盛りあげよう!東京パラリンピック2020(7)

【車いすテニスプレーヤー上地結衣インタビュー Vol.1】

 昨シーズン、ダブルスで年間グランドスラムを達成し、シングルスでも好成績を収めた上地結衣。弱冠20歳にして、素晴らしい活躍を見せた。来年に迫ったリオパラリンピック、そして2020年の東京パラリンピックでの活躍にも期待がかかる選手だ。そんな上地選手にまずは、2014年を振り返ってもらうとともに世界ランキング1位になってからの心境を語ってもらった。

伊藤数子さん(以下、伊藤):2014年シーズン世界ランキング1位になって、追いかける立場から追われる立場になりました。今の心境はいかがですか?

上地結衣選手(以下、上地):自分の中では1位であって1位じゃないというか......。ランキング的には1位なんですけど、ひとつひとつの技術で言えば、自分よりも丁寧だったり、技の種類が豊富だったり、上の選手はたくさんいると思うので。やっぱりそういう選手のいい所をすべて集めたのが自分でありたい。それが1位であるべきだと思っているので。そのあたりは、まだ自分がイメージしていた1位とはかけ離れていますね。

伊藤:そんなに違うんですか?

上地:そうですね。やっぱり自分が身近で見ている国枝慎吾選手や、ロンドンまでずっとトップだったエスター・バーガー選手(※1)というのは、自分が見る限り、負けたところを見たことがないくらい確立されたものがあって。それに比べて、自分はまだ揺らぐ時ももちろんありますし、自分のプレーだけに集中できない部分もあります。それが出てしまったのが11月のシングルスマスターズ(※2)で。そのあたりで、本当にギャップというのは感じますね。
※1 オランダの女子選手で、シドニーパラ、アテネパラ、北京パラの金メダリスト
※2 全米オープン後、そのシーズンの世界ランキングトップ8が出場する大会。2014年上地選手は予選リーグを通過するも初戦敗退。

伊藤:じゃあ、ご自身でこうありたいという理想像があるんですね。

上地:そうですね、もちろん。

伊藤:そこへ計画的に近づいていくスケジュールみたいなものはあるんですか?

上地:もちろん2016年のリオパラリンピックが、自分にとってのひとつのゴールでもあるので、そこに向けて完成形により近づけられるようにしていきたいとは思っています。

伊藤:そう言えば昨年、「こんなに早く1位になるとは思っていなかった」というコメントをしていましたが。

上地:そうですね。2013年がプロとしての活動を始めた1年目だったんですけれど、その時点で既に自分が想定していたランキングをはるかに上回っていて。2014年の目標は世界ランキング1位と、シングルスのグランドスラムのタイトルをひとつは獲るということでした。でも実際は、ひとつひとつの試合を丁寧にして、善戦できたらうれしいな......というぐらいの気持ちでいたので、そういう意味ではちょっと駆け足過ぎるな、うまくいき過ぎているなというのは自分もコーチも感じています。

伊藤:どうしてうまくいき過ぎちゃったんでしょう(笑)

上地:うーん......。悪いことではないとは思うんです。本当に自分のやるべきことを一生懸命やって、やらないといけないことがより正確に分かって。これを良くすれば勝てるとか、良くなっていくということを想像して、それが本当にその通りになったんですよね。ただそれは、追いかける立場だったからできたことであって、今追いかけられる立場になって、より難しくなりました。どういうふうにしたら"勝てるか"ではなくて、"勝ち続けられるか"なので、難しいところではありますね。

伊藤:やはり、勝つことと勝ち続けることは違いますか?

上地:自分が今まで想像していなかった世界というか、イメージが持てなかったところなので、違うと思います。

伊藤:でも、早過ぎるとはいえ、1度そこで世界の一番上が見えたことは確かですよね。

上地:そうですね。なので、今は10月のアジア大会で負けたことも、11月のシングルスマスターズで負けたことも、良かったかなと思っています。本当に2016年と2020年で悔しい思いはしたくないので、今のうちにそういう経験をして、同じ状況、同じ心理状態になった時に、いかに対処するかという勉強にもなりました。ひとつの経験として、次に生かすことができれば、この負けは無駄じゃなかったと思えると思います。

伊藤:今お話に出てきたアジア大会ですが、準決勝で敗れたのには驚きました。

上地:そうですね。他のところでも結構言われるのは、「もちろん金メダルを狙っていますよね」「優勝できますよね」みたいなことが本当に多くて。もちろん自分も世界ランキング1位として臨む初めてのアジア大会で、前回が1回戦負けだっただけに取りたいタイトルのひとつではありました。ただ、いくらアジアとはいえ、そう簡単ではないことも分かっていて。実際に負けたタイの選手(KHANTHASIT Sakhorn選手)は、今まで自分が1度も勝ったことのない選手でした。

伊藤:最近ではいつ対戦しましたか?

上地:3年前のロンドンパラですね。彼女は本当に、タイの国柄なのか、金銭的な事情なのか、なかなか海外の大会には出てこないんです。アジア大会に懸けてきていて、今回も優勝してリオパラリンピックの出場権を獲得しました。この後はおそらくほとんど大会に出ないんじゃないかなと思いますね。

伊藤:次に当たるとしたらパラリンピックかもしれないですね。

上地:そうですね。2012年のロンドンパラリンピックもそうだったんですけど、情報が少な過ぎて。シードじゃなくても、シードぐらいのレベルはあるんですよね。なので、私も含めて、他のシード選手も1回戦でいきなりそういった選手に当たる可能性があるんです。それは2016年のリオパラでも、彼女が続けていれば2020年の東京パラでも、変わらないところだと思います。

伊藤:世界は広いというか、選手によっていろんな戦い方があるということですね。

上地:そうですね。テニスのランキングの構成は年間を通して積み重ねていくもので、トップの選手は、年間20大会ぐらいをコンスタントに回っています。でも、それが難しい中、他の方法をしっかり考えて、彼女なりのスタイルというか競技生活を歩んでいるのだと思いますね。

伊藤:では、もしかしたらどこかにすごい選手が隠れているかもしれないですね。

上地:そうですね。国枝選手もおっしゃっていましたが、アジアのレベルというのは、女子も上がってきています。今まではあまり聞かなかった中国の選手が、アジア大会で第2シードの韓国の地元選手に1回戦で勝ったりとか。あとは、タイも今までは今回のアジアパラで優勝した選手しかいなかったんですけど、そこに続くような選手っていうのが出てきているので、これからどんどん伸びてくるのかなとは思っています。

伊藤:いろいろな部分に伸びしろを感じますね。今回、シーズン終盤で負けを経験したことで、リオパラリンピックの時には今よりもより強い1位になっている気がしますね。

上地:結果、そうなのかなと思います。本当に1位になるまでは1位になりたいと思っていましたし、1位になってからは負けたくないと思っていたんですけど、いざ負けると、今負けてよかったのかなと思います。負けて初めて気づくことはたくさんあると思いました。特に今まで以上に他の選手が、私を研究して大会に臨んできているんだな、ということをすごく感じましたから。

(つづく)

【プロフィール】
■上地結衣(かみじ ゆい)
1994年4月24日生まれ。兵庫県出身。
エイベックス・グループ・ホールディングス所属
先天性の潜在性二分脊椎症で、成長するにつれて徐々に歩行が困難となり、車椅子を使用するようになった。11歳のときに車いすテニスを始めると、あっという間に才能を開花させ、14歳という若さで日本ランキング1位に。2012年ロンドンパラリンピックではシングル、ダブルスでベスト8。2014年シーズンは、4大大会のシングルスで2勝、ダブルスでは年間グランドスラムを達成し、現在世界ランキング1位となっている。(1月7日現在)

【プロフィール】
■伊藤数子(いとう かずこ)
新潟県出身。NPO法人STANDの代表理事。
2020年に向けて始動した「東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会」では顧問を務めている。2003年、電動車椅子サッカーのインターネット中継を企画、実施。それをきっかけにして障がい者スポーツと深く関わるようになった。現在、障がい者 スポーツ競技大会のインターネット中継はもちろん、障がい者スポーツの楽しみ方や、魅力を伝えるウェブサイト「挑戦者たち」でも編集長として自らの考えや、選手たちの思いを発信している。また、スポーツイベントや体験会を行なうなど、精力的に活動の場を広げ、2012年には「ようこそ、障害者スポーツへ」(廣済堂出版)」を出版した。

文●スポルティーバ text by Sportiva