【年末年始スペシャル対談 松木安太郎×福田正博 part3】

ヴェルディ川崎を指揮したJリーグ初代優勝監督の松木安太郎氏と、J1初代日本人得点王で浦和レッズのコーチを経験した福田正博氏。ともに選手として代表でも活躍し、現在は解説者として日本サッカーを見つめるふたりのスペシャル対談。第3回は選手育成について意見をぶつけあった。

■ユース年代でも、もっと結果を求めるべき

松木:日本サッカーがさらなる成長を遂げるために、ユース年代の育成は切り離せないテーマ。だけど、2014年はU--19代表も、U--16代表も、アジアで勝てなかった(ともにアジア選手権のベスト8で敗退し、2015年開催のU--20W杯、U--17W杯への出場権を逃した)。この年代の選手たちが世界大会に出られないのは、将来の日本代表を考えるうえで心配の種だね。

福田:U--20W杯には1995年から2007年まで7回連続で出場した後、2009年から2015年まで4大会連続で出場権を逃していますからね。U--17W杯は2007年から2013年まで4大会連続で出場していましたが、今回で途絶えてしまった。日本は、ユース年代の選手が強豪国と対戦できる機会が限られているだけに、この年代が世界大会で経験を積めないのは痛いですね。

松木:ユース年代の強化こそが、日本代表の強化に直結するから、重きを置くべきポイントだね。どちらの年代の代表も、いいサッカーをしていると評価は高かったけれど、結果的には勝てなかった。やはりこの年代から、もっと結果を重視する傾向になってもいいんじゃないかな。

福田:育成年代のうちは体力面の向上をはじめ、基本的な技術や戦術など吸収すべきことがたくさんあるので、ガムシャラに勝ちを目指すサッカーばかりだと、世代が上がったときに行き詰まってしまう可能性があります。そうは言っても、内容を優先してばかりでは、世界大会を経験できないという現実がある。松木さんがおっしゃるように、内容と結果のバランスについては、まだまだ模索する余地があるでしょうね。

松木:サッカーがワールドワイドなスポーツだということをもっと理解して、ユース年代から選手強化をしていくべきだね。

■欧州や南米の育成法は日本人にあっているのか?

福田:育成は、その国の"お国柄"が大きく影響しますよね。そのため、日本サッカーをさらに発展させるために、「日本人らしいサッカーを」とよく言われていますけど、これについては、最近疑問に感じることがあるんです。

松木:日本人ならではの特長を生かした独自のサッカースタイルを確立しようという流れだね。

福田:たしかに、日本人の特性であるアジリティー(俊敏性)や、ディシプリン(規律)を生かすのは当然だと思います。それを生かすためにヨーロッパや南米から指導者を招いていますが(※JFAはこれまでフランス、スペインのサッカー協会と提携し指導者を招聘してきた)、彼らのサッカー観や育成の手法は、結局は南米やヨーロッパの選手の特長を生かすためのものですよね。果たして、それで日本人らしさを本当に生かせるのか、と疑問に思うんです。たとえば、ヨーロッパの選手は体格的に日本人より優れているし、南米の選手はテクニックや独創性がある。でも、その部分は日本人にとって超えるのが一番高いハードルなのかなと。

松木:海外から日本に来る指導者にとって当たり前のことが、日本では当たり前じゃないという問題があるね。僕自身は「相手と駆け引きをする能力」と解釈している南米の「マリーシア」は、彼らにとって当たり前のことだけど、日本社会ではズル賢いことは悪いという認識があるから、教えようとしてもなかなか根付かない。

福田:その「マリーシア」など、日本サッカーに「ない」部分を補うほかのアイデアが重要になるはずなのに、そこの問題について飛ばしたまま、「日本らしいサッカー」を模索している気がしています。

松木:大前提のところを解決しないで、ゴールにたどり着こうなんて虫のいい話だからね。

福田:日本では、普段の生活で協調性や調和が重要視されていて、誰かと駆け引きすることや、自分の意見をはっきり主張することは、欧米に比べるとあまり求められない。日常で排除されているそうした部分を、サッカーをするときにだけ要求するのは難しいと思うんです。それに対して、日本人選手が指示をきっちり守る「規律正しさ」を持っているのは、社会生活のなかで自然と育まれるものという側面がある。そう考えると、日本社会の特性を見つめ直し、ないものねだりにならず、あるものを最大限に生かしたスタイルを模索するのが現実的と考えるようになってきたんです。

松木:僕がヴェルディ川崎(当時/現・東京ヴェルディ)の監督をしていた頃(93年、94年)は、ラモス(瑠偉)がいて、カズ(三浦知良)がいて、外国人選手にブラジル人がいて、南米的な考え方がチームの主流だったから、他の日本人選手たちも彼らにどんどん感化されていった。だから、南米流の自由な発想でのプレーが生まれたけど、それは特別な環境で、一般的ではないかもしれないね。

福田:欧州や南米的な特性をサッカーで身につけるためには、育成年代から海外に行くしかないでしょうね。でも、それは現実的ではないので、日本人が得意にしている点を伸ばした方がいいと思うんです。たとえば、サッカーでは「同じ局面は2度とない」という考えがあるため、状況を決めた練習をしない監督がいますが、反復練習によって「パターンを習得する」ことが日本人の特長と考えるならば、状況を決めた練習をしていくつかの「型」を身につけるのも手だと思うんです。練習ひとつを取っても日本人に合った方法を模索する。そういうことから変える時期ではないのかなと考えています。

松木:たしかに。これまでは海外の戦術や練習などを真似することで成長してきたけど、それだけではユース年代をはじめ、各カテゴリーで行き詰まりがでてきた。ならば、今まで築いたものをベースにしながら、「日本人にしかできないことは何か」を考えてみるタイミングなんだろうね。

福田:世界における日本代表チームの立ち位置を理解して、日本人のメンタリティーをわかって、日本人に向いているスタイルを作る。それができたときに日本のサッカーは育成年代から、もう一皮も二皮も剥けるんじゃないでしょうか。

■とくに強化の必要なポジションはどこか?

松木:あとは、やはりJリーグだよね。Jリーグがもっと魅力的にならないと。福田さんが指摘していたようにセンターバックやセンターフォワードで日本人選手の人材が不足しているなら、クラブが日本人選手を起用しやすい環境やシステムを作る。たとえば、センターバックの日本人選手のプレータイムが全試合の8割を超えたクラブには、金銭的な補償をするでもいいと思うんだ。そういう大胆な手を打たないと、日本代表の強化にはつながらないからね。

福田:そうですね。一流国と互角以上に戦えるようになるためには、特にセンターバックの育成は必須事項ですから。このポジションの若手育成をどうしていくのか。クラブを含めたリーグ全体が、創設時の理念の通り、Jリーグを「日本代表の強化の場」と考えるべきでしょうね。そういった意味で言うと、2014年はW杯で1勝もできず、自分たちの立ち位置を見つめ直せたのは、いいことだったのかもしれません。

松木:2015年はリオ五輪予選があるけれど、センターバックのポジションに人材は育っているの? 日本サッカーの命運を握っているとも言えるポジションだけど......。

福田:五輪世代のセンターバックの人材は豊富です。鹿島の植田直通と、神戸の岩波拓也は、2011年のU--17W杯でベスト8に勝ち進んだときのメンバーで、高さと強さとうまさがあって順調に育っていると思います。ガンバ大阪の西野貴治も含めて、この世代のセンターバックはリオ五輪後にW杯ロシア大会のメンバー入りを狙える選手。一方でセンターフォワードは、人材不足の感は否めない。現時点では五輪代表やその下のカテゴリーに、将来的に本田(圭祐)や岡崎(慎司)、香川(真司)たちを脅かす存在になりそうな選手が今のところ見当たらない。ただし、本田がそうだったように、このポジションの選手は急成長を遂げることも多いので期待したいですね。

松木:彼らが次の日本代表を支える存在だから、五輪予選を勝ち抜いてもらわないと困るし、リオ五輪後は日本代表入りしてもらいたいね。それから、将来を見据えたときに、中盤の遠藤(保仁)に代わる若手も、もっと台頭してきてほしいよね。

福田:そうですね。リオ五輪世代のひとつ上で、すでに日本代表入りしている柴崎岳が、代表で経験を積んでどこまで成長できるか注目しています。

松木:リオ五輪代表候補の遠藤航(わたる)も、所属する湘南では3バックの一角だけど、五輪代表ではボランチに転向するという話だから楽しみにしているんだ。クラブチームのポジションからコンバートされて代表で起用されるケースはこれまでもあって、今野(泰幸・G大阪)が、チームではボランチだったのが、代表ではセンターバックを任されていたよね。日本代表が世界で勝負するためには、監督が選手の特性を見極めて、クラブチームとは異なったポジションで起用して層の薄さを補う。そのためにも、各カテゴリーの監督はJリーグでプレーする選手の可能性を探って、代表チームを活性化させてほしいな。2015年は日本代表がサッカー界を明るく照らしてくれることに期待したいね。

福田:そうですね。2014年の停滞感を吹き飛ばすためにも、まずは日本代表にアジアカップで日本代表に連覇を成し遂げてもらいましょう!

津金一郎●構成 text by Tsugane Ichiro