(吉田と組んだのは)初めてです。すごくいい経験になった。試合途中も、相手のレベルがあまり高くなかったので、『もうちょっとリスクを背負おってやろう、あえて2対2(CBふたり)で守ろう』と麻也くんが言ってくれた。両サイドが上がっても呼び止めずに守った。
 
 結局、相手は来なかったですけど、本番ではそういう状況は必ず起きると思うんです。昨日もそういう危ないシーンがあったし。そういうことを麻也さんは想定して準備しているんだと思う。そういう部分を自分も一緒に合わせてやっていければいいなと思います。
この暑さの中では、すべて前から行くのは無理だし、ステイするところはステイしなければいけない。そこはCBが声をかけて、スイッチを入れるべきだと思う。ちょっと全体的に高いなと思えば下げさせる。そういうところは、やっぱ、麻也さんがうまいことやってくれていたと思います」
 
 試合後の彼の言葉の端々から、その充実ぶりが感じられた。
 4年前のアジアカップでもそうだったが、決勝まで行けば6試合を戦う長丁場の大会。累積警告での出場停止や退場、負傷など、思わぬアクシデントで突然出番がやってくることも考えられる。もちろん、サブ組の存在はチームの士気を左右する。だからこそ、溌剌としたオーラを放つ昌子の“声”がピッチ内外で、アギーレジャパンの新しい力となることを期待したい。
 
「自分の役割が、先発か、途中からなのかは分からないけど、どっちでも、しゃべり続けることが大事。途中出場で活躍するラッキーボーイが出るというのは、チームにとってもいいこと。運を味方にしないと勝てない大会だと思うから。前回大会では、イノさん(伊野波)、李さん(忠成)がゴールを決めた。そういう存在を2、3人は作りたい。そういう話を具体的にすることはないけど、きっとみんな心の中では、思っているはずだから」
 
 2010年のワールドカップメンバーをベースとして戦った2011年のアジアカップ。その先発メンバーのほとんどがブラジル・ワールドカップを戦い、ポジションを守っている。しかし、サブ組の顔ぶれは大きく変わった。アジアカップで控えだった選手のなかで、その後の4年間を代表として過ごした選手はごくわずかだ。
 
 その理由はいくつもあるだろうし、ひと言では片づけられない。ただ、結果として、主力選手たちは経験を積み、進化が促され、それ以外の選手たちとの差が広がったことは、ひとつの事実だと考えられる。
 
「まずは経験のある選手たちがコニュニケ―ションをとり、それを若い選手たちへ伝える。そういうことをやらなくちゃいけないという話をし、それを普段からやっている」
 オーストラリア大会を前にそう話したのは長谷部だった。
 
 そしてこの日、練習冒頭には、本田と酒井高、そして塩谷が熱心に話し合っていた。上の世代が下の世代に歩み寄り、下の世代は上の世代から、ひとつでも多くの学びを得ようとしている。そういう空気はチーム内の競争を活性化するはずだ。指揮官に頼るのではなく、自主的に動き出したことの意味は大きい。
 
 若い選手たちのチャレンジャーとしての野心を支えるのは、自分の強みを押し出す自信と、貪欲で謙虚な姿勢だ。
 
 この試合では1トップで起用されたが、前日に続き得点を挙げられなかった武藤は、自身の現状を「自分との勝負」と語った。小林にしても太田にしても、そして慣れない右サイドでプレーした植田にしても、シーズン終了から間が空き、コンディションとの折り合いと新チームでの役割とをうまく消化できているわけではないだろう。もどかしさを感じているにちがいない。
 
 これからの約1か月間の大会中、もしかしたらプレー機会に恵まれないという不遇に陥る選手が出てくるかもしれない。たとえ、ネガティブな感情を抱えることになったとしても、チームの一員としての勤勉さを忘れず、どうすればここで活きるのかと積極的に模索する時間を過ごせば、それが成長の土台となるはずだ。
 
 日本代表の進化の原動力として必要なのは、若い彼らの成長だ。アジアカップでは、そのきっかけを掴んでほしい。
 
取材・文:寺野典子