ベスト4の壁を破った前橋育英…選手権の舞台で引き出された鈴木徳真の“熱さ”

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 鈴木徳真は2013年のU−17ワールドカップでは日本代表の主力として活躍し、1年次から名門・前橋育英高のエース番号「14」を背負い、今季はキャプテンも任される選手だ。

 ただ彼は自ら仕掛け、局面を打開するというタイプではない。特別なフィジカルはないし、技術が高くても過剰に見せつけることは好まない。攻守のバランスを取り、周囲を生かすことに強みを持つ職人肌のMFだ。

 前橋育英の前線を見れば同じくU−17代表だった渡邊凌磨、今大会2得点のFW青柳燎汰など、タイプの違う人材が並んでいる。鈴木は的確にパスコースを作り、少ないタッチ、早いタイミングで味方に預ける“通好み”のプレーで仲間を生かしてきた。

 しかし今日は違った――。前橋育英は72分に先制され、ロスタイムを含めても残り5分を切る頃合いだった。負けたら終わりの大舞台、しかもロスタイム入り寸前となれば、リスクを冒しても勝負を懸けるべき時間帯だ。鈴木自身も「先制されたくらいから、前に上がって決めたいという気持ちがあった」と心象を口にする。

 同点ゴールは90分。そんな鈴木がクロスの跳ね返りに無心で反応した。「『入れ』と思って打った。相手は見ていなくて、ゴールしか見ていなかった」と鈴木は振り返る。いつも理路整然とプレーに至った状況、意図を語る鈴木だが、この場面の描写は至ってシンプルだった。情が理を上回っていたのだろう。

「自分が決めてやろうと思っていましたし、最後は我を出してもいいんじゃないかなと…。最後は気持ちだと思います。戦術云々じゃなくて、結果が出た。本質が出たと思います。嬉しいですし、不思議です」(鈴木)。

 鈴木が右足で叩いたミドルは、流経大柏DFの足を弾いてわずかにコースを変える。それが影響してGKの逆を突くややラッキーな形で、ネットを揺らした。起死回生の同点弾だった。

 U−17W杯という大舞台も経験している鈴木だが、選手権には別の刺激があるという。「世界大会とはまた別の雰囲気です。観客がいてサッカーできるというのが楽しい。今までこんな大人数の前でプレーをしたことがなかったし、すごく楽しい。俺、注目されてるって」。鈴木はそう表情を緩める。2万6千人という大観衆を前に、普段とは違う彼の“熱さ”が引き出された。

 しかし試合後は冷静だった。PK戦を制しても激しい歓喜は見せず、静かに流経大柏イレブンに歩み寄った。「素晴らしい対戦ができた。嬉しかったけれど、『ありがとう』という気持ちが強くて、自然と流経のところに行っていました」(鈴木)。

 激闘を制し、前橋育英としては5度目の挑戦で初めて“準決勝の壁”を破った。鈴木は「前橋育英に来て良かったか?」という記者の問いに対し、「そう…、思えるように頑張ります。まだ終わってないので」と“結論”を留保する。並の高校生なら喜びに浸る試合直後だが、鈴木はPK戦終了後と同じように、いつものクールな彼だった。

文=大島和人