AirbnbやLyft、Uber…。いわゆるシェアリング・エコノミーと呼ばれる領域のサーヴィスがいま、成長を続けている。見知らぬ誰かが頼ってくれて、見知らぬ誰かを頼りにできる。「信頼」のO2O化と「経済」のP2P化が、都市の希薄な人間関係にあたたかいつながりを取り戻す。(本誌VOL.13より全文転載)

「Airbnb、Uber、Lyftが変えた世界:シェアリング・エコノミーの時代」の写真・リンク付きの記事はこちら

あと40分くらいしたら、シンディ・マニットは見知らぬ人をクルマに乗せる予定だ。フロントガラスに取り付けた iPhone のアプリで、サンフランシスコのサウス・オヴ・マーケット界隈へと呼び出され、オレンジ色のレインコートにコーヒー色のブーツを履いた褐色の髪の女性を、2006年式アクセラのハッチバックのフロントシートに乗せて、空港まで送ることになっていた。

マニットはこんなふうに見ず知らずの人を、自分のクルマに何百人も乗せてきた。わざわざ通行料のかかるゴールデン・ゲート・ブリッジを渡ってサウサリートまで行ったこともあるし、「シルク・ドゥ・ソレイユ」のアフターパーティにピエロを乗せていったこともある。

「他人を信頼しすぎてると言う人もいるかもね」と、マニットは運転しながら言う。「でも、わたしはそうは思わない」。

マニットはフリーランスでヨガのインストラクターをしていて、2012年8月に Lyft のドライヴァーに登録した。Lyft は誰もがマイカーをタクシーとして使うことのできる、当時は創業したてのライドシェアリング会社だった。いまでは同社は数千人のドライヴァーを抱え、ヴェンチャーキャピタルから調達した資金は3億3,300万ドルに達し、個人が所有物や労働力を提供するビジネス形態、シェアリング・エコノミーのリーディングカンパニーのひとつとされている。

Airbnb や上場の噂が絶えない Uber のような企業のおかげで、シェアリング・エコノミーはここ数年で、知る人ぞ知るムーヴメントから、経済界の一大勢力へと成長した(読者がこれを読む頃には、すでにいずれかの企業が上場を申請しているかもしれない)。

シェアリング・エコノミーはあまりにも短期間で大きな成長を遂げたので、政府機関やエコノミストたちはいまだにその影響力を測りかねている。けれど、結果は明白だ。こうした企業の多くが、つい5年前ならとんでもなく無茶だと思われた行動をぼくらに取らせているのだ。

他人のクルマに乗り込んで(Lyft、Sidecar、Uber)、空き部屋に他人を泊めて(Airbnb)、他人に愛犬をあずけて(DogVacay、Rover)、他人のダイニングルームで食事をする(Feastly)。車両(RelayRides、Getaround)やボート(Boatbound)や家(HomeAway)や工具(Zilok)を他人に貸す。

銀行に預金したり、Facebook に近況を投稿するだけではなく、人生そのものまでをも赤の他人にあずけようとしている。ぼくらは、インターネットが親密な関係をつくり出す新時代に突入しているのだ。

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Feastly
シェフを目指して修業中のカエティ・オフィシュは、ディナーの準備に大忙し。これから Feastly を利用してディナーを主催するのだ。

これは経済界におけるブレイクスルーというだけでなく、文化的な意味でのブレイクスルーでもあり、それを可能にしているのはメカニズムやアルゴリズムや、細かく規定された賞罰システムだ。これらのデジタルツールが、異なる人間同士が信頼し合うことを可能にしてくれる。eBay が開拓した個人対個人のマーケットプレイスの、次なるステップがこうしたサーヴィスだ。

(関連記事)企業が注目する3つの新しい消費者行動パターン

マニットは30歳だが、体つきはまだ若く、か弱い女性という印象だ。グリーンの細身のパーカに、ダメージジーンズをはいて、紫色のニットキャップからはショートの黒髪が飛び出している。一見頼りない外見とは裏腹に、Lyftのドライヴァーをしていて危険を感じたことは一度もないと言う。

「たんにそのへんで拾った誰かってわけじゃないから」。彼女は101号線の出口ランプの下を走りながら、Lyftのドライヴァーをすることと、手当たり次第にヒッチハイカーを拾うことの違いをすらすらと挙げていった。Lyftの乗客はアカウントを Facebook のプロフィールとリンクさせる必要があって、乗車のリクエストをするとマニットの iPhone に顔写真がポップアップ表示される。乗客は全員、過去に利用したドライヴァーから評価を受けているため、悪意のある人がいれば回避できる。また、乗客はクレジットカードを登録しているので、料金の支払いが保証されている。

「見知らぬ人を乗せるなんて、以前は一度もしたことがなかったのよ」と、マニットは言う。「でも慣れちゃった」。

マニットは信頼の閾値(いきち)が低いのだ、と学者なら言うだろう。つまりほかの人が危険だと考えてもおかしくない行動を取りやすい傾向がある、と。

「つねに自分をガードしてる人生は送りたくない。自分を外に出していきたいの」と彼女は言う。「でもそれを友達や家族に言ったら、当時のパートナーでさえもこんなふうに言ったわ。『マジかよ? なんだかゾッとするんだけど』って」。

ハロウィンのお菓子には(毒入りかもしれないから)気をつけろと昔から言われてきたのと同じように、こういった懐疑的な考え方をする人は多い。だからシェアリング・エコノミーの一部の経営者たちが、ビジネスを大きくすることだけじゃなく、ぼくらの人間関係観を抜本的に変えることが使命だと考えるのも不思議ではない。従来のインターネットが、他人同士がオンラインで出会い、交流するのを助けたように、現代のインターネットは個人やコミュニティを物質的な世界でつなぐことができるのだ。

「人々が欲しているよりも、人と人のつながりが薄いんです」と、ニューヨーク大学教授のアルン・スンドララジャンは言う。「シェアリング・エコノミーの魅力のひとつは、そんなギャップを埋めるのに役立っていることです」。

Lyft の共同創立者ジョン・ジマーは、それをサウスダコタ州パインリッジのインディアン居留区でオグララ・スー族と過ごした経験になぞらえる。

「そこで感じたコミュニティの感覚、そして仲間や大地とつながり合ってる感覚は、かつてないほどハッピーで、生きてるって気分にしてくれた」と彼は言う。「たぶん人は生身の人間との交流を強く求めてる。本能みたいなもんさ。いまぼくらはテクノロジーを使ってそれを叶えるチャンスを手に入れたんだ」。

だけどぼくらはまだ、それを叶えるところまではきていない。NORC(全国世論調査センター)が行った2012年度の総合的社会調査のデータを見ると、「人は概ね信頼できる」ということに同意した回答者はわずか32%と、1972年の46%より減少しているのがわかる。最近だと、13年10月に AP 通信と調査会社 GfK が1,200人以上のアメリカ人を対象に行った世論調査によれば、自宅で働かせている人間を「非常に」あるいは「かなり」信頼しているのは41%、クレジットカードを処理するレジ係を信頼しているのはわずか30%、旅行先で出会う人間を信頼すると答えたのはたった19%だった。

(関連記事)「信頼される顔」と「信頼されない顔」の違いは

マニットでさえ、次々と登場するシェアリング・サーヴィスのすべてを、両手を広げて受け入れようとしているわけではない。例えば他人にマイカーを貸すことについては、RelayRides や Getaround のような企業を通したとしても抵抗がある。「知らない人が自分のクルマを使うとなると話は別だわ」と彼女は言う。「わたしもその場にいなきゃだめ」。

彼女はそこで止まって、しばらく考え込んでいた。

「気になっちゃうと思うのよね、わたしのクルマをどうするつもり?って」。そこで小さく笑った。「そう、わたしのクルマをどうする気?って」。


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RelayRides
めったにクルマに乗らないアレクサンドラは、これからサンフランシスコのノブヒルで、初めて RelayRides を利用するキャスリーンにマイカーを受け渡す予定だ。「駐車場に入れたままじゃもったいないでしょ?」とアレクサンドラは言う。「ご近所さんの役に立てて、維持費もまかなえて、なおかつ使いたいときにはすぐ使えるのだから、みんなにとってプラスよね」。

異常なほどに暖かい日差しが降りそそぐ1月の朝、ぼくはサンフランシスコのサウスサイドにある自宅から20ブロックほど歩いて、パオロという男の家のドアを叩いた。彼はすぐに2013年式スバル・インプレッサのキーを渡してくれた。

パオロは週末しか運転しないので、平日は RelayRides を通じてクルマを貸し出している。他人に愛車を使わせることにためらいはなかったそうで、それはたぶん自分が「ヤバいくらいにお人よしな性格」だからだと彼は言う(ただし本名を公開するほどのお人よしではないらしい。「パオロ」は仮名だ)。

安全運転を心がけて、パオロのクルマをサンタクララまで走らせる。そこでロブ・チェスナットに会うことになっていた。元連邦検事のチェスナットは、eBay で〈信頼と安全(トラスト・アンド・セイフティ)部門〉を立ち上げた人物だ。

PayPal が野心的な技術者やビジネスリーダーを数多く輩出したように、関連企業である eBay もシェアリング・エコノミーのいたるところに勢力を広げ、Airbnb、RelayRides、TaskRabbit、oDesk などにメンバーを送り込んできた。チェスナット自身は、大学生向けオンラインプラットフォーム、Chegg のシニア・ヴァイス・プレジデントを務める一方で、Elance や Poshmark といったシェアリング企業のアドヴァイザーもしている。

チェスナットが初めて eBay を訪れたのは1997年、一ユーザーとしてポラロイドカメラの SX-70 を探しているときだった。eBay は成長を始めたばかりで、「人は基本的に善人である」という、創立者のピエール・オミダイアが描く大前提にもとづいて運営されていた。

これではあまり安心できないとチェスナットは思った。「連邦検事をしていたくらいだから、人を信頼しやすいタイプではまったくないんだ」と彼は言う。「いつだって社会の敵みたいなのを相手にしてきたわけだからね。それが今度は赤の他人に銀行の小切手を送れだって?」。

変わりゆく「信頼」のかたち

もちろん、ぼくらは毎日のように赤の他人とやりとりしている。店員にクレジットカードを渡すし、初対面のドライヴァーが運転するタクシーの後部座席に乗り込むし、見えないキッチンでつくられた料理を食べるし、眠っている間にホテルの従業員がマスターキーで部屋に忍び込んでくることもありえるという事実に見て見ぬふりをする。

だけどこうした取引は、複雑につながり合ったルールや、その起源を産業革命にまでさかのぼることができる裏付けや確信といったものに支えられている。

産業革命より前の時代だと、アメリカ人は小さな町や農村ごとに身を寄せ合う傾向があって、そこで住人たちは長い年月をかけて緊密な人間関係を築いていった。こうした経済システムのなかでは、皆が顔なじみだから、自然と相手によくしようという気になる。悪評が立てば、町中に知れ渡ることになるからだ。さらに言うと、小規模で均質なコミュニティの住人は、隣人が自分たちと同じ世界観をもち、同じ道徳観や信念体系をもっていることを知っていたので、ビジネスがしやすかった。

それが19世紀半ばに入ると、いろんなことが変わり始めた。アメリカ人が小さな町から大都市に移り住むにつれて、小規模な商人は大企業に取って代わられ、ローカルなマーケットは全国的な流通システムへと移行した。

突如として人々は、自分たちの商取引を守る手段として、人間関係や文化規範を当てにすることができなくなった。ビジネスの相手が知り合いでもなければ、たいていは会ったこともない人間だったからだ。結果として、UCLAの社会学者リン・ザッカーが論じたように、その時点までアメリカ経済を支えてきた信頼はもろくも崩れ去ったのだ。

しかしそのあと、国民が互いになくしてしまった信頼に代わる形式的なシステムが次々にあらわれた。

1870年から1920年までの数十年間で爆発的に増えたのが、経済学用語でいうところの社会資本セクター 、つまり銀行業や保険業や法律サーヴィスのような産業で、それらが新しいビジネス環境に対応したルールをつくっていった。同時に政府による規制が、こうした新種の産業が従うべきルールをつくるのに役立った。

「制度化によって、社会のなかに信頼を生み出すメカニズムがつくられ、経済秩序が徐々に再構築されていった」とザッカーは書いている。カジュアルで個人的な人間関係にもとづく信頼のかたちが、安心を体系化した中央集権型のシステムに取って代わったのだ。


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Airbnb
ゲストから人気のデミ・アデニランの部屋。ブルックリン区クラウンハイツのタウンハウスにある日当たりのよいワンベッドルーム。

制度化された信頼の厄介なところは、ユーザー同士の間に大きな摩擦が起こりうるということだ。

eBay としては、不要になったぬいぐるみを2、3個出品しているだけの出品者にまで、認可された小売店主として開業するための煩雑な規約に目を通してもらうわけにはいかない。

そこでチェスナットのチームは数年かけて、独自の信頼インフラを築くことにした。eBay のマーケットプレイスで起こるアクティヴィティを監視することから始めて、問題がありそうな出品者や購入者にはフラグを付け、独自の支払いオプションを用意して、最終的にはすべての購入品を保証するようにした。

そうすることで eBay は消極的な主催者から、すべての取引に介入する積極的な参加者へと進化した。20世紀初頭に銀行業や保険業が急増したときと同じように、この新しいシステムも信頼に代わるものとして機能している。つまり人々が互いに信頼しなくても、中央集権化されたシステムがみんなの利益を守ってくれるというわけだ。

ユーザーの信頼を支える、Airbnb の分析システム

Airbnb のような企業でも、同じようなプロセスが繰り返されてきた。共同創立者のブライアン・チェスキーら3人が当初考えていたのは、ホストとゲストを引き合わせて、あとは当事者の裁量に任せておく Craigslist(ローカルな情報交換サイト)のようなサーヴィスだった。

ところが数年のあいだに同社が担う役割はどんどん広がっていった。決済はすべて同社が行い、レヴュー機能を設け、ホストハウスを撮影するプロのカメラマンを雇い、ホストとゲストが連絡をとりあうプラットフォームを用意した。

最大の増強が行われたのは、2011年1月に悪名高い「ランサックゲート事件」が起きたあとだった。EJ というホストがサンフランシスコのアパートメントをゲストに荒らされて(ランサック)、宝石や HD テレビ、パスポート、クレジットカードを盗まれた事件だ。

これを受けて Airbnb は新しいセキュリティ対策をいくつも設け、24時間対応のカスタマーサーヴィス・ホットラインや、最高5万ドル(のちに100万ドルに拡張)のホスト保証を開始したほか、安全対策を行う部署を新たに設置した。

アンナ・スティールは元政府調査官で、現在は Airbnb の〈信頼と安全部門〉のマネジャーをしている。雇われたのはランサックゲート事件の約1年後だ。いまは15人のケースマネジャーのチームを率いていて、シンガポールやダブリン、サンフランシスコのオフィスにも同じ職のスタッフが80人ほどいるという。

彼女の仕事を知るために、ぼくは SXSW に先立って行われる会議を訪ねた。SXSW はテキサス州オースティンで開催される音楽とテクノロジーのフェスティヴァルで、Airbnb の需要が最も高まるイヴェントのひとつだ。

会議では、4人のメンバーが、ひとりずつ進捗状況を報告していく。エミリー・ゴンザレスは、不動産に甚大な損害を与える危険性があるとして同社のシステムがフラグを付けたゲスト(大人数のグループや初回から豪邸を予約したゲスト)に接触して、ホストの所有物を大切に扱うように呼びかけてきた。

昨年12月に、ニューアークの検察官の仕事を辞めてきたばかりのジャスプリート・バンサルは、エージェントを使ってサイトをくまなく調べ、規則違反の可能性のあるユーザーを探してきた。ブリタニー・ギャルヴァンは、なにか問題が起きたときに対処できるようオースティンに向かう予定だ。

(関連記事)CEOに訊く、Airbnbのアイデアを実現する秘訣

こうした努力を支えているのが、同社が集めてきた膨大な量のデータだ。ブッキングのあらゆる要素(予約、決済、ホストとゲスト間のやりとり、レヴュー)が Airbnb のプラットフォームを通じて行われるので、同社は宿泊1件ごとにやりとりの始まりから終わりまでを追跡できる。

もしホストがゲストとのやりとりのなかでウエスタンユニオン(国際送金サーヴィス)という言葉を使えば、Airbnb のシステムを回避しようとしているサインかもしれないと見なされ、そのメッセージはブロックされる。もしホストとゲストが互いに部屋をブッキングするのを繰り返していたら、ポジティヴなレヴューを偽造しようとしている可能性がある。もし新規のホストがふいにあらわれて、すぐに別の新規ゲストと高額なブッキングを繰り返し始めたら、マネーロンダリングのようなことが行われている可能性がある。

Airbnb の分析システムはこうした要素を考慮に入れて、予約1件ごとに「信頼スコア」を付けている。スコアが低すぎれば、自動的にフラグが付けられ、さらなる調査が行われる(ただしこれは、絶対的に確実なシステムではない。今年3月には、あるコメディアンの家が大規模な乱交パーティに使われてしまった。それでも Airbnb は概ねうまくいっていると答えた。2013年に600万人の利用者があったなかで、ホストからの損害請求に同社が賠償したのは、たったの700件だったという)。

いろんな意味でこのプロセスは eBay が築いた信頼インフラと似ている。マシンが顧客の代わりにリスクを背負い、互いの信頼度を評価する責任から人々を解放してくれているのだ。

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サンフランシスコに住むケパ・アスキナシーは、カナダのトラック運転手からギリシャのオリーブ農園主まで、数百人に及ぶ旅行者を泊めてきた。彼女は、ポトレロヒルの別荘風の自宅を自身でゲストに案内する。

ただし困ったこともある。eBay は白黒が非常にはっきりしたサーヴィスだ。注文したものが届くか届かないかのどちらかだ。そういうシステムなら、中央集権型の信頼インフラで事足りる。詐欺師や好ましくないユーザーを締め出すことができる。同じようにホテルの認可制度や衛生監視員なども、最低限の安全と安心を保証するのに役立つだろう。

けれどもシェアリング・エコノミー企業の場合、現場にマネジャーやスタッフがいない。ゆるやかに組織された個人の寄せ集めだ。

こうした企業の中央集権型信頼インフラは、明らかな悪(虚偽の情報、マネーロンダリング、泥棒)をキャッチすることはできるかもしれないが、ありふれた迷惑行為(スピード狂の運転手、部屋を汚す不注意なゲスト等)を止めることはできない。そのためにはもっとうまくソーシャル・エンジニアリングを行う必要がある。

RelayRides の CEO、アンドレ・ハダードはこれを親の立場にたとえる。「うちには3人の子どもがいるんです」と彼は言う。「彼らをコントロールするのは無理だけど、正しいことをしてくれるように促したいとは思いますよね」。

子どもをもつ親のように、多くの企業も成長に応じてルールをつくっていった。そしてときにはひょんなことから新しい手法を学ぶこともあった。

2011年9月にハダードが RelayRides に入社したとき、同社が追い求めていたのは Zipcar のような時間貸しのカーシェアリングのビジネスモデルだった。利用客は車両を時間単位で借りて、オーナーとはいっさい顔を合わせない。すべてのオーナーのクルマに搭載されたカードリーダーに会員証をかざして借りるだけだ。

ところが2012年の春、RelayRides はそのやり方の変更を余儀なくされた。その理由のひとつに、従来の大手レンタカーサーヴィスのほうが、Zipcar よりも明らかに魅力的だったことがあげられる。

既存のレンタカー市場は、時間貸しのカーシェアリング市場の60倍近くにもなる。同社はグローバルな成長を目指していたので、新規ユーザー全員にハードウェアを設置してもらうのは実現が困難なうえにコストがかかりすぎると考えた。そこで2012年3月、RelayRides はカードリーダーを廃止した。代わりに借り手とオーナーがじかに会い、キーを渡したり車両を点検したりするようにしたのだ。

結果は驚くべきものだった、とハダードは言う。RelayRides は事業を拡大するために、もっと便利でコストパフォーマンスのいい方法を探していただけだった。ところがふたを開けると、フェイス・トゥ・フェイスのやりとりのおかげで借り手がクルマをもっと大事に扱うようになり、それが双方にとってよりよい経験となっていたのだ。新しいやり方になってから、オーナーからの損害請求はぐんと減り、直接顔を合わせたあとでは借り手もオーナーも、ずっと満足度の高い評価を付けるようになった。

「みんなそういう人間的なつながりが大好きだったんです」とハダードは言う。「会話のなかで、共通点があることがわかると、信頼が高まって責任感が生まれます。クルマを返すときにその人の目を見なければならないんですから」。

(関連記事)「信頼度」は瞬間的に判断されている:研究結果

これが RelayRides のような企業と、それ以前に登場した eBay のような個人対個人のマーケットプレイスの違いだ。

eBay でカメラを買うとき、出品者のことは「NikonIcon1972」みたいな ID しかわからない。けれどもシェアリング・エコノミーでは、ぼくらは匿名ではない。直接顔を合わせることはないかもしれないけれど、やりとりはたいてい Facebook アカウント(ある意味、ぼくらの現実の姿でもある)とリンクしているので、たとえコンピューター上であっても、生身の人間を相手にしていることになる。

これは産業革命以前の社会の特徴だった隣人付き合いを、デジタルで再現したことになるのかもしれない。ただし現代の隣人は、Facebook アカウントをもつ誰か、ということになる。


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DogVacay
マイク・ラムは、DogVacayを利用して、いつも誰かの愛犬をあずかっている。チチ、トビー、カッシュ、ルカの4匹は飼い主の休暇中であってもラムと遊べるので、寂しい思いをしなくてすむ。

シェアリング・エコノミーの「アメ」と「ムチ」

シェアリング・エコノミーのマーケットプレイスのほとんどが、こうした人とつながる感覚を最大限に味わってもらおうとしている。

Lyft(スローガンは「クルマをもったあなたの友達」)は、乗客が後部座席ではなく、友達のように助手席に座ることを勧めている。Airbnb のホストはプロフィールに自分が大きく写った写真を載せることが求められているし、同社はホストとゲストが宿泊前に必ずコミュニケーションを取り合うよう呼びかけている。Feastly のウェブサイトには、すべてのシェフが自己紹介を載せているし、ディナー前のコミュニケーションが推奨されている。

「相手をよく知らないときに、わたしたちがどんな疑念を抱くかを調べた心理学研究は山ほどあります」と、シェルやアクセンチュアのアドヴァイザーも務める”信頼と安全”の専門家チャールズ・グリーンは言う。「その反面、わたしたちは知っている人の気分を損ねるようなことはしないのです」。

人が互いに紹介し合えば、よりよい行動を取るようになる。保険金の支払いが減って、会社の利益にもなる。そのくせ、ぼくらがサーヴィス・エコノミーに期待していたのとは根本的に異なる経験までさせてくれるのだ。

Lyft の乗客やドライヴァーたちの話を聞くと、ほぼ全員が次のようなことを言っている。「生身の人間と関わるのが好き」と。もちろん、認可を受けたタクシードライヴァーも生身の人間だ。ベルボーイだって、厨房で働くコックだって、ペットホテルの経営者だってそうだ。でもぼくらが彼らとやりとりするとき、向こうは営利企業の代理人として働いているにすぎない。

それがシェアリング・エコノミーの場合、商売はほとんど二の次で、生身の人間とふれあうことができることのほうにこそ主眼があるようにさえ感じられる(これはひとつには支払いがたいてい目に見えないところで電子的に行われているせいだ)。そういう点でも、これは産業革命以前の社会への回帰を意味している。人間関係やアイデンティティ(社会学でいう社会資本)が、使わなくては意味のない金融資本と同じくらい重要だった時代だ。

相手によくすることが、よりよい経験をもたらすという考えは、親密な経済の「アメ」の側面だ。同じように「ムチ」の側面もあって、悪いことをすれば参加を禁じられてしまう。

ユニオン・スクエア・ヴェンチャーズの GM で、MIT メディアラボの客員研究員を務めるニック・グロスマンによると、Uber のドライヴァーは同社のサーヴィスをたいがい好意的に受け止めているけれど、彼が話を聞いた一部のドライヴァーたちは、悪いレヴューが付いて評価が下がり、クビになることを心配していた。

「すると疑問が湧いてきます。過度の責任を負った環境で暮らすことについてわれわれはどう感じるか、ということです」とグロスマンは言う。「一定の結果を出すには、これは非常に効果的です。自然淘汰という意味で非常にダーウィン的でもあります」。

ちょうど産業革命以前のアメリカの住人のように、シェアリング・エコノミーの参加者はすべてのやりとりがその後の評判に(もしかしたら残りの人生ずっと)関わってくることを知っているのだ。

(関連記事)Uberは信頼を取り戻せるか:運転手をバイオメトリクスで選別へ

たしかに、いまのところシェアリング・エコノミーの参加資格審査はかなり厳格だ。もし時速20マイル以上のスピード超過で捕まったことがあれば、RelayRidesで車両を借りることはできない。Lyftのドライヴァー志望者は犯罪歴や運転中の事故や違反歴の有無を提出するほか、メンターと呼ばれる指南役から運転能力だけでなく人格についても判断してもらい、承認を受けなくてはならない。DogVacayのホストも、ヴィデオトレーニングや小テスト、電話面接を含む5段階の審査を受けることになっている。

加えて、シェアリング・エコノミーの新しい企業はたいがい、同じような志向性をもつアーリーアダプターたちに支えられているところがある。そのことが、ホストやドライヴァーが利用客を信頼するのに間違いなく役立ってきた。ぼくらは同じ価値観や個人的特徴をもっていそうな人を信頼しやすいことが、研究でも明らかになっている(「フィラデルフィアで同じことはできないかもな」と打ち明けるのは、サンフランシスコでLyftのドライヴァーをしているジョエルだ。「なにせサンフランシスコはいい人たちばかりだから」と彼は語った)。

これはハーヴァード・ビジネススクールの教授2人の研究結果に対する説明にもなる。Airbnb のゲストから黒人のホストに支払われた額が、白人のホストよりも少ないことがわかったのだ(教授らは解決策として、ホストのプロフィール写真を強調しないようにすることを提案していたけれど、これは同社が信頼を築き上げるためにしてきた努力を完全に無視している)。

でも結局のところ、こうした個人間の信頼を生み出し保護する新しいメカニズムには、これがなければ受け入れることを考えもしなかった相手や経験を、すんなり受け入れさせてしまうパワーがあるのかもしれない。

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Tinder
サンフランシスコのカストロ地区にあるカクテルバーでは、ニコール、ダニエル、カリの3人が Tinder でマッチした相手について、ガールズトークに花を咲かせている。相手は全員5マイル以内にいる人だ。

恋人探しも同じロジックで

人材コーディネイターとして働く30歳のカリ・スウィートランドはつい先日、絶大な人気を誇る出会い系アプリ Tinder に登録した。

一般に Tinder はシェアリング・エコノミーとは考えられてはいないけれど、同じようなロジックで運営されている部分もある。ユーザーが恋人候補と出会うためには、Facebook アカウントとリンクさせて、写真を次々にスワイプしながら見ていくだけでいい。Tinder のアルゴリズムが近くにいる人を表示して、共通の友達や趣味があるかにも注目してくれるので、もし互いに相手を気に入れば、実際に会ってもいいと安心して思えるまで、アプリでメッセージのやりとりができる。

スウィートランドは最初に Tinder に登録したとき、一瞬ためらったと言う。漠然と思ったのだ、自分がしようとしてることはちょっとおかしいんじゃないか、と。

でもそのあと、Lyft のクルマに乗り込んだり Airbnb で泊まったりするたびに同じようなことをしているのを思い出した。彼女や彼女の仲間がしょっちゅうしていることだ。するとたちまち赤の他人に会うことは、それほど恐ろしく危険なことではないように思えてきた。彼女にとっては、サンフランシスコのみんなと交流するごく普通の方法だった。

「わたしは人生でそれを受け入れたの。ここに暮らすみんなもそうよ」と彼女は言う。それは変わり者がすることでも、新しい規範をひけらかすような人がすることでもない。ぼくらのような普通の人間がすることなのだ。

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