イ・ボミが「スマイル・キャンディ」の愛称で呼ばれる本当の理由が、わかったような気がした。単に笑顔が"かわいい"というだけで、そう呼ばれているわけではないことに気づいたのは、2014年がまもなく終わりを告げようとしている頃だった ――。

 日本ツアー参戦4年目となる2014年シーズン、イ・ボミは年間3勝を挙げて、賞金ランキング3位になった。常に上位争いを演じるなど、ツアーの中心選手として、その存在感はますます増していた。しかしシーズン後、彼女のもとを訪れると、目標としていた賞金女王の座を得られなかったことを、相当悔やんでいた。

 それもそのはずで、8月のNEC軽井沢72(8月15日〜17日/長野県)で3勝目を飾ったとき、賞金ランクのトップに浮上。安定感抜群のゴルフを展開し、そのままいけば、初の賞金女王を手にする可能性がかなり高かったからだ。

 それが後半戦、勢いに乗ったアン・ソンジュが、イ・ボミを逆転。同じ韓国人選手で、ひとつ上の先輩の"壁"は厚く、悲願のタイトル獲得はまたしてもお預けとなった。

「(賞金ランクのトップを譲ってから)最後まで、先輩のアンちゃんには追いつけませんでした。目標だった賞金女王のタイトルを獲れず、ファンの方や関係者の方々など、私を応援してくれた周囲の期待に応えられなかったことが、すごく残念です......」

 賞金女王になれなかったことへの悔しさが膨らむのは、イ・ボミにとって、思いもよらぬ出来事があったからでもある。この夏、誰よりもイ・ボミの活躍を願っていた彼女の父親が突然他界したのだ。

「父がこの世を去るなんて、本当に信じられませんでした......」

 9月、国内メジャー第2弾となる日本女子プロ選手権コニカミノルタ杯(9月11日〜14日/兵庫県)のときだった。大会3日目の10番ホールを終えたあと、イ・ボミは急にトーナメントの棄権を申し出た。2日目を終えて6位タイ。2013年大会に続く連覇もありえる状況だったが、それどころではなかった。重い病で入院中の父親の容態が急変したと連絡が入ったのだ。そして、イ・ボミは急きょ韓国へ帰国したが、父親の状態が回復することはなく、彼女は入院中のベッドで息を引き取った父親の最後を見届けた。

 イ・ボミのショックは計り知れない。後半戦でなかなか結果を出せなかったのは、父親を亡くした影響が少なからずあったはずだ。しかしツアー中、彼女はそうした悲しみを表に出さず、他界した父親についてメディアの前で話すこともなかった。黙々と目の前の戦いに集中していた。

 シーズンが終わって、亡くなった父親のことを改めて聞くと、イ・ボミは遠くに視線を送りながらこう語った。

「(病に伏せていた)父は、私の顔を見ると『賞金女王を目標にしてきたからには、ぜひ達成してほしい』と、ずっと言っていました。その言葉がなかったら、はたして(前半戦で)3勝もできただろうか、と思っています。というのも、私が優勝した姿を見れば、父が元気になるんじゃないか、という一心で戦っていましたから」

 イ・ボミが涙をこらえながら続ける。

「父がこの世を去ったあとも、自分なりに一生懸命、プレイしてきたつもりです。それでも、やっぱり(ゴルフに)集中できなくて、思うような結果を残せませんでした。父のために、何としても賞金女王を獲らなければいけない、と思っていたんですが......」

 父親が亡くなったあとのイ・ボミについて、専属コーチの趙範洙(チョ・ボムス)氏はこう語った。

「(父親がなくなって)かなり落ち込んでいましたし、精神的にも参っていました。体重も結構落ちていましたからね。でも彼女は、日々トレーニングを続けた。スイングの修正を指示すれば、それに応えて、一生懸命プレイしてくれたと思います」

 本来であれば、精神的にも、肉体的にも、ゴルフをやれるような状況ではなかったという。しかしイ・ボミは、亡き父のため、応援してくれるファンのために、トーナメントに参加。コース内では気丈に振舞って、常に笑顔でファンの声援に応えていた。イ・ボミが語る。

「辛くても、しんどくても、いつも笑顔でいることが、ファンへの、私なりの感謝の気持ちの表し方なんです。結果はともかく、2014年も最後まで、そのスタイルでプレイを続けられたということは、自分なりに努力して、精一杯がんばれた一年だったのかな、と思っています」

 すべてはファンのために―― 悲痛な思いを抱えながらも、笑顔を絶やさなかったイ・ボミ。このスタンスこそが、多くのファンの心をつかみ、それが「スマイル・キャンディ」と呼ばれるゆえんなのだろう。

 そこで、イ・ボミにこんな質問をしてみた。

―― あなたには、なぜこんなに多くのファンがいると思いますか?

「私の性格がいいから?(笑)」

 イ・ボミは茶目っ気たっぷりにそう答えて、顔を赤らめた。

 本人は冗談のつもりで語ったが、それはあながち嘘ではない。イ・ボミは試合を終えたあと、サインを待つファンのほぼすべてに対応し、年末には私設ファンクラブ主催の忘年会にも必ず出席する。彼女は本当に、応援してくれるファンのことを大切にしているのだ。そして、この姿勢はこれからも変わることがないだろう。

「日本では、私は外国人です。にもかかわらず、私のことを応援してくれる日本のファンがたくさんいます。それには、とても驚いていますし、すごく感謝しています。そういう多くのファンの方々に支えられていることを、シーズン4年目を終えて改めて感じました。その期待に応えるためにも、もっと日本でがんばらなければいけないし、いい姿を見せなければいけないと思っています。ですから、尊敬する先輩方にも負けないような結果を残さなければいけない。そして、亡き父のためにも、2015年こそ、賞金女王になりたい」

 年が明けて、アメリカでトレーニングを始めているイ・ボミ。2015年シーズン全37試合を戦い抜くための体力作りはもちろん、ショット、パットと技術的な精度もさらに高めていくという。韓国人選手ながら高い人気を誇り、今や日本女子ツアーの"顔"となりつつある彼女が、賞金女王になる"お膳立て"はすでに整っている。

金明─文 text by Kim Myung-Wook