TVドラマ『ワカコ酒』公式サイトより

写真拡大

1月8日からBSジャパンで放送がスタートする漫画原作ドラマ『ワカコ酒』。20代の呑んべえOL・村崎ワカコがさまざまな飲食店にふらりと立ち寄り、うまいサカナとともに“ひとり飲み”を堪能する姿は、連載当初からファンの間で女性版『孤独のグルメ』として話題になっていた。

実は終わりが決まってる「人気長寿漫画」

そこで今回は『ワカコ酒』vs『孤独のグルメ』――原作コミック同士を6つの項目で徹底比較。主人公である 村崎ワカコ と 井之頭五郎、どこが共通していてどこが違うのかを浮き彫りにしてみたい。

■孤独さ … 勝者♂『孤独のグルメ』

どちらも“うまいメシを一人で食べる”という作品テーマは共通しているが、とことん孤独を突き詰めたのは『孤独のグルメ』主人公・井之頭五郎だ。

松重豊さん演じるドラマ版の五郎はそれなりに表情豊かで社交性も見られるが、原作コミックではあまり笑顔になることなく、他人とのコミュニケーションも苦手という描写になっている。たとえば回転寿司屋でなかなか注文を通してもらえない、出張先のタコ焼き屋で関西人のノリに付いていけないなど、それを示したシーンには事欠かない。何かを食べるときは常に一人。仕事は一人で自営業。私生活も独身(過去に恋人はいたらしいが)。他人との会話が成立するのは「話しかけられた時」と「食べ物を注文する時」に限られる。

一方の『ワカコ酒』主人公・村崎ワカコも飲み食いする時はほぼ一人。しかし友人の結婚式に呼ばれたり、女友達だけでタコ焼きパーティーを開いたり、母親を旅行に連れて行ったりするなど他人と喋りながらご飯を食べるエピソードも少なくない。また、職場でもよく会話し、さらに親公認の彼氏までいるという設定。実はそれほど極端に孤独なわけではないのだ。

■料理のコーディネート … 勝者♀『ワカコ酒』

複数の料理を頼むさい、どれだけ味のバランス・調和、食べるシチュエーションにも気を配れるか。これは『ワカコ酒』の圧勝である。

呑んべえであるワカコは20代と思えないほど“酒とサカナ”の組み合わせに関して経験値が豊富だ。キンメ鯛の煮付けには冷やの日本酒、粉物や揚げ物系にはビール、筑前煮には芋焼酎の水割り、ポテトサラダにはウーロンハイ……互いの旨さを引き立てる彼女のチョイスにハズレはなく、いつも幸せな食事を堪能している。

対する『孤独のグルメ』の五郎は、まったくアルコールが飲めないという設定。この時点で酒とサカナのコーディネートは評価外となる。また、店での注文も後先を考えない“その場の勢い任せ”だ。なので豚汁と豚の炒めものがダブってしまったり、食べきれないほどの量をコンビニで買い込んで後悔したりする。

また、骨折で入院した時は「バナナを食べてから牛乳を飲み、口の中でバナナジュースを作ってみる」という試みをした(新装版コミックスに収録)こともあるが、センスが独創的すぎて読者は苦笑するほかなかった。味覚は意外に鋭かったりするものの、万人受けするコーディネートの面ではワカコに軍配が上がるだろう。

■飯テロ度 … 引き分け

食事シーンを見ている読者(視聴者)がどれだけ「その料理を自分にも食べさせて!」と熱望するか――いわゆる“飯テロ”の度合いは『ワカコ酒』『孤独のグルメ』とも同点の引き分けとしたい。

単純に「うまそう!」と思わせるだけなら前項の通り、鉄板のオーダーを心得たワカコの勝利だろう。しかし五郎の食事シーンも(失敗はあるが)侮れない。その大きな理由は旺盛な食欲を活かした“数うちゃ当たる”注文法。ドンブリを完食しつつ一品料理も頼んだり、これでもかと焼き肉を腹に詰め込んだり、定食を平らげた直後にカレーライスも注文したり……たくさんの料理を大の男がモリモリ食べまくる姿はそれ自体が爽快で、つい見ている私たちも食欲を刺激されてしまうのだ。

がっつり食べたい日のランチやディナーなら『孤独のグルメ』が、仕事帰りや寝る前に軽く小腹を満たしたい時は『ワカコ酒』が、それぞれ読者にとって強力な“飯テロ”作品として襲いかかってくるだろう。

■言語表現の豊かさ … 引き分け

会話すること自体が少ない“おひとり様”なグルメ漫画では、食事シーンの心情はもっぱらモノローグで表現される。こうしたボキャブラリー(語彙)がどれほどバリエーション豊かなのか。『ワカコ酒』『孤独のグルメ』両者とも引き分けにしたい。

名言の多さでいえば『孤独のグルメ』が恵まれている。うまい焼き肉を食いながら「うおォン 俺はまるで人間火力発電所だ」、従業員を口うるさく罵る店主に「モノを食べるときはね 誰にも邪魔されず自由で なんというか救われてなきゃあダメなんだ」、お目当てのメニューにありつけなかった時の「がーんだな…出鼻をくじかれた」――どれも五郎の表情と絶妙にマッチして印象に残りやすい“味のある”セリフばかりだ。『孤独のグルメ』自体が人気作品ということもあり、ネット上のいたるところでこれらのセリフがパロディ的に使われていたりもする。 

一方の『ワカコ酒』は、いわゆる名言はさほど見られない。その代わり食事シーンで“呑んべえの心情をよく理解してるなぁ”と思えるセリフが非常に多いのが特徴だ。「日本酒と 鮭の皮はこたえられん」「チープなメニューだから気どらない飲み物がハマる」「ここち良く小腹にたまっていくのう」――わりと見た目はオシャレな女子だけど、食事中のセリフはまるで酒飲みのオヤジそのもの。アバウトな味の表現を好む五郎に対し、こっちのワカコはじゃがいもの産地を食べただけで言い当てるなどグルメ度も高い。こうしたギャップが小気味よく、本当に満足した時に口から漏れる「ぷしゅー」という吐息がワカコのトレードマークになっている。

■平穏な食事風景 … 勝者♀『ワカコ酒』

一人でも大勢でも、料理は楽しく食べたいもの。“いかに満足して食事を終えられるか”については『ワカコ酒』の圧倒的な勝利と言っていい。

ワカコは仕事で失敗してモヤモヤすることもあるが、それは最初の1ページだけ。ふらりと店に入って酒と料理を楽しんでいるうちに気持ちがやすらぎ、笑顔で毎回のエピソードを終えている。

対する『孤独のグルメ』の食事シーンは、およそ平穏とはいいがたい。特にドラマ版とは違って原作コミックではこの傾向が顕著だ。よくあるのがメニュー選択のミス。いい歳して(?)チャレンジ精神旺盛な五郎はメニューの詳細も知らないまま注文することが多く、しばしば味や量のバランスに重大な問題が生じる。また、新幹線の車内でうっかり焼売弁当を開いてしまい、強烈な匂いのせいでまわりの客からヒソヒソ噂された失敗も……。

極めつけは横暴な店主と小競り合いになり、得意の関節技で勝利してしまったエピソードだろう(五郎には古武術の使い手という設定がある)。こんなトラブル体質なので、読者は毎回「今度の五郎はどんな目に遭うのか……」とハラハラしながらページをめくることになるのだ。

■作品の楽しさ … 引き分け

ここまで見てきたように『ワカコ酒』と『孤独のグルメ』は、似ているようでまったく違う点も多い。個人の好き嫌いがあるとはいえ、総合的なおもしろさは互角と言って良いだろう。

思うに、比較対象になっている『孤独のグルメ』は食べ物だけでなく、井之頭五郎という不器用なキャラクターのリアクションを楽しむ作品だ。うっかりミス、間の悪いトラブル、無軌道な食べっぷり、ちょっとした迷言や奇行まで含めて見ている者を飽きさせない。グルメ漫画に“プラスα”された部分がおもしろいのだ。

『ワカコ酒』はそれと対照的に、オヤジ臭い呑んべえながら器用に世間を渡り、うまい酒と料理に舌鼓をうつワカコを見て癒やされるための作品だと言える。自分も今度はこんな店に行ってみよう、酒と料理のこういう組み合わせ方は見習おう……そこには私たちも追体験したくなる至福の時がある。純粋に“うまいものをうまく食べる”という一点において、非常にすぐれた作品なのだ。

あとは『孤独のグルメ』と同じように、実写化にあたって『ワカコ酒』がどうアレンジされるかも楽しみである。主演は“頭突きで瓦割り”のCMで一躍有名になった武田梨奈さん。表情豊かでエネルギッシュな彼女がワカコをどう演じてくれるのか、1月8日からの放送に注目したい。