霧雨の降るなか、試合会場のピッチコンディションを確認。明日の初戦に向けて、シュートへの意識を何度も口にしていた。 写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

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 パレスチナ打破のイメージは、すでに固まっていた。

 試合前日の公式練習を終えた後、報道陣に明日の試合について聞かれると、香川真司はほとんど間を置かずに答えた。

「ワンツーで細かく崩すのもひとつで、そういうのが得意な選手も多いですけど、シュートを打たないとなにも始まらない」

 終わったばかりの公式練習は、霧雨に打たれながらのものだった。明日も同じような空模様になりそうだと、現地の天気予報は伝えている。

「シュートを打つことはいつも意識してますけど、明日も今日みたいな天気だと聞いているので、遠目からでもシュートにトライする必要がある。パレスチナが引いてきたら、そこはさらに大事になると思う。ピッチがスリッピーでトラップとかのミスが出てしまうよりは、シュートのイメージを持ちたい」

 インサイドハーフの香川がミドルレンジからシュートを放てば、相手守備陣はリトリートしてばかりもいられない。シュートを打たせないためにプレッシャーをかけにくれば、最終ラインの背後にはスペースが生まれる。

 もちろん、日本代表の代名詞とも言えるポゼッションスタイルを変えるわけではない。香川が語気を強めた。

「ファーストタッチには、とことんこだわりたい。その前の準備として、視野の確保も。今日の練習のなかではトラップの難しさを感じたので」

 シュートの意識はチーム戦術の、ファーストタッチは個人戦術の、極めてベーシックな部分である。そんな基本的な要素を、香川があえて試合のポイントに並べたのは、4年前のアジアカップの記憶があるからであり、昨年のブラジル・ワールドカップでの痛みを忘れていないからだ。

「ブラジル・ワールドカップも経験して、短期決戦では初戦が大事なのは分かっている。4年前は(日本代表に)地力があったから優勝まで行きましたけど、しっかり集中力を持って戦わなきゃいけない。連覇とかを意識するよりもまず、目の前の1試合をしっかり戦いたい」
 アジアカップの開幕戦となるパレスチナ戦は、2015年の初戦である。日本代表にとっても、香川自身にとっても――。

「去年はなかなか上手くいかなかったので、新たな気持ちで臨みたい。同時に、日本代表として戦う責任感はもちろんある。チームとしても個人としても、明日の試合で良いスタートを切りたい。プレッシャーはありますけど、それに打ち克っていくことで成長できると思うので」

 10日の練習で痛めた左ひじについて聞かれると、「大丈夫です」と即答した。左足のふくらはぎには今日もテーピングが巻かれていたが、「コンディションは悪くないです」と力みのない口調で話した。

 4年前のアジアカップ直前には、「背番号10」について何度も報道陣から聞かれた。古くは木村和司やラモス瑠偉が背負い、名波浩や中村俊輔が価値を高めたエースナンバーの重みを、香川自身も強く感じていた。グループリーグで無得点に終わったのは、背番号10を着けて臨む初の国際大会の重圧と無関係ではなかったはずだ。

 しかし、2015年の香川が背番号について聞かれることはない。日本代表の「10」は彼のためにあり、周囲がなにを求めているのかを、彼は十分過ぎるほど理解している。

「チームを勝利へ導く仕事を、しっかりと果たしたい。それが自分の成長にもつながる」

 日本代表と所属クラブで苦汁を味わった2014年を経て、さらなる高みを目指すために──。香川真司の完全復活への道のりが、パレスチナ戦から始まる。