tofubeats特別寄稿:音楽つくって何になる? 2014年と音楽と

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『WIRED』日本版(Vol.13)にメジャーデビューまでの足跡を寄稿してくれたtofubeatsが、2014年を振り返る。今年東京で開催されたRedbull Music Academyや自身のメジャーデビュー、宇多田ヒカルの記念アルバムへの参加といったトピックを踏まえながら思う、音楽についてのあれこれ。

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「今年のベスト・ディスクを選んで下さい」。毎年何かしらの媒体からこういった依頼が来るのはありがたい。1年で本当に数えきれない、把握できないほどリリースされている音楽、iTunesで追加日順にソートした音源たちはどれもただのデータである。某誌のために選んだ2014年のベスト10のうち、7枚がbandcampなどによるリリースのものであった。

そんななか、今年は初めてメジャー・アーティストとして過ごした1年でもある。一方で先述10枚のうち国内メジャーから選んだ作品は、宇多田ヒカルの『First Love』の15周年記念盤だけだった。

オリジナルは15年前に800万枚以上売れたこのアルバムを聴きながら思う。自分は今年1年、メジャーというフィールドに歓迎されればいいなと思って最善を尽くしてきたつもりだ。きっとインディーでしかできないことがあるように、メジャーでしかできないことがあるはずだと。

多くの人の力添えもあって森高千里氏、藤井隆氏はじめ、多くのアーティストとのコラボレーションを実現することができたし、『First Album』というふざけたタイトルのアルバムをリリースし、全曲フル試聴だなんて挑戦的なことをさせてもらうチャンスもいただけた。一方で、メジャーで音楽をやる人々が何を目指して音楽をやっているのか、わからなくなるときがあった。

“What Difference Does It Make?”と宣ったのはRedBullである。今年、胸をわくわくさせてくれたことのひとつがRedBull Music Academy(RBMA)の日本上陸である。

渋谷がクールなアーティストたちの名前で埋め尽くされたあの興奮、恵まれた音楽制作のための環境、本当に読みたい記事、触発させてくれる動画。自分と近いクラブ・ミュージックのアーティストが次々とフックアップされていく状況。地元神戸にいてはイヴェントなど、その多くの恩恵に与ることはできなかったが、情報だけでもそれは十分だったといえる。

しかし、一方でこれを音楽のプロたる日本のメジャーが行っていなかったことに気がつく。それはなぜだろうか。

10月12日〜11月14日まで、東京都内で開催されたRedBull Music Academy。約1カ月の間、各所ではライヴやアーティストによるレクチャーなどが行われた。PHOTO BY DAN WILTON/RED BULL CONTENT POOL


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RBMA創立15周年を記念して制作された長編ドキュメンタリー映画『What Difference Does It Make? A Film About Making Music』。ブライアン・イーノ、エリカ・バドゥ、リー・ペリー、ナイル・ロジャースら、音楽で生きる人々の姿をドイツの映画監督ラルフ・シュメルバーグが描き出した。

『What Difference Does It Make? A Film About Making Music』は今年、RedBullが公開したムーヴィーである。タイトルの通り、音楽をつくってどうなる?という問いを次々とアーティストに投げかける作品である。

(音楽を)つくって何が変わるのか?という問いをいま、誰がかけてくれるだろう。ライヴのほうが儲かる時代だとたまに言うが、自分はアルバムの方が好きだ。ライヴで音楽を聴く体験が貴重であるように、アルバムを家で聴く体験も同様に貴重であるはずだ。少なくとも自分はそうだった。

音盤を売ることは、昔ほど大きい市場ではない。自分のアルバムの売り上げは『First Love』の何分の一だろう。一方でまだ順位や売上がつきまとう環境に、自分はメジャーに行っていつの間にか歓迎されなければならないと思うようになってはいないだろうか?

これは別に配分としてはもっていてもいいものだが、ここに対する問いを今年の上半期は忘れてしまっていたような気がする。もちろん自分のいまの仕事は「音楽家」ということになってしまうし、職業性を無くしてしまえば食べていくことはできない。ただ、自分を切り売りしているがゆえに、割り切ることも難しい。

自分に対して問いを投げかけるようになったきっかけはRBMAの動画とここ、『WIRED』への寄稿である。これは沖縄音楽産業シンポジウムで出会い、トークセッションでご一緒した編集長と、その後食事に行ったのがおそらく直接のきっかけである。とにかく「君たち、世知辛い時代を生きているな、記事やろう!」と言われたのが印象的だった。ぼくらはいまの時代しか知らないが、どうやら世知辛い時代っぽいぞ、と知ることとなる(笑)。

馬子にも衣装。たっかいスーツを着せてもらったぼくたちがアメリカンクラブで撮影、だなんて昔からの知り合いが知ったら爆笑する(実際にされたんだけど)、そんな記事がWIREDに載った。自分の半生(たいした言い方だ!)を振り返りながら思ったことは、やはり自分が音楽をつくることに対しての問いである。今年の後半は、これについてオカダダやSeihoらと、だらだら話す時間がかなり貴重だったことについても記しておきたい。

音楽が金銭を生むことそのものは悪いことではないが、金銭を産まない音楽をやっていた過去と折り合いを付ける必要がある。もともと自分が就職を志向していたから、まだそういう部分に捕らわれているのかもしれない。

ただ、メジャーにいて、大赤字も大黒字も出していない自分がそう思うということは(まあ、自分しか思っていないのかもしれないけれど)、逆説的に、多角的に音楽産業を考えなければならない時代なのだと思う。その後のBIG PARADEでの若林編集長との対談でも放言を言いまくったが(ちょっと反省した)、無意識にそうなってしまうくらい、実は音楽産業は硬直化してると感じているのかもしれない。それとも、ぼくがとっても自分勝手なのかもしれない…。

BIG PARADEは9月12日のオープニングセッションを皮切りに、15日までの4日間、東京・代官山を中心に開催された、音楽のありうべき姿を模索する和製「SXSW」とでもいうべきイヴェント。音楽のありかたに対する『WIRED』の答えのひとつは、先日リリースとなったアルバム『The Art of Listening Vol.1』をお聴きあれ。


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『宇多田ヒカルのうた −13組の音楽家による13の解釈について−』には、井上陽水や岡村靖幸、浜崎あゆみら13組のアーティストが並ぶなか、BONNIE PINKをフィーチャーして参加。

そんな今年を締めくくる仕事として、宇多田ヒカル氏のカヴァーアルバム(『宇多田ヒカルのうた −13組の音楽家による13の解釈について−』)に参加できることが決定した。面識も、縁もゆかりもない自分がそこに名前を連ねることになるとは、夢にも思わなかった。これは何より、メジャー産業とそのスタッフの恩恵によるところが多い。

森高さんとのコラボもそうだが、妄想を超えた現実は逆に冷静だ。宇多田さんのディレクターである沖田さんが提案してくださった数曲のなかから「Time Will Tell」をカヴァーさせてもらうことにしたぼくは、思い入れがあるがゆえ(また、面識がないので思い込みもあるので)、4時間くらいで大まかな骨組みをつくり、そこから多くを加えないこととした。あとでハード音源への差し替えなどは大きく行ったが。

現状でもアレンジ過多と思うかもしれないが、セーヴしなければもっと異型のものになっていただろうし、触りすぎないで良かったと思う。さらに幸福なことに、ボーカルをBONNIE PINK氏にお願いすることができた。スローなBPMでもバラードに寄りすぎない、グルーヴのあるボーカルが素晴らしかった。仕上がった音源は仮ミックスの時点で満足行くものだった。一方で、これが宇多田ファン(ひいてはご本人)に受け入れられるか不安でいっぱいでもあった。

音楽が出来上がったときは、常にそれを発表するときの不安がすぐにつきまとう気がする。それは一方で認められたときの嬉しさも内包しているけれど。

「Time Will Tell」の原曲を聴き込んでいたとき、一見ポジティヴに見える楽曲のなかに深い切なさがどうしても見えるようになった。それが結果としてアレンジに落とし込まれている。それは、いまの自分の気持ちが反映されているからなのか、本当の意図なのかはわからないけど。沖田さんには直線的にクライマックスを演出しないで曲をつくるんだねと、のちに言われたが、ずっと時が来るのを待つためは静かに火を灯し続けることが必要なのかもしれない。

そういえば。15歳の宇多田さんは皮膚感覚で「時間が経てばわかる」ことを知っていた。それは、時間が経たないとわからないことがあると知っているということでもある。そういえば14〜15歳といえば、自分が初めてサンプラーを持ったころである。そのときにはそんなこと、何も考えてなかった。いつかぼくも、宇多田さんに会うことがあるだろうか。そのときは感想を聞くことができるだろうか?

『その日をぼくは10年間、待ち続けている』と夏の記事では締めくくっていた自分がいま、「Time Will Tell」をカヴァーして…なんてのは都合よく書きすぎか。

音楽をつくって何が変わる? それは音楽をつくっている者のみが知る問いである。遠くにそれぞれひとつだけあるその射程を追うために、今日も続けるのである。

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