【年末年始スペシャル対談 松木安太郎×福田正博 part2】

選手として、指導者として、解説者として、日本サッカー界に携わり続けている松木安太郎氏と福田正博氏のスペシャル対談。第2回は1月にアジアカップに臨む日本代表について語り合った。

■日本代表の「成功と失敗の基準」はどこにあるのか?

福田 ブラジルワールドカップ(W杯)で1勝もできなかったことで、日本サッカーはもう一度、世界における自分たちの立ち位置を見つめ直すことになったと思います。でも、現状の日本代表は、いまひとつ明るさや期待感がないように感じてもいるのですが----。

松木:日本代表の話をするうえで、明確にしておきたいのが、日本代表の「成功と失敗の基準」をどこにするのかということ。「成長」することが成功だとするなら、ザッケローニ監督のもとでの4年間は、W杯では勝てなかったけれど、大きく成長したから成功だったともいえる。でも、そうじゃないから監督が代わった。それなのに、相変わらず日本代表監督に与えられる目標があいまいな気がしてならないんだ。アギーレ監督に与えられた目標はアジアカップ優勝? W杯の予選突破? それともW杯での勝利? どうなんだろう?

福田:日本サッカー協会がどういう契約を結んだのか、内容はわからないですけど、一般的に考えれば、最初はW杯アジア予選の突破を目標に契約しているのではないでしょうか。そのうえで、W杯本大会は別途オプション契約を結ぶのだと思います。最初から本大会の「ベスト4」「ベスト8」が目標になった場合、引き受ける監督がいなくなると思うんですね。ただし、アジア予選突破が今の日本代表の目標になるのかと言ったら、そうじゃないと思います。

松木:もちろん。W杯でグループリーグを突破してこそ、初めて成功したといえると思う。だったら、監督との契約も初めからそこを目標に結ぶベき。そういった意味で、ブラジルでのW杯が、日本サッカーを変える大きなタイミングだったと思う。たしかにザッケローニ前監督がつくり上げた日本代表チームは、予選突破を決めるまでは素晴らしいサッカーをしていた。だけど、本大会直前で身長の大きなFWをメンバーから外してパスサッカーに徹すると思わせておきながら、本大会ではそれまでのパスサッカーの根幹を担ってきた遠藤(保仁)を外した。細かいことを挙げればもっと指摘したい箇所はあるけれど、本番を前にザッケローニ監督が迷走した印象はぬぐえないよね。ピッチ上でサッカーをするのは選手だけど、今回のW杯の結果には監督自身が勝負師ではなかったことが影響していると感じる部分もある----。

福田:W杯の第2戦、ギリシャ戦(0−0)で、相手の退場で日本がひとり多くなっている時に何の手も打てなかったのは、そういうことなのかもしれませんね。

松木:あの試合でこそ、ザッケローニ監督は自らが目指していた「3-4-3」をやるべきだった。それまでに何度か試してうまくいかなかったし、「4-2-3-1」という戦い方で結果を出してきたからプレッシャーがかかる場面で決断ができなかったんだと思う。ザッケローニ監督に大舞台の経験がなかったことが影響したという意見もあるけれど、じゃあ同じように経験がなくてもいいのなら、代表監督を日本人に任せてもいいと思うんだよ。もしくは、選手を育てながらアジア勢と戦うW杯予選が終わるまでは、日本人選手のことを理解していて、育成手腕のある日本人監督に任せて、予選突破後、本大会までの1年ちょっとは勝負師としての外国人監督を連れて来るという考え方だってある。それくらい大胆な手を打ってもいいと思うな。

■「ダブルスタンダード」に対応できる監督を探せ!

福田:それも可能性としてはありますね。日本代表を外国人監督に任すのであれば、やはりJリーグで指導経験がある監督がいいと僕は思うんです。しかも、世界における日本代表の立ち位置と似ているJリーグのクラブの監督という条件はつくのですが。

松木:それはどういった条件?

福田:日本代表には"アジアでの戦い"と、"W杯での戦い"というダブルスタンダードの問題が常についてまわります。サッカーで勝負を分けるのは、ゴール前で仕事ができるかどうかですが、アジアでの戦いでは体格差やパワー差はほとんどないですが、世界との戦いでは体格やパワーでハンデを負うことになります。そう考えると、センターフォワードに体格差で勝る外国人選手を連れて来て結果を残している監督では厳しいのかな、と。たとえば、2006年に浦和がJリーグを制した時、監督のギド(・ブッフバルト)はFWにワシントン(元ブラジル代表)を置きました。だけど、ワシントンみたいな強烈なFWは日本人にはいませんからね。

松木:日本代表に外国人選手を連れて来るわけにはいかないからね。帰化という手もあるけれど、現実的ではないし......。

福田:だから、Jリーグで結果を残しているかどうかというよりも、戦術や指導法をそのまま日本代表に置き換えられる人がいいと思うんです。実際、オシム監督がそうだったと思います。オシム監督は2003年からジェフ市原(当時/現在は千葉)を指揮されて、2006年に日本代表監督に就任しましたが、ジェフ時代から個々のタレントに依存しないサッカーを実践して、クラブを上位に引き上げました。Jリーグで結果を出すことを考えたら、勝負を決めるゴール前で違いを出せる選手を起用することが即効性のある手段なので、強力な外国人FWを連れて来る監督もいます。クラブチームは国籍に関係なく選手を補強できるので当然の選択ですが、そういう監督が日本代表監督に適任かと言ったら、疑問が残るんです。弱者としての立場を自覚し、格上にどうやって勝つかを考える。それは世界での日本代表の立ち位置と似ています。オシム監督のこのスタンスは、代表監督になってからもブレなかった。

松木:一方で、Jリーグで最も結果を残したチームの選手や監督を、日本代表として招集することも必要だと僕は思う。Jリーグ優勝チームと日本代表は、もっと直結しているのが本来あるべき姿だと感じるな。1月のアジアカップの代表メンバーは、2014年のJリーグベストイレブンがほとんど名を連ねたけど、サンフレッチェ広島が連覇を達成した時、ザッケローニ監督の日本代表に呼ばれた広島の選手はいなかった。最終的に青山敏弘はブラジル大会のメンバーに入ったけれど、2012年にJリーグMVP、得点王、ベストイレブンに選ばれた佐藤寿人は落選した。他国に目を向けてみれば、たとえばドイツはバイエルン、スペインはバルセロナとレアル・マドリード、イタリアはユベントスといった具合に、各国代表はその国のリーグで優勝するクラブの選手が中心になっている。だから、日本代表も一度、Jリーグを制したクラブをベースにしてみたらどうかと思う。クラブの監督ごと日本代表になってもらい、Jリーグを制したサッカーが世界でどれくらい通用するのか。そういうことをすれば、日本代表だけではなく、Jリーグの現在の実力やレベルも見えてくる。それくらい大胆な策を、日本サッカー界は講じていかないといけないと思うんだよね。

福田:海外リーグに日本人のトップ選手たちが移籍している現状では難しい部分もありますけど、それはおもしろいですね。松木さんの言うとおりで、現状はJリーグと日本代表がリンクしていないという問題があります。同時に、まずはJリーグ全体のさらなるレベルアップも必要ですね。ドイツやスペイン、イタリアのリーグに比べると、その差はまだまだあると思います。
 
松木:代表とJリーグの連動、そして強化。これは日本サッカー協会とJリーグが連携して策を練らないとできないよね。それから、選手の気持ちとしては、Jリーグで得点王になっても、ベストイレブンになっても、日本代表に選ばれないのではモチベーションが低下するし、ファンだって日本代表にJリーグのクラブ所属の選手がもっとたくさんいないと、Jリーグに興味が向かないでしょ。もうひとつ、日本代表に就任した監督によって、日本サッカーのスタイルが変わってしまうのも問題なのかなと思うな。継続性というのも大事だからね。

福田:その点については、「日本代表の戦い方」というものを確立していかないとダメですよね。いまの日本サッカーは、「世界のトレンド」を追いかけているけど、同じ土俵で、同じスタイルで一流国と戦ったら勝負にならない。それは今回のW杯で痛いほどわかった。強豪国に勝つために現在のトレンドを知る必要はあるけれど、必ずその真似をしなければいけないわけではないし、強豪国に勝つためにさまざまな角度から策を講じないと、いつまでたっても差は埋まらない。

松木:相手の方が、常に先んじているからね。

福田:だからこそ、世界における日本代表の立ち位置を理解できて、日本人のメンタリティーがわかっていて、日本人に向いているサッカーのスタイルを構築できる監督が、日本代表には必要ではないかと思います。

松木:アギーレ監督は、日本のことをあまり知らない状態で代表監督に就任した。もちろん猛スピードで勉強しているだろうけど、その時間はJリーグクラブを率いた経験のある監督よりどうしても少ない。そこをどう埋めていくのか、今後の手腕に注目したいね。

福田:代表監督は、仮に4年間任期を務めたとしても、実質的な活動日数は300日程度ですから、その短い時間で日本人選手のメンタリティーを理解するのは難しいとは思いますが、期待したいですね。

■日本代表監督には、W杯本大会での結果を求めるべき!

松木:ここまで話をしていて思ったんだけど、やはり日本代表監督は目標を明確に提示できる人に率いてもらいたいね。日本サッカー協会も、そこはしっかり人選をして交渉してもらいたい。代表である以上は、勝つことが求められる。W杯出場に導くのは当たり前で、本大会でどういう結果を残せるのかが重要。現状のように、アジアカップ連覇を目指しますとか、W杯アジア予選突破とか、目先の目標ばかりを追うのは、どうかなと。

福田:僕が子どもだった頃や現役時代は、W杯は夢の舞台。その大舞台に出るために、ヨーロッパや南米からさまざまな指導者を招いてレベルの向上をはかって来ました。その結果、日本代表は1998年のフランス大会から5大会連続でW杯に出場。いまでは出場することは当たり前になっていて、本大会で結果を残せるかどうかが問われていますからね。

松木:日本代表のレギュラーでない選手が欧州リーグでプレーできるようになったのも、2010年の南アフリカW杯でベスト16という結果を残したことが影響しているはず。日本サッカーが海外から評価されるには、やはりW杯で勝つことが一番。そう考えたら、Jリーグがさらに魅力的になって、いい選手をたくさん輩出して、日本代表をもっともっと強くしてもらいたいね。

福田:そのためには、今後は誰が代表監督になろうとも、すべての面において結果を求めていくことが重要になるでしょうね。パスサッカーだろうとカウンターサッカーだろうと、何のための戦術かと言ったら、試合に勝つため。手段と目的を履き違えてしまう人が多いですけど、なぜ自分たちのスタイルを求めるかと言えば、それは、より高い確率で勝てる方法を手にしたいから。しかも、サッカーは相手がいるスポーツだから、ひとつのスタイルしかできないよりは、多くの引き出しを持っておいた方が勝つ確率は高まる。W杯での結果を最優先に考えたら、実はシンプルなんですよね。

松木:日本人は試合内容を気にするし、「試合に勝って勝負に負けた」というのを嫌うのかもしれない。だけど、32カ国しか出られないW杯に、FIFAランキング40位台で出場するということは、ほとんどの対戦国は格上になる。格上との対戦は、内容うんぬんじゃなく、押し込まれても勝つしかない。どんな相手でも勝つということを、もっと突き詰めないといけないね。

福田:そのためにも、やはりJリーグが重要ですね。「日本代表を強化するためのJリーグ」というリーグ誕生時の理念を、クラブレベルから全員がもう一度共有し直す時期だと思います。たしかに、選手のレベルは海外でプレーする選手がこれだけ増えるまでになった。だけど、それだけではまだ足りなくて、監督やコーチなどの指導者も育成しなければいけない。それなのに、Jリーグは外国人監督を連れて来るクラブがまだまだ多いと思います。

松木:外国人監督を招聘するのは、失敗したときに責任を取らせやすいとか、人間関係をこじらせずにすむからというのもあると思うよ。ただ、クラブも組織としてもっとプロ化していくべき時期に来ているのは確かだね。

福田:Jリーグでもどこの国でも、センターフォワードとセンターバックに外国人選手を連れてきて使うチームがありますが、このポジションは体のサイズが求められるので、日本人選手の人材がとくに不足していると思います。しかし、Jリーグでそこを簡単に外国人選手で埋めていたら、このポジションで日本人選手がなかなか育たない。結果的に、センターフォワードとセンターバックの人材不足がさらに深刻になって、日本代表の強化につながりにくい。同時に、現状のJリーグでは、クラブがそのポジションで日本人選手を育成しようとしても、それで結果を出せなかったら降格することもありえる。クラブも監督も、降格するくらいなら外国人選手を使う。なかなか難しいところではあるけれど、この問題にうまく対処できないことには、選手育成はなかなか進まないでしょうね。

松木:若い選手は、試合で使い続ける中で、短期間で急成長することもあるからね。

福田:練習試合ではなく、緊張感のある公式戦を経験することで急激に伸びる。そのことを理解して取り組んでいくべきだと思います。日本代表の強化を考えたときに、育成は切り離せない問題ですから。

松木:これについては次で話をしよう。まだまだ言いたいことは山ほどあるからね。

つづく

【プロフィール】 
■松木安太郎
1957年11月28日東京都生まれ。
日本リーグ時代、読売(現・東京ヴェルディ)で活躍し、日本代表としても国際Aマッチ12試合に出場。90年に引退後、読売のコーチとなり、93年からヴェルディ川崎の監督に就任。Jリーグ初代優勝監督となった。また、94年にもリーグ優勝して連覇を達成。その後、セレッソ大阪、東京ヴェルディの指揮も執った。現在はテレビ朝日サッカー解説のほか、さまざまな分野で活躍。

■福田正博
1966年12月27日神奈川県生まれ。
日本リーグ時代、三菱(現・浦和レッズ)に入団し93年からJリーグへ。95年50試合32得点で、日本人初のJリーグ得点王に。日本代表45試合9得点。02年現役引退。S級ライセンス取得後、2008年から浦和レッズコーチに就任。現在はサッカー解説者として『S☆1』(TBS)など各媒体で活躍。

津金一郎●構成 text by Tsugane Ichiro