無双っぷりが止まらない池上彰氏(『知らないと恥をかく世界の大問題5 どうする世界のリーダー?』角川SSC新書)

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「日本人が靖国参拝して何が悪い!」「愚かな韓国よ、目を覚ませ」「朝日よりたちが悪いサンデーモーニング」「秦郁彦×西岡力対談『朝日の誤報は日本の名誉毀損』」

 こんな勇ましいタイトルが並ぶのは、産経新聞のウェブサイト「iRONNA」。14年10月、自社の「正論」はもちろん「WiLL」(ワック)「Wedge」(ウェッジ)「Voice」(PHP研究所)など保守系雑誌とも連携し、ゴリゴリ右派の総合オピニオンサイトとして注目を集めている。ところが、今年1月9日、その「iRONNA」に池上彰のロングインタビュー記事がアップされた。しかも、タイトルは「産経さんだって人のこと言えないでしょ?」。

 池上といえば、朝日新聞の連載コラム不掲載問題以降、メディア批判で無双ぶりを見せつけているが、今度は、どうやら産経のサイトで産経批判を口にしたようなのだ。

 もちろんこのインタビュー、最初から産経批判がテーマというわけではない。池上は中断していた朝日の連載を1月30日に再開することを発表しており、「iRONNA」としてはその経緯について池上に改めてインタビューしたということらしい。 

 すると、池上はこの間、朝日新聞が第三者委員会で一連の経緯を検証したこと、そして「経営」と「編集」の分離を宣言したことについて一定の評価をしたうえで、こう語り始めたのだ。

「そういう意味でも、「経営」と「編集」の分離、あるいはどうしても経営にかかわる時には第三者を入れてきちんとオープンにするんだ、という姿勢は画期的なことだと思う。他の新聞社はできてないでしょ。他のテレビ局だってできてないと思うんですね」
「産経新聞だって編集権は独立しているでしょうけど、でも会社の危機になれば、そのときの社長が何を言うか分からないというのは有り得るわけでしょ。いや、きっとありますよね。あまり人のことを言っていられないわけですよね」

 さらに、訂正のコーナーの常設についても「画期的なこと」と評価し、産経をはじめとする他の新聞社にこう切り返す。

「これまでどの新聞社も、なるべく訂正は載せたくない。たとえ載せても目立たないようにする。一面トップの大きな記事でも小さく訂正を載せるというのは、産経新聞でもあったと思いますけど」

 また、朝日がお詫びを先延ばしにした問題についても日本企業の構造的な問題だとして、こう指摘する。

「昔は産経さんだって、誤報を出してもほっかぶりしたことがあるわけですから。それは朝日特有の問題とみてしまうのは間違いなんじゃないかな」

 他にも、読売、産経が朝日叩きに乗じて、拡販に利用したことなどが新聞の信用性をさらに落とすことになったと指摘するなど、とにかくありとあらゆる問題において、それは「産経さんの問題でもあるんですよ」と切り返す池上。しかも、そのなかで池上は今、産経にとってもっとも触れられたくない問題にまで斬り込むのだ。

「そういやこの前、産経さんが朝日の件で江川紹子さんのコメントを無断で使ったことが問題になりました。あの後、産経新聞が記者を処分した経緯の記事がとっても分かりにくいと聞いたんですけど」

 この問題は産経新聞の朝日問題追及の中で起きた不祥事だった。14年12月6日の朝刊で、産経は「木村前社長処遇 なぜ二転三転」との記事を掲載。朝日新聞社社長・木村伊量のその後の特別顧問就任→辞退のドタバタに疑問符を付けたのだが、その中で江川のコメントの一部を"捏造"していたのだ。

 産経は江川に取材したことはあったが、それは木村前社長の顧問就任辞退以前のことだった。その後、顧問辞退の発表後は一切取材することなく、江川のツイートを勝手に加えて「(木村氏は)身を引くべきだと思っていたが、これで渡辺(雅隆新社長)体制での再出発の環境が整った」とコメントをでっち上げたのである。

 池上はこの問題を俎上にあげ、産経の対処をこう批判したのだ。

「なんで、どんなことをやったから処分になったかと書いてないんですよね。こんなことになれば、当然産経さんだって批判される側に立つ。
 ましてや、朝日のことを散々叩いてきたわけでしょ。江川さんの件でなぜ処分したかまったく説明がないわけですよ。読者のことをまだ考えてないなと思いますよね」

 実際、この問題についての産経の対処は非常に不誠実なものだった。05年、朝日新聞の記者が当時、長野県知事だった田中康夫に対する取材・コメントメモを捏造した際は、当時の秋山耿太郎社長がお詫び会見を開き、取締相談役だった箱島信一は取締役と同時に日本新聞協会会長を辞任、担当記者は懲戒解雇され、常務や政治部長などまで処分されるといった大事件に発展した。

 一方、今回の産経はといえば、広報部がコメントを出しただけで、社長会見はおろか、詳しい説明も一切なし。担当記者が10日間の出勤停止、担当常務が減俸、編集局長ら4人を減給処分にするという"大甘"といえるものだった。池上はそれを突いたというわけだ。

 痛い所にぐりぐりと手を突っ込む池上。そして、きわめつきは慰安婦問題の誤報の影響に関してだった。池上はこんな風に産経に皮肉をかましたのだった。

「一読者として最も違和感があるのは、産経さんが『朝日はその責任をどうするんだ、どうするんだ』と追及してるでしょ。極論かもしれないけど、産経新聞が朝日に代わって世界にアピールすればいいんじゃないですか? 少なくとも私はそう言いたくなるんです(略)人を叩いている暇があったら、自分のところで誇りをもってやりなさいよと、私は言いたいですけどね」

 念のため繰り返しておくが、これらはすべて、産経のオピニオンサイトでの発言である。池上無双伝説がまたひとつ書き加えられてしまった感じだが、それにしても「iRONNA」はなぜこんなインタビューを掲載したのだろうか。産経は自己批判の視点ももっていることをアピールしたいと考えたのか。

 いや、おそらく「iRONNA」としては当初、こんな内容になるとは思っていなかったはずだ。朝日コラム連載復帰のタイミングで池上インタビューをして、あわよくば新たな朝日批判でも引き出そうとかさえ考えていたかもしれない。ところが、インタビューしてみると、質問はすべて切り返されて、逆に自分のところがズタズタになってしまった。かといって、このご時世、まさか池上インタビューを不掲載にするわけにもいかない。それで、泣く泣く恥をさらしたということではないだろうか。
 
 とはいえ、これが読売だったら絶対にボツになっていたはず。ここはやはり、身内の恥をさらした「iRONNA」の決断を評価しておこう。
(伊勢崎馨)