マドリードの盟主を懸けた戦いともなった国王杯ベスト16の対戦。現地時間1月7日に行なわれたアトレティコ・マドリード対レアル・マドリードの第1戦は2対0でホームのアトレティコが勝利し、第2戦に向けて大きなアドバンテージを手にした。一方、昨年末まで公式戦22連勝を達成し、向かうところ敵なしであったレアル・マドリードは、胸に世界王者の証であるワールドチャンピオンズバッジをつけてから3戦全敗と、勝利から見放されている。

「22連勝もすればそのうち負けることはあるし、この敗戦は特にチームの士気に影響はしない」と、約4ヶ月ぶりに敗戦を喫したバレンシア戦(1月4日)後の記者会見では冷静に語っていたアンチェロッティ監督だが、親善試合のミラン戦(12月30日、結果は4対2でミランの勝利)を含めて3連敗となった今、その心境は決して穏やかではないだろう。

 中盤の柱モドリッチの離脱、FWベイルの自己中心的なプレイ、以前のような爆発力がなくなったクリスティアーノ・ロナウド、新加入ハメスの存在感の薄さ、セルヒオ・ラモスの軽率なプレイ、選手固定による疲労の蓄積、燃え尽き症候群、クリスマス休暇後のコンディション不足、コンビネーションのわずかなずれなど、レアル・マドリードの勢いが失せた理由をあげたらキリがない。

 中でも深刻な問題と言えるのは、シーズン再開後のパフォーマンスに、連勝中にはあった相手を圧倒する迫力あるプレイがないことだ。「奥行きのある攻撃が出来ていない」と、アトレティコ・マドリード戦後にアンチェロッティも認めている。

 敗戦した公式戦2試合、いずれもレアル・マドリードはボール保持率ではライバルを凌駕していた。だが、そのサッカーは調子の良くないときのバルセロナと同じで、ボール回しをしているだけでのものであり、決して相手ゴールへ向かっていくものではなかった。ゴール前を固めるライバルを前にして、ただセーフティーにボールを回すだけで、好調時にあった危険な匂いのするプレイがクラブW杯以降、消え失せてしまっている。

 闇雲に縦パスを入れても守備を固める相手の前ではボールロストの可能性は高い。だが、今のレアル・マドリードには、どこかに「自分達はいつでも得点を奪えるぞ」といった奢りや虚勢が感じられるようなプレイが多く、リスクを冒してまでも得点を狙いにいくという気迫が感じられない。

 もちろんこの2試合ともに、勝機がなかった訳ではない。バレンシア戦ではMFイスコ、アトレティコ戦ではセルヒオ・ラモスのシュートがゴールを割っていれば、違う試合展開になっていたかもしれない。だが、勝負事に"たられば"はない。ライバルは少ないチャンスからしっかりと得点を決め、自らの手で勝利を引き寄せているのだ。

 どこか歯車がずれてしまっている現在のマドリードだが、監督、メンバーのそのタレントから言えばしっかりと修正するだけの力を備えているのは間違いない。パフォーマンスの回復を見る基準の1つとなるのは、両サイドバックが横パスのプレイに終始するのではなく、積極的なオーバーラップを仕掛けられるかどうかだろう。

 順調にいっていれば公式戦連勝記録の更新がかかっていたはずの今週末のエスパニョール戦。そして来週木曜日に行なわれるサンティアゴ・ベルナベウでの国王杯第2戦。世界王者にとっては、しっかりと勝利を収め復調をアピールしなければいけない、試練の場と形を変えた。

山本孔一●文 text by Yamamoto Koichi