映画007シリーズの「ボンド・カー」といえば、誰もが思い浮かべるのはアストンマーティンだ。だが、原作小説の第1作でボンドが乗ったのは、実は「ベントレー・ブロワー」だった。写真で紹介。

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ジェームズ・ボンドとアストンマーティンは、もはや同義語のようなものだ。007シリーズの次回作『Spectre』(邦題未定)には、最新のボンド・カーとなる「アストンマーティンDB10」が、贅沢にもこの映画だけのために特別に製作される。

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そして、誰もが思い起こすのは、同シリーズの名作映画『007 ゴールドフィンガー』で初めて登場し、いまやボンド本人にも劣らぬほどの威光を放つ、あの壮麗な「DB5」だろう。

だが、颯爽とした秘密諜報員として銀幕にデビューする前、つまりイアン・フレミングの原作小説に登場するジェームズ・ボンドは、むしろ悩みがちで陰気な殺し屋だった。そして、小説のなかでボンドは、アストンマーティンではなくベントレーに乗っていた。


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画像はWikimedia Commons

フレミングの007シリーズ第1作『カジノ・ロワイヤル』(1953年刊)では、1931年製の4.5リッター「ベントレー・ブロワー」(冒頭の写真の車)を乗り回すボンドが描かれている。

小説のカジノ・ロワイヤルで、ボンドの愛車ベントレーは「唯一の個人的な趣味」とされている。ボンドはこの車を1933年に購入し、兵役に就いていた第2次世界大戦中は、ガレージで大切に保管されていたという設定だ。

スーパーチャージャー(機械式過給器)付きのエンジンを搭載し、車重約2トンの「ブロワー」は、ベントレーがル・マン24時間レースに送り込んだ競技車両をベースとした車だ。1920年代後半から1930年ごろにかけて、ベントレーを駆ってル・マンで活躍した有名な「ベントレー・ボーイズ」のひとり、ヘンリー・”ティム”・バーキン卿の要請によってつくられた。

排気量4.5リッターの直列4気筒エンジンは240馬力を発生し、ギアボックスはノンシンクロの4速マニュアルだ(変速時にギアの回転速度を合わせる機構を持たず、構造はシンプルで丈夫だが、運転者がタイミングを合わせる必要があり操作は難しい)。

スーパーチャージャーとは、より大きな出力を得るためにシリンダーに強制的に空気を送り込む機構で、「ブロワー(=送風機)」の車名もこれに由来する。車体の一番前、2つのヘッドライトの間にあって、すぐに目に付く大きな部品がそのスーパーチャージャーだ。

最高速度は時速190km前後で、当時としてはかなりのものだった。このベントレー・ブロワーは、1929年から1931年にかけて、わずか55台のみが製作された。

では、なぜボンドは、ベントレーからアストンに乗り換えたのだろうか。英BBC放送の自動車情報番組『トップギア』の特別企画「ボンド・カーの50年」によると、作者のフレミングは、あるファンから「ボンドをもう少し品の良いクルマに乗せる良識をもたれてはいかがか」という手紙を受け取ったのだという。

手紙の主は、「アストンマーティンDB3」を提案していた。フレミングは1959年刊の『ゴールドフィンガー』で、この提案に従ってボンドをアストンに乗り換えさせた。そして、1964年にその映画版が制作されたとき、プロデューサーが当時の最新型「DB5」を採用したのだ。

映画『007 ゴールドフィンガー』と『007 サンダーボール作戦』で使われたDB5の実物は、2010年にオークションに出品され、約400万ドルで落札された

DB5とショーン・コネリー。2014年10月にオランダで開催された展覧会「Designing 007: Fifty Years of Bond Style」での再現モデル。画像はWikimedia Commons

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