「あきらめない」、これが筑波大の宝物である。残り時間は10分。点差が13点。ここから筑波大の反撃が始まった。

 自陣のラックでの相手ボール奪取から敵陣に攻め込み、相手の混とんに乗じて、トライ(ゴール)を返した。6点差。「まだ5分、あるぞ」との声がFWから飛ぶ。ゲームキャプテンのフランカー水上彰太が振り返る。

「もう負ける気がしなかった。全員が明るい表情だったので、この接戦で勝てたらものすごいことになるなと思った。チームがギュッとひとつになったんです」
 
 2日のラグビーの全国大学選手権の準決勝第1試合(秩父宮ラグビー場)である。ここから、それまで東海大の重量FWにスクラムでは押されまくっていた筑波大のフロントロー陣が執念を見せた。ファンのおとそ気分を吹っ飛ばす大逆転劇である。

  相手キックオフのボールを確保して展開し、右ライン際を筑波フッカーの村川浩喜が突進する。つなぎにつないで、左に回してゴール前にラックができた。順目(※)のラックの左サイドに東海大ディフェンスが2人、逆目の右サイドには1人と手薄になった。スクラムハーフ木村貴大(たかひろ)が右サイドに持ち出し、これに反応した左プロップの橋本大吾が左腕でボールを抱えるようにして、タックラーを引きずりながらポスト下におどり込んだ。背中を右プロップの崔凌也(ちぇ・るんや)がどどっと押し込んだ。
(※)そこまでボールを展開してきた方向と同じ方向。逆目は、その反対方向

 ゴールも決まって、ついに17−16と逆転した。わずか1点差の勝利である。粘り勝ちである。殊勲の橋本が声を張り上げる。

「スクラムは押されて、悔しかった。でも最後まで必死に走った。(後半は)ラックの逆サイドの内側が空くと話し合っていた。狙ってのトライです。気持ちよかった」
 
 筑波大は前半、ラックの順目の外側、外側と攻めていたから、それは終盤への布石だったかもしれない。筑波大の古川拓生監督は珍しく、興奮気味だった。

「最大の勝因は、トータルしてのFWの集中力というか、本当の相手の強さを絶対的には出させないところだったと思います。特にうちのフロントローはスクラムではやられたけれど、総合的なスキルを見れば、運動量、メンタルを含めて、素晴らしいユニットです」
 
 確かにスクラムやラインアウトの劣勢は苦戦を招いた。意表をつく東海大のDG(ドロップゴール)などでリードを許した。だが、よく見れば、相手の武器のモールをあまり組ませず、接点でもよく我慢した。ハーフタイムで、ボールキャリアー(保持者)、タックルの出足を修正し、後半はブレイクダウン(タックル後のボール争奪戦)でうまく対抗した。

 あきらめない。最後まで粘ることは、実は前夜、ミーティングで確認したことでもあった。大学選手権の最近3度の東海大戦はいずれも、最後までもつれたものだった。その3試合のラスト20分の映像を見て、集中力の大切さを肝に銘じていたそうだ。
 
 古川監督は言う。「80分間、最後まで、自分を信じてやりきってくれたことが、大逆転につながった」と。

 筑波大は今季けが人が続出し、4連敗スタートで対抗戦は5位に沈んだ。でも代わりの選手が成長し、この日のスタメンでも4人の1年生が名前を連ねた。主将のスタンドオフ松下真七郎は「ウォーターボーイ」を務めていた。
 
 エースのフルバック山沢拓也もけがで決勝は出場が厳しい。でも、と古川監督は続ける。「チームとしては成長している。集中力もどんどん高まってきた。さらなる選手の成長を信じたいし、期待したい」
 
 あまりボールを持てなかった日本代表のウイング福岡堅樹(けんき)は言い切った。「決勝では、もっと自分の走りを見せられるよう頑張りたい」

 もうひとつの準決勝では、王者・帝京大が慶応に53−10で順当勝ちした。前半は相手の気迫のスクラム、ブレイクダウンに気圧されたが、終わってみれば、この大勝だった。
 
 やはり個々のフィジカルと基本スキル、スピード、パワーが違った。帝京大の流大(ながれ・ゆたか)主将は「慶応が激しく、自分たちのひ弱な部分が出てしまったのかなと思います」と反省した。

 この試合で、精神的支柱のセンター権裕人(こん・ゆいん)がケガから1年ぶりに復帰したことは好材料だろう。

 秋の対抗戦(31−10)では、筑波大にブレイクダウンで苦しんだ。同主将は言う。「筑波大はブレイクダウンに強みを持っているので、そこで真っ向勝負を挑んでいきたい。セットプレーを安定させ、FW、バックスともにボールを動かすダイナミックなラグビーをやり抜きたい」

 6連覇の快挙まであと1つ。「歴代の先輩が築きあげてきた記録、またそれ以前の先輩の方が積み上げてきた文化、歴史によって、6連覇に挑戦できることを幸せに感じます」と言葉を足した。

 帝京大の岩出雅之監督はこう言った。

「最後、シーズンを通してやってきた厳しさを出したい。学生がこの1年間、根気よく、ラグビーというものにぶつかって積み上げてきたものを、集中して全力で出してくれればいいと思います」
 
 これまでの戦いぶりを見る限り、帝京大の優位は動かない。ただ勝負に絶対は、ない。筑波大としては、ブレイクダウン勝負は当然として、スクラム、ラインアウトの奮起が接戦に持ち込むための最低条件。
 
 その上で、速い出足の、しつこいタックルで帝京大の選手が加速する前に止め、前に、前にと攻めていかなければ勝機はなかろう。さらには、キックでエリアをどうとるのか。迫力ある帝京大のカウンター攻撃をどう止めるのか、キックチェイスの確実さもカギを握る。ある程度のボール・ポゼッション(保持)を得なければ、まずロースコアの展開には持ち込めない。

 決勝は10日午後2時30分、東京・味の素スタジアムでキックオフされる。帝京大の6連覇が濃厚ながら、大学シーズンの最後を飾る好勝負を期待したい。

松瀬 学●文 text by Matsuse Manabu