アジア杯辞退直前に内田が語ったクラブと代表への思い

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 故障の影響でシーズン開幕に出遅れたシャルケのDF内田篤人だが、9月23日に行われたブンデスリーガ第5節のブレーメン戦でブラジルW杯以来の公式戦復帰を果たすと、その後のリーグ戦は全13試合にフル出場し、UEFAチャンピオンズリーグを含めた連戦をほぼ休みなく戦ってきた。

 帰国後の12月26日に実現したインタビュー時点では日本代表のアジア杯メンバーに招集されていたが、2日後の28日、正式に不参加が決定。右膝に不安を抱えたまま乗り切ったシーズン前半戦を振り返り、日本代表に招集されながら万全の状態でいられないことへの葛藤、クラブと代表の間で悩める胸中をゲキサカ独占インタビューで語ってくれた。

ブンデスリーガの前半戦は8勝3分6敗の5位で折り返しました。

「勝ったり負けたりという波がある前半戦でしたね。去年も一昨年もそうだったんですけど、チームとしてそういう波がなくなってきたら、もっと上に行けるんだろうなと思います。内容があまり良くない試合も多かったですし、内容がしっかり付いてくれば、結果も(連勝という形で)つながっていくのでしょうが、内容が良くなくても勝ったりしているから、そういう波が出てくるのかなと。もちろん、勝つことはいいことなんですが」

―第5節のブレーメン戦で今季初出場を果たし、チームも今季初勝利を飾りました。復帰戦を前に特別な気持ちはありましたか?

「特にそこまではなかったですね。普通にやればいいと思っていましたし、復帰したばかりだったので、抑えるところは抑えながらという感じでした」

―続くドルトムント戦にも勝って波に乗るかと思いましたが、なかなか結果が続かず、10月には監督交代もありました。シーズン序盤での監督交代をどう受け止めましたか?

「もちろん責任は選手にありますし、監督に申し訳ないという気持ちはありましたが、チームがそこで終わるわけではないですし、ブンデスリーガもチャンピオンズリーグも続いていました。(監督交代は)良いことではないですし、慣れてはいけないことですが、それによって動揺するということはなかったですね」

―新しく就任したロベルト・ディ・マッテオ監督はどんな監督ですか?

「速さを求める監督ですね。『速攻やサイドチェンジは速く』と言われます。そんなに難しいことは言わないです」

―同じイタリア人でも前日本代表監督のアルベルト・ザッケローニ氏とは違いますか?

「静かに指示する感じは似ていますけど、監督はそれぞれ違いますからね。どこの国の監督とか、そういうことで区別することはあまりないですね」

―戦術面ではこれまでの4バックから3バックに変わりましたが、戸惑いはありましたか?

「そこまで変わらないですし、慣れればサボりどころも分かると思うので、もっと良いプレーができると思います。今はまだ勉強しながらという感じですね。自分が上がったときに味方が(ボールを)取られて(カウンターでスペースを突かれる)というのは仕方ない部分もありますが、もっと危機管理ができてくれば、もっとおもしろくなると思います。攻撃面では自分で全部やらないといけないので、そこがちょっと大変ですね。周りを使わずに1対2で持ちかけないといけない場面もありますし、1対1も多いので、そのあたりは慣れも必要かなと思っています」

―シャルケとの契約も2018年まで延長しました。

「愛着も完全に沸いていますし、スタジアムの雰囲気もいいですし、別に他に行きたいところもないですから」

―UEFAチャンピオンズリーグの決勝トーナメント1回戦では昨季同様、レアル・マドリーと対戦します。昨季はケガで出られなかった相手との再戦になりますが?

「相手がレアルということを強調されがちですが、このレベルに来たら相手がどこでも一緒です。そういう相手とやるために勝ち上がってきていますし、相手がどうこうという気持ちはありません。もちろん、向こうのほうが前評判は高いですし、強いかもしれませんが、経験を得るために戦うわけではないです。勝負ですから、勝負したいなと思っています」

―現時点で世界最強とも言われる相手と対戦できることに楽しさややりがいは感じますか?

「楽しくはないと思いますね。ずっと耐える時間しかないと思いますし、その中でがんばってがんばって、やっと勝ち点がポロッとこぼれて来るかどうかだと思っています。『楽しみですか?』と聞かれたら、楽しみという気持ちはないです。耐える覚悟はできているという感じですね」

―そういう相手に対して、自分たちの力を試すわけでもないということですね。

「勝負ですから。どんな形でも勝つべきだと思っています。ペナルティーエリアの中に人数を固めて守ってもいいですし、前から(プレッシャーに)行くという戦術を監督が取るなら、そのとおりにやります。勝つために何をやるかだと思います」

―グループリーグでチェルシーに0-5で敗れたあと、「そんなにビビらなくてもよかったのに」とコメントしていましたが、レアルとの試合でもそのあたりは課題になりますか?

「それでレアルにも同じようにやられるならチェルシーに負けた意味がないですから。せっかく粘れる戦力があるのに、簡単に失点して、そのままズルズルいくというのはもったいないですね」

ブンデスリーガでは3位のレバークーゼンまで勝ち点1差です。来季のチャンピオンズリーグにストレートで出場できる3位以内は当面の目標になりますか?

「それはもちろんいきたいですね。(チャンピオンズリーグの)プレーオフに回ると、シーズンが始まるのも早くなって、いろいろと大変なので。絶対に3位までには入りたいですね」

―その上を見ると、バイエルンの1強になっています。

「抜けちゃってますからね。対戦しても、試合を見ても、強いですよ。強いと言われながら、勝ち続けて優勝するのは本当にすごい。本当に力の差がないとできないことだと思います」

―レアルとはまた違った強さですか?

「バイエルンというチーム自体が、レアルのようにガンガン点を取りまくるというよりは、ある程度ボールをつないで攻撃を組み立てるというスタイルです。点差だけを見ればレアルのほうが派手かもしれませんが、安定感という意味ではバイエルンのほうが強いと思いますね」

―右膝にはずっとテーピングを付けたままプレーしていますが、状態はどうなのでしょうか?

「だいぶ無理はしていますけど、全試合に準備万端で臨むというのは何年も前からできていないですし、そういう中でも勝っていかないといけないと思っています」

―その中で11月には日本代表にも招集され、ブラジルW杯以来の復帰となりました。合宿初日には自身の代表復帰をめぐる報道に釘をさすコメントもしていましたが?

「W杯の直後にしゃべったことを、いかにも最近話したように書いてあったので。自分だけではなく、本田(圭佑)さんも移籍のことでいろいろ書かれたり、(香川)真司もいろいろ言われたりしていたので、『いい加減にしたほうがいいよ』と思って。別に怒ってないですよ。怒ったら、あんなもんじゃないですから(笑)」

―選手はクラブと代表の間で板挟みになる立場でもあります。

「それはアギーレ監督も分かってくれています。クラブの監督もやっていたので、『代表選手が板挟みになるのは分かる』と言ってくれたので、対処してくれると思います。やっぱりヨーロッパのクラブからすると、アジア杯とかは考えられないと思うんですよね。これだけ日程がきつくて、膝も良くないのに。給料を払っているのはクラブですし、そこは怒って当然だと思います。でも、選手の立場から言えることはないんです。こっちがいいとか、あっちが嫌とか、そういうことは言ってないですし、上の人が決めたことに従うだけなので。ただ、本当に膝が良くないので、そこは何とかしてほしいという気持ちはあります」

―代表引退も考えると話していた気持ちに整理は付いたんですか?

「そのままさらっと流れてくれればよかったんですけど、いろいろ書かれたので……。そもそも自分が言ったから悪いというか、ある程度そういうことも覚悟して言ったんですけどね」

―コロンビア戦の直後になぜああいう質問が出たのでしょう。

「いや、自分で言ったんですよ。(テレビインタビューで)『4年後、またがんばってほしいです』と言われたので、『4年後はやっているか分からないですし』と答えたら、『そうなんですか?』と突っ込まれただけで(笑)。でも、そこで言わずに、またどうしようかな、どうしようかなって4年間続けるなら、あそこで言うことで、その後に『やります』となれば、自分の性格として絶対にもうやめないから。未来の自分に向けて『あのときやるって言ったんだから、4年後までしっかりやるべきじゃないの?』と追い込むためという意図もあったんです」

―ブラジルW杯の前にはリハビリ中に支えてくれた人たちのことを思って、「W杯は自分のためだけではない」と話していました。

「結果がすべてなので。勝てなかったら意味がないですし、試合には全部出ましたが、結果が一番欲しかったですね」

―「恩返し」という意味では、ブラジル大会で果たせなかった分も次の代表でという気持ちにはならなかったですか?

「そこはあまり関係ないですかね。前の大会、次の大会というのは自分の中では関係ない。あの大会はあの大会で終わりです。

 でも、代表チームとして、監督が替わったから、それまでの流れを断ち切るというのは違うと思っています。(11月の代表合宿で遠藤保仁や今野泰幸ら)ザッケローニ監督のときに呼ばれていた選手をアギーレ監督が招集したことに批判が起こる意味が分からないです。監督はその時点でベストの選手を呼んでいるだけなのに、それを『戻った』というのは違うと思いますし、戻ったらダメなのかと。4年後のことを考えて若い選手を呼んだほうがいいという意見があるのは分かりますが、(年齢が)上の選手がどいて、どうぞじゃないですから。下が突き上げてこないと意味がないですし、そのレベルに達していないのに代表でプレーできるわけがないと思います」

―下からの突き上げが物足りないと感じているんですか?

「そういうことではないです。サイドバックでいえば、(酒井)高徳も(酒井)宏樹もすごくいい選手です。高徳はあんなに若いのに、あれだけ技術があって、走れて、強さもあって、本当にすごいと思いますよ。もうちょっといいチームでプレーしたときにどうなるかでしょうね。落ち着きもありますし、あの若さを考えれば、本当にすごいと思います」

―代表チームの中でのリーダーシップというか、若手を引っ張る意識も出てきましたか?

「自分が年齢を重ねて、年下の選手が増えてくれば、自然とそういう感じにはなりますけど、やっていることはそんなに変わってないですよ。ある程度、若い選手に声をかけたりはしますけど、人に関せず、のほほんとやるタイプですから。代表の中では長谷部(誠)さんがキャプテンにピッタリだと思いますし、あれ以上のキャプテンはいないと思います。そういうところで自分も助けられればいいのかなとは考えています」

―スパイクではアディダスの「パティーク11プロ」を履いていますが、気に入っているところはありますか?

「自分としてはそんなにこだわりが強いほうではないんですが、アッパーがカンガルーレザーになったことと、縫い目がないことで足馴染みがすごく良いですね。ボールタッチの感覚にとにかくこだわる選手もいますが、自分はそこまで気にしないです。ただ、このスパイクのように足馴染みが良いというのは、新しいものを履いてもすぐに足にフィットしてくれるので、違和感を感じることなくプレーできます。デザインに関しても、自分はできるだけシンプルなもので、色も黒が好きなので、その点でも気に入ってます」

(取材・文 西山紘平)