赤い塊(かたまり)がグッと前に出る。前半7分、相手ボールのスクラム。帝京大のスクラムハーフ流大(ながれ・ゆたか)主将がこぼれ球を拾い、そのままインゴールに駆け込んだ。先制トライに赤く染まったスタンドが揺れた。

「FWの顔を見て、これは押すと確信した」と流主将が振り返る。「僕はこぼれ球を拾うことに集中していた。あれはFWのトライです。よくファイトしてくれたと思う」

 9日の全国大学選手権決勝(東京・味の素スタジアム)。パワフルな帝京大がスクラム、接点で圧力をかけ、決勝の史上最多得点記録となる50−7で、筑波大を圧倒した。積み上げてきた連覇はついに『6』に延びた。

 狙い通り、帝京大はまず、スクラムからプレッシャーをかけた。筑波大が自信を持っていたブレイクダウン(接点でのボール争奪戦)でも何度となく相手ボールを奪った。相手ボール奪取の「ターンオーバー」の数は、筑波大4本に対し、帝京大は16本にもなった。

 これは腕力の強さもあるが、1人目がきちっとタックルを低く決めて押し込み、2人目、3人目が素早く寄って足を掻いているからである。つまりフィジカルと忠実な基本プレー、ゲーム理解力の賜物だった。
 
 とにかく帝京大の選手はまじめなのだ。特にピンチでの戻りが早く、ハンドリングミスによる傷口も広がらない。ディフェンスでも、攻撃的に前に前に出ていく。筑波大のエースウイング福岡堅樹(けんき)もなかなか自由に走らせず、前半の3トライで勝負の流れを決めた。

 表彰式のあと、グラウンドには背番号のない赤いTシャツを着たメンバー外の部員たちがグラウンドになだれ込んだ。胸には「Six Time」の黒い文字。流主将は顔をくしゃくしゃにする。「試合に出られないメンバーを笑顔にできたことに幸せを感じます」

 部員は142人。うち4年生が33人。1年間のたゆまぬ努力が連覇につながった。6連覇の感想を聞かれると、帝京大の岩出雅之監督は「ホッとしています」とポツリ。監督はメンバー選びの際、非情にならざるを得ない。「6連覇はうれしいですけど、メンバーから外した学生の姿とか顔がよぎってきて......」と目に涙をためた。

「強さの秘密、一番は学生の人となりだと思う。1年1年、1日1日、積み上げながら、チームの力を引き上げてきた。V1、V2(時代)と比べれば、(チームの)レベルが違う。大きく成長してきていると思う」

 もはや帝京大には、学生の成長を促す風土と仕組みができあがっている。強さの理由として有能な人材を確保できる環境を挙げる人が多いが、他大学と違うのは『体作り』である。栄養、トレーニング、ケア......。大学のサポートは手厚く、特に医学部の「帝京大スポーツ医科学センター」の存在が大きい。

 ラグビー部には、同センター所属の管理栄養士が3人、トレーナーが6人いる。月1回の頻度で部員の血液検査が実施され、身体組成の変化や体調をチェックできる仕組みになっている。栄養のバランスが悪ければ、栄養士がアドバイスをして、食事が改善される。

「体って、食べた物の結果なんです」と、管理栄養士の虎石真弥さんは説明する。「最近は、選手の食環境が充実し、取り組みも定着してきました。私が何も言わなくても、選手たちは自分で考え、地道な努力を積み重ねるようになりました」

 フィジカルアップに関しては、キャンパスにもジムがあって、ラグビー部の加藤慶フィジカルコーチが待機している。部員は授業の合間にも体を鍛え、グラウンドでの練習の前後にも筋トレに励む。選手の意識が高ければ、それはパワフルになるはずである。

 ケガをしてしまったら、医学部のドクターがすぐに対応する。チームドクター、治療スタッフも充実していることで、大事な時にケガ人が復帰し、決勝ではベストの布陣が組めたのだった。

 問題は、選手のディシプリン(規律)、意識となる。今季のピンチは夏の菅平合宿、早大戦の前だった。部員の気が緩み、流主将は泣いた。同主将は学生ミーティングを開き、「1日1日、やり切ろう」と奮起を促した。

 チームは変わった。激しいポジション争いがスタンダードを押し上げ、12月、ジュニア選手権(準レギュラー戦)でも圧倒的な強さで優勝した。チャンスは平等。大学選手権第2ステージでは、難聴のウイング大塚貴之が試合に出場した。大塚が「感謝の気持ちでいっぱいです」と言えば、流主将はこう、述懐する。「努力が報われるということを証明してくれた」と。

『いい人間になろう』。部員がよく口にする。いいラグビー選手ではなく、卒業後、社会で通用する人間になろう、ということである。情熱と根気。いい人間をこつこつと作り上げてきた結果が、この金字塔である。

 次のターゲットは日本選手権での『打倒!トップリーグ』である。さらには大学選手権連覇の継続である。日本ラグビー界において、「7」はかつて新日鉄釜石が達成した「V7」のインパクトが強く、特別な数字となっている。

"帝京ラグビー"は円熟期に入った。他大学の革新的な創意工夫と圧倒的な努力がなければ、進化し続ける帝京大の時代が続くことになる。

松瀬 学●文 text by Matsuse Manabu