企業の経営者にテクノロジー観を訊く。破壊的テクノロジーを一手に握ってきたIBMはいま、破壊される側に回ったのではないか?という問いに、日本IBM代表取締役社長のマーティン・イェッターは、どう答えるのだろうか。

「イェッターさん、IBMはディスラプトされる側に回っているのではありませんか?」の写真・リンク付きの記事はこちら

「あなたにとって、テクノロジーは一体どんな意味をもつのでしょうか?」──。本稿は、こんな質問に経営者が答えるインタヴューである。最初に登場するのは、日本IBM代表取締役社長のマーティン・イェッター。同社としては56年ぶりの、1959年に現在の社名に変更してからは初の外国人社長だ。

イェッター氏に、「あなたにとってテクノロジーとは何でしょうか?」と率直に訊いた。

「テクノロジーとは、多くの人が求めることを実現するもの。(IBMとしては)顧客の成功と繁栄を支え、効率化の向上とグローバル化を支えてきたものの神髄にあるのがテクノロジーだと考えています。そして、テクノロジーは常に進化しており、破壊や変革をもたらすものでもあります」

IBMは、もともとはチーズや食肉のスライサーなどを製造するメーカーだった。顧客が求めるものであればスライサーから経理用の電卓までも製造し、そうやって自社を100年以上も存続させてきた。しかし、この発言で重要なのは、「テクノロジーは常に進化しており、破壊や変革をもたらすものでもある」という点だろう。

一般に、様相を一変させるようなテクノロジーは、かつて政府や軍、大企業だけが生み出しうるものであり、行使できるものであった。多くの優秀な人材と投資によって生まれたテクノロジー、例えば火薬や原子力技術は使う側にも組織力と運用力を求めたのだ。


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それが近年になって変化し始める。破壊的なテクノロジーを生む側は、IBMのような大企業である。しかし、そのテクノロジーを使うのが一般消費者に変わり始めたのだ。これは、新しいテクノロジーが使われる領域が、大組織から一般消費者へと移り変わってきた、とも換言できる。iPhoneがその代表例といえよう。

そうなると、これまで破壊的なテクノロジーを独占してきた大組織は、さまざまな面で岐路に立たされることになる。国家を例にとれば、従来は複数の国家同士の関係が安定してさえいれば国際的な安全は保たれていた。しかし、いまは破壊的なテクノロジーを一般消費者が入手できる時代である。その結果、国家はテクノロジーを駆使する社会運動や原理主義的な集団のような非-国家的存在と交渉、外交するように迫られる場面が増えてきた。

こうした逆転的な現象は、ビジネス領域でも顕著に起きている。巨大企業のモメンタムが失われ、新興企業が勢いそのままに社会的な影響力を増していくケースが増えている。テック業界では、前者の代表例としてシリコンヴァレーの超名門大企業HP(ヒューレット・パッカード)を、後者として社会的な影響力が今や国家レベルにまで達したFacebookを想起すればいいだろう。

このような文脈でイェッター氏に「かつてIBMだけがもちえた破壊的テクノロジーが、いまや個人や中小企業の手に渡り、彼らが行使できるようになった。いま、IBMは破壊される側に回っているのではないだろうか?」と訊いた。

「社会にとって真なることは、IBMにとっても真なること。未来に向かっていくためには、テクノロジーを進化させていくことが必要です。それがリニアなかたちであれ、破壊をともなうかたちであれ、いずれにしてもテクノロジーは進化させなければいけない」

自身が破壊されようとも、テクノロジーを進化させなければならない──。イェッター氏は続けて次のように語り、インタヴューを締めくくった。

「そのなかで重要なのが、研究開発に対する投資。その過程で新しい製品を生み出していくことも、同じくらい重要なことだ。起業家や中小企業、歴史のある古い会社、どのような企業であっても、未来に向かって前身し続けなければいけないという点では共通している。過去において非常に素晴らしい業績を上げたという事実は、未来の成功を約束していないのだから」。

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