近賀ゆかりインタビュー(1)「アーセナル編」

 2014年シーズン、近賀ゆかりは新たなチャレンジの場を求めて、イングランドのアーセナルレディースFCに自身初となる海外移籍を果たした。しかし、近賀の定位置である右SBにはイングランド代表のアレックス・スコットの存在があるため、近賀に与えられたポジションはまさかのCB。もちろん初めての体験だ。さらにボランチへとその役割は広がっていく。本職以外のポジションでのシーズンを彼女はどう捉えていたのだろうか。

―― 初めての海外移籍でしたが、具体的にイメージし始めたのはいつごろですか?

近賀(以下、近賀):中学生のときに初めてアメリカに行って、女子サッカーってこんなにメジャーなんだって衝撃を受けたのがずっと頭にありました。北京オリンピックで世界の強豪と戦って、"海外のチームでやるっていうのもいいな"って。代表に入ってからですね。

―― 実際にアーセナルからのオファーを聞いたとき、どんな気持ちでしたか?

近賀:その前年に、あるチームからオファーをもらっていたのにケガをしちゃって、ダメになって......。リハビリ中、もう一回海外でチャレンジしたいと思っていました。それが実現できた。だから今回のオファーを聞いたとき、またチャレンジできることにホッとしました。ケガでチャレンジすることを絶たれたのがすごく悔しかったから、チャレンジできるところまで行けたっていう安心感がありました。

―― 一年待っての移籍。このシーズンで自身の成長を感じますか?

近賀:SBはできなかったから......。思い描いていたことと違うことはたくさんありました。試合にもなかなか出られなかったり、ポジションも初めてやるところだったし。でも、それが逆に新しい発見にもなった。たぶん国内にいたら、自分はSBっていうイメージがあると思うんです。日本だったらない選択というか、使われ方だったから、真新しいことだらけでした。(※)
※イングランド女子1部リーグ・近賀ゆかり14試合中、11試合出場

―― 一番特に「え?ここ?」っていうポジションはCBとボランチのどっちでした?

近賀:CBもボランチもどっちも(笑)。どっちも私にはないでしょって思ってたポジションだった(笑)。「できるか?」って聞かれて、「できない」とは言えないですよね。で、「......やってみる」って伝えました。

―― チームの雰囲気ってどんな感じでした?

近賀:INAC神戸のときもアメリカ人選手とかがいたので、話す機会はあったけど、結構陽気な感じだったんですよ。だからそういうのを想像してたんだけど......。イングランドの選手って結構シャイなんですよね。でも、すごく親切でした。

 監督がシーズン中に変わったんですけど、変わる前に監督が「辞めるかも」って話をしてたんですよ、試合後のかなり長いミーティングで。その次の日にチームメイトが家に来てくれて、もちろん英語でのミーティングだったので、「昨日の話わかんなかったでしょ?大丈夫?」みたいな。「監督は辞めるって考えてるけど、自分たちは結果残すしかないから」っていう話をわざわざしに来てくれて。

 そんなことしてくれるなんて想像もしてなかったから、すごくビックリしました。うれしかったし、チームの一員になるのってすごい大変だなって移籍して思っていたけど、そういうサポートはすごく助かった。自分も日本ではこういうのやらなきゃなって思いましたよ、本当。

―― チーム内での自分の立ち位置はどう感じてましたか?

近賀:向こうではほぼボランチをやっていたんですけど、運動量のある選手はほとんどいなかったんですよ。自分の売りはそこだったから、出さないといけないなって思ってた。チームが持ってる私のイメージに、運動量のある選手だというのがあったと思うので、細かい動きとか守備をしっかりとしました。

―― ビックリされませんでした?"カバー"という概念に(笑)

近賀:してたでしょうね(笑)。私が走るとそっちにもあっちにも行くの?って驚いていました。みんなは嫌がってやらなかったりするから、私がそれをする。そうしていくうちに近賀が行くから、周りも連動しようって言ってくれたりとか。最初は勝てない試合が続いていたけど、上手くいかない中でも運動量は気をつけてましたね。

―― ボランチは、気が利いてないとできないポジションですね。そういうプレーをしていく中で、チームメイトから信頼されてきてるなって感じることはありましたか?

近賀:正直、そういう信頼を勝ち取れたかって聞かれたら、ちょっと微妙かな。でも、得点って、手っ取り早いっていうか、信頼を勝ち取るには一番わかりやすいですよね。

―― 得点に絡む動きができるとか。

近賀:はい。向こうに行って何試合目かに私からシノ(大野忍)にボールを出して、決めたのはすごく評価してくれたんです。向こうではなかなかない感じの形だったんですよ。シノが上手く引き出してくれて、「日本人ってああいうプレーするんだ、キレイなゴールだったね」って。代表で言ったら、アヤ(宮間)がスルー出して、FWが相手の間で上手くターンしてみたいな感じ。向こうはロングシュートとか、クロスとか、ドリブルして、1−1を抜いてシュートとかが多いから余計に、隙間を縫って、意志の疎通が取れた連係は評価してくれる。続けなきゃいけないって感じました。

―― ここ数年、日本ではとことん頭を使うサッカーやっていました。それはすごくボランチとして役に立ったのでは?

近賀:それは思います!守備のところでバランスを取ったりとか。海外のチームだと1−1の勝負が基本だから、カバーもいない。もうちょっとライン上げてほしいとか、2枚マークがいるから1枚下がってほしいとか。伝えるのは難しかったですけど、それが上手く伝わるとやってくれる。カバーに入るタイミングとか、ポイントはボランチも同じですから。

―― でも、近賀選手はカバーに入るけど、近賀選手が出るときはきっとカバーに入ってくれなかったりするんですよね?

近賀:そう!それが難しかった。自分がカバーに入ると、自分の本来のスペースが空いちゃうから、「ステイしろ」って何回も言われました。自分のスペースでやられたら、自分の責任だし、そういう迷いはありました。

 CBをやったとき、インターセプトを狙っていたところ一発で抜かれて失点したんです。ハーフウェーライン付近だったんですけど、そのパターンが2試合くらいあって。日本だったら、CBが一枚はがされても、SBとかがカバーに入るから、センターサークルから独走されてゴールを奪われるなんて考えられない(笑)。でも、アーセナルでは実際にやられるから、ああカバーがないってこういうことかっていうのを思い知らされました。それでチームが負けちゃったので、そのバランスは難しかった。

―― ボランチは攻守に関わるから、伝えることってすごく大変だったのでは?

近賀:めちゃくちゃ大変でした。とっさに言葉が出てこないんですよね。だからアヤ(宮間)とか澤(穂希)さんとか、ナガ(大儀見優季)とか、海外で周りを使うってすごいなって思いました。

―― チャレンジしたいと臨んだ海外移籍は、文字通りチャレンジの連続だったんですね。

近賀:本当、行ってよかったです。自分も考えなかったことを要求されるから。試合に出られないもどかしさとか、練習の少なさに戸惑うこともありましたけど。

―― ケガ以外で、もどかしい気持ちになるのは久しぶりじゃないですか?日本だと"なでしこジャパンSBの近賀"のイメージが定着しているけれど、今回はなんだか一年生みたいに......。

近賀:そうそうそう!そういう感じ。そうだ、一年生だ、私(笑)。みんなも本当のポジションじゃないってことを知っててくれたし、たまにSBに入ると「やっぱりSBの選手なんだね」って言われましたもん(笑)

―― やりたかった経験を十二分にした感じですね。齢30歳で――。

近賀:一年生(笑かできる経験じゃないです。チャレンジすることを決めてよかったと本当に思える1年でした。

 決して思い描いていた通りのチャレンジだった訳ではない。それでも、彼女はこれまでに積み重ねてきた経験を生かし、新たなポジションに触れることで自身の強みを再確認した。

 そんな近賀が改めて感じたなでしこジャパンの強みと、ワールドカップ連覇への鍵とは――。

(なでしこ編へつづく)

早草紀子●取材・文 text by Hayakusa Noriko