W杯後は精神的に落ち込みもしたが、新たな目標に向け長友は再び力強く歩み始めた。(C) SOCCER DIGEST

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 今月23日、都内で行なわれた『長友佑都 体幹トレーニング20』の55万部突破記念イベント後の囲み取材で、著者が何度も口にした言葉が「楽しみたい」だった。
 
「とにかく、楽しみたい。“しなければいけない”ばかりでしたけど、それには限界があって、もっとサッカーを単純に楽しみたいです」
 
 日本が惨敗を喫したブラジル・ワールドカップ。サッカー人生のすべてを賭けていたと言ってもいい長友にとっても、ショッキングな出来事だったのは間違いない。
「燃え尽きた部分があったのかな、と」
 
 大会後、モチベーションがなかなか上がらず、目標や夢が見えてこない時期がしばらく続いた。「ネガティブな考えではなく」と断りを入れたうえで、「単純にサッカーが楽しくないのであれば、セカンドキャリアでやりたいこともありますし、そっちに移ってもいいかな」と思うこともあった。
 
 ワールドカップ後は怪我や体調不良も重なり、所属クラブのインテルでは思うようにピッチに立てないこともあった。ただ逆に、自分自身と向き合う時間ができた。そこで出した答が「楽しみたい」だった。
 
 極限まで自らを追い込み、プレッシャーをかけて、ブラジルのピッチに立った。そして、完膚なきまでに叩きのめされた。心はズタズタに切り裂かれただろう。現役生活に別れを告げることも頭をよぎったが、不屈の魂は再び、力強く鼓動している。イベントでは、自身のそっくり芸人の登場に笑顔を見せていた。「むしろ、良い精神状態ですね」。肩の力が抜け、つきものが落ちたかのように、心身ともに良好な状態であることをうかがわせた。
 
 翌日からの4日間は束の間の休息を満喫し、28日には、横浜市内にあるフットサルコート『NAGATOMO FIELD(ナガトモフィールド)』にて公開自主トレーニングを行ない、パーソナルトレーナーの木場克己氏とともに約1時間、汗を流した。居合わせた子どもたちからのエールに、柔和な笑みを浮かべて手を振ってみせる。
 
 同施設では、来年4月から『YUTO NAGATOMO Football Academy』を開校予定で(対象はU-6=年中からU-12=5・6年生で、同年3月上旬には入会者向けアカデミー無料体験会を開催予定。詳細は公式HPにて決定次第掲載。https://nagatomo-football-academy.com)、スクールの立ち上げに際し「7歳でサッカーを始めて、もう20年以上になります。何かサッカーで恩返しがしたくて、子どもたちの夢のサポートというか、僕がプロになって、海外でもプレーしてきたなかで学んだ部分を子どもたちに伝えていきたい」と意気込みを語った。
 
 連覇が懸かるアジアカップに向けては「2011年の時よりも厳しくなるかなと思っています。もちろん、日本はアジアの頂点にいるべきですし、それができるメンバーが揃っているはずです。そういった意味で優勝を目指したい」と言葉に力を込めた。
 アギーレジャパンのこれまでの戦いぶりについては「監督が代わって、いろんな選手が試されてきたなかで、最初はどんな監督でもチームをまとめるのは簡単ではないはずで、勝利が求められるなかで難しさはあったと思います」と振り返る一方、「優勝すれば、誰も何も言えなくなる。負ければまた叩かれますけど。そこは何度も言うように、結果がすべて」と覚悟を決めている。
 
 代表でもクラブでも、順風満帆とは行かず、悔しさを噛み締めることも多かった2014年だが、本人は「最高の年でした」と言い切る。先述したとおり、5年目を迎えたインテルでは「上手くいかないこともたくさんあった」が、「望んでいたと言ったら大げさかもしれないですけど、これから先の成長、自分が大きくなるために通らなければいけない道だったのかなとも感じています」と前向きに捉えている。
 
 今季は右サイドでのプレーも少なくなく、当初は戸惑いを感じていたものの、プレーするたびに手応えを掴んで、左サイドに入れば「右でやっていた時の感覚でやれてプレーの幅が広がり、左でも活きるようになったので、何ひとつ無駄なことはなかった」。
 
 代表の不動の右SB、内田篤人が怪我のためアジアカップには不参加となったが、「右で起用されるなら、そこでチームのために貢献するだけです」とスタンバイOKだ。
 
 アギーレジャパン発足直後は、ブラジルで負った心の傷がまだ完全に癒えていないなか、ガムシャラに走っていたあの頃をもう一度、思い出しながら、自分の原点に立ち戻ったという。ヨーロッパで己の技術を磨いて、「上手くはなった」実感はある。しかし、「自分の軸となるもの、ストロングポイントがあってのプラスアルファ」とも考えている。
 
絶対に忘れてはいけないもの――。
「チームのためにガムシャラに走る。その気持ちをこのアジアカップでも忘れずに、貢献したい」
 
 何度目かのブレイクスルーを果たした感のある長友の、さらに強く、さらに逞しく、そしてサッカーを心から楽しみながら、日本を連覇へと導く姿を期待したい。
 
取材・文:広島由寛(週刊サッカーダイジェスト)