■スマホの普及で思わぬ「盗撮」が浮上

世の中はいまやカメラにあふれている。街角や店舗などに設置された防犯カメラもそうだが、ここでは私たちが日常持ち歩いているスマホやケータイに話を絞る。その撮影機能は便利だが、使い方を誤ると迷惑この上ない。

ちょっとメモしたいと時刻表や路線図などを撮影して自分の役に立てる分にはかまわないが、例えば書店で本や雑誌の一部をメモ代わりに撮影したらどうか。これは「デジタル万引き」と呼ばれて、書店にとって迷惑な行為である。情報を撮影すること自体は違法行為とは言えないが、書店にとっては販売の機会を失うことになる。また、撮影した画像を友人に転送したら、著作権侵害になる可能性もある。

撮影の対象となる人や物を当該者に無断で撮影することは、一般に盗撮とか隠し撮りとか呼ばれている。軽犯罪法には「正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者」を罰する条文があるが、みんながカメラを持つようになって、「ひそかにのぞき見た者」は「盗撮した者」へ、場所はより一般的な「公共の場所」へ、対象も「衣服の下の下着」などに拡大されてきた。その取り締まりはもっぱら地方自治体の迷惑防止条例(名称は自治体によって異なる)によっている。

2012年に改正された東京都の「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」では、盗撮に関連して「何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であって、次に掲げるものをしてはならない。(中略)公衆便所、公衆浴場、公衆が使用することができる更衣室その他公衆が通常衣服の全部若しくは一部をつけない状態でいる場所又は公共の場所若しくは公共の乗物において、人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること」という条文がある。カメラ機器の発達にともない規制の対応も変遷してきた経緯がうかがえる。

■便利な盗撮アプリが出回る!?

盗撮は増える一方である。警視庁の統計によれば、都内における2011年の盗撮事犯は263件だったが、12年には484件に増え、13年には633件と、2年間で2.5倍近くになっている。また、『平成25年警察白書』によれば、2012年中の全国における盗撮検挙数は2408件で、そのうち、カメラ付き携帯電話を使ったケースが約30%、スマホが約33%と、合わせて6割以上を占めている。犯罪が行われた場所は駅の階段・エスカレーターが28%、ショッピングモールなど商業施設が約29%となっている。

盗撮で使われているのが、撮影時のシャッター音を消す「無音撮影アプリ」だ。ネット上には多くの無料アプリがあふれている。シャッター音なしで、中断するまで連写し続ける機能をもったアプリもある。

最近、出回っているアプリはさらに悪質だ。「忍者カメラ」(最新版は「忍カメラ」)は、シャッター音が消えるだけでなく、スマホ画面をブラウザに偽装する「隠カメラモード」や、画面を真っ黒にして不使用状態に見せかける「闇カメラモード」をそなえている。

忍者カメラの開発者はこのアプリの使用目的を「眠っている赤ちゃんや、音に敏感なペットを撮影するときに使ってほしい」などと書いているが、盗撮利用を前提にしていることは明らかだろう。なにしろ、このアプリには「秘密アルバム」もあり、暗号を入力しないと撮影した画像を見ることのできない機能もある(最近では「自撮り」と呼ぶ自分の撮影も流行っており、ハイアングルや手が届かない場所から撮影するためのスマホ用スティックも売り出されている。これも自分や友達と楽しむだけならいいが、その長さを利用して盗撮に及べば犯罪行為である)。

安易にこうしたアプリをインストールしている人もいるかもしれないが、盗撮事件の増加によってあらぬ疑いをかけられるケースも出てきた。

■盗撮は痴漢より刑が重いという現実

電車や人混みの中で、スマホを顔の高さにまで持ち上げて操作しているだけで、盗撮と勘違いされて、逆に撮影されてネットにアップロードされるようなケースや、スマホをいじっていただけで「盗撮していただろう」と言いがかりをつけられて、金銭を脅し取られる恐喝事件も発生している。

また、盗撮は「人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為」を指すので、着衣姿を撮っただけで盗撮行為と見なされることもある。電車内で寝ている女性の上半身を撮影した男性が逮捕された事件もあった。かわいいからと公園で遊んでいる子どもたちを撮影しても処罰される可能性がある。盗撮用アプリなどをスマホに入れているだけで、犯意を疑われてもおかしくない。

都条例によれば、盗撮は1年以下の懲役または100万円以下の罰金である。痴漢は6ヶ月以下の懲役、50万円以下の罰金だから、盗撮は痴漢より刑が重い。盗撮の常習犯と見なされれば、2年以下の懲役または100万円以下の罰金となる。

犯罪行為としての盗撮は厳しく取り締まるべきだが、たとえばリベンジポルノなどが問題になるのも(2014年11月にリベンジポルノ被害防止法=私事性的画像記録の提供被害防止法が成立した)、仲が良かったころにあられもない写真を撮らせていた被害者の落ち度もある。フィルムカメラのときは、撮影しても現像に出さざるを得ないから微妙な写真を撮られるのには抵抗があった。

デジタルだからこそ撮る方も撮られる方も大胆になりがちで、自撮りツールを使って撮った自分のヌード写真をネットにアップしている若い女性もけっこういる。ソフト、ハード問わず、撮影アプリには注意したほうがいい。というわけで、サイバーリテラシー・プリンシプル(15)は<撮影用スマホ・アプリは使い方にご用心>としよう。

(サイバーリテラシー研究所(代表 矢野直明)=文)