パス、シュート、的確な飛び出しで存在感を示した遠藤。心身両面での充実ぶりがうかがえる。 写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト)

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「アジアカップに出場経験のある選手たちに話を聞くと、誰もが初戦の重要性を口にする」と前日会見でアギーレ監督も語っていたが、日本はパレスチナとの初戦を4-0の大勝で飾った。しかし試合後、日本選手たちはどこか浮かない表情を漂わせていた。
 
「後半はミスも多かった。試合に勝てたことは良かったけど、消化不良は消化不良ですよ」と長谷部が口にする。後半開始早々に吉田麻也のゴールで4点目を奪った日本だったが、その後は何度も相手ゴールを脅かすも、結局は追加点を奪えなかったのだ。
 
 試合を振り返って岡崎は言う。「ヤットさん(遠藤)のゴールが決まったことは大きい」と。もし、あのゴールが決まらなかったら、攻めあぐね、我慢を強いられる展開となったのは想像に難くない。
 
 8分、乾のパスを受けた遠藤は右足でシュート。力みのないそれは、彼らしい一撃だった。チームのファーストシュートでゴールを決めたベテランは、静かに振り返る。
 
「フリーだったので、枠に飛ばすことだけを考えました。風が強かったので、浮かしてしまうと風で上がってしまう。ピッチは濡れていたし、とにかく枠へ、と」
 
 自身3度目のワールドカップに出場した昨夏。先発から外れ、最終戦では出場機会すらなかった。新体制発足後もしばらく代表に招集されず、遠藤は一ファンとして代表戦をテレビ観戦していたという。
 
 2002年秋の代表デビュー以降、常に応援される立場だった男が、応援する立場に回った。そこで「ファンやサポーターは、強い代表、勝つチームを見たいんだな」と再認識し、そして「代表にまた入りたい」と強く思った。
 
 快進撃を続けるガンバ大阪での活躍が、そのチャンスを呼び寄せた。11月に代表復帰を果たすと、すぐに“違い”を見せつけた。ボランチよりも高い位置でタクトを振り、攻撃を演出。自らがゴールも決める。その存在感の大きさは、今回で4度目となるアジアカップでも変わらなかった。
 
「もちろん、今年最初の公式戦で、しかも大事なアジアカップの初戦でゴールを決められたのは嬉しいです。チームとして良いスタートが切れたのが一番ですけどね」
 
 アギーレ監督は、自分たちの発想やアイデアをピッチで表現することを選手に求める。そのなかで連携や選手間の距離など、“自由”だからこそ、選手が判断しなければいけないことは多い。しかし、それでポジションチェンジなどの動きを止めてしまえば、攻撃は停滞してしまう。
 
「オカ(岡崎)は前にいますけど、それ以外の選手はポジションチェンジをしながら、自由にやりたいなと。僕は状況に応じて、勝手にやっていますけどね」
 
 遠藤はこの試合で、ポジションチェンジを繰り返しながら相手のマークをはがし、攻撃のリズムを生み出した。パスだけでなく、その動きでもチームメイトを操ったのだ。与えられた“自由”を謳歌できるのは、生まれ持ったセンスと磨いたスキル、培ったキャリアの賜物なのか?
 
「度胸じゃないですか? それをやれるかやれないか。僕は何も考えずにやっているだけですけど。今の代表では、自由を与えられているので、やりやすいと感じています。いろんなことを試しながらやっていきたいです」
 
 チャンスを作りながらも、ゴールが決まらない。相手が退場したことを考えれば、もっともっとできたはずだ――そんな悔しさをピッチに立った選手全てが感じていたであろうパレスチナ戦の後、遠藤はきっぱりと言った。
 
「アジアチャンピオンにならなければ、良いスタートを切った意味はない。今日の試合は忘れるべきだ」
 
 余韻に慕っている余裕はない。新しい試合は、またすぐにやってくる。
 
文:寺野典子
 
【アジアカップPhoto】日本 4-0 パレスチナ