イタリア育ち。当時のヨーロッパでは、アメリカの名将たちが頻繁にクリニックやキャンプを開催し、ヨーロッパのコーチに基礎を教え込んでいた。そういったヨーロッパのコーチからバスケットボールを教わったことが、基礎スキルを習得できた理由だとコービーは言う。

「ヨーロッパのクラブコーチたちは、アメリカのコーチのアドバイスに従い、彼らから学んだ基礎を聖書のように大事にして、子どもたちに教えていたんだ」

 思えば、そのころに身に着けたスキルが、今、36歳になったコービーを助けている。以前のようなスピードと運動能力を生かしたプレイから、タイミングやフットワークなどのスキルで戦うスタイルに変えることができたのは、身体に基礎が染み込んでいたからだ。

 全盛期のプレイができなくなった現状についても、コービーは意外なほどざっくばらんに語る。シーズン序盤には自分ひとりで20本、30本、多いときには40本近くシュートを打っていたが、クリスマス前後に疲労から3試合欠場して以来、どの試合でも15本以内と激減している。

「自分でゲームを支配しようとしたけれど、身体がもたなかった。いつもなら決めていたようなシュートを外していた。もう、以前のような負担は身体が受け入れられないんだ。そう分かったから、それを受け入れたうえで、(違う方法で)支配しようとしている」

 自信家のコービーが、これだけはっきりと自分の身体の衰えを認めることに驚く人も多いかもしれない。しかし、コービーはこうも言う。

「僕には多くの欠点があるけれど、一方で、長所のひとつは『現実的に考えられる』という点だ。現実的に考え、次に組み立てていくことができる。自分の弱点は分かっている。何ができて、何ができないかも分かっていて、それを受け入れている。そのうえで、支配しようとしているんだ」

 彼の引退が日に日に近づいていることを感じさせるコメントだが、文頭に、「寂しさを感じることもある」と書いたのは、このコメントが理由ではない。むしろ、弱点を認めながらも、「支配する」という言葉を使うところは、相変わらずの自信を垣間見せていて、安心したりする。

 寂しさを感じるのは、負けた試合の後に、上位争いをしている他チームの強さや補強の成功についての質問が躊躇(ちゅうちょ)なくコービーに投げかけられることだ。そして、コービーがその質問に対して噛みつくことなく、冷静に答えていることだ。今季のレイカーズがプレイオフに出られる可能性はほとんどなく、そのことを周囲はもちろん、コービー自身も受け入れたという空気が漂(ただよ)っている。優勝至上主義のコービーにとって、それは身体が衰えていること以上に認めたくない現実なのではないだろうか......。

 12月半ば、オクラホマシティ・サンダー戦後にも、こんな場面があった。ケビン・デュラントを欠くサンダー相手に接戦を演じたレイカーズだが、残り2秒でブライアントが放った逆転シュートが外れて1点差で敗れた。

 試合後のロッカールームでは、試合の話を少し語った後、レイジョン・ロンド(ポイントガード/28歳)が前日に成立したトレードでボストン・セルティックスからダラス・マーベリックスへ移籍したことに関する質問が立て続けに飛んだ。かねてからロンドを高く評価するコービーは、マーベリックスがいかに脅威になったかを語り、優勝を狙えるかといった質問にも答えていた。他チームの補強の成功について語る様子は、はっきりとは口には出さなくても、自らの優勝をあきらめたと言っているも同然に思えた。

 すると、ある記者から、「どのチームが今シーズンの優勝候補だと思うか?」という質問が飛んだ。この質問に、彼の負けず嫌いが頭をもたげた。

「分からないし、どうでもいい」

 それが、コービーにとって、精一杯の抵抗だった。

 あれから1ヶ月、レギュラーシーズンの折り返し地点を目前に、レイカーズは12勝27敗と、依然として低迷が続いている。そしてコービーはといえば、引退前にプレイオフを戦えることを支えに、時に試合を欠場して身体を休めることも受け入れたうえで、年齢との戦いを続けている。

 その中で何を学んだかと聞かれたコービーは言った。

「辛抱強さ......、たくさんの辛抱強さだ」

宮地陽子●文 text by Miyaji Yoko