新世代の台頭、極北との別れ!最高の舞台で最高の戦いを見せる選手たちに改めて「全日本」の重さを感じた件。
これが全日本フィギュアスケート選手権!

真冬の熱闘、全日本フィギュア選手権の戦いが終わりました。注目の男子シングルでは羽生結弦氏が優勝。2位にはジュニアの宇野昌磨クンが入り、世代交代を印象付ける結果となりました。女子シングルでは誰が勝っても初優勝という中で、宮原知子さんが優勝。こちらもジュニアの樋口新葉さんが3位に入るなど、文字通り新葉のごとく新世代が台頭することとなりました。

さて、そうした勝った負けたの結果を吹き飛ばすばかりの勢いで飛び込んできたのが、町田樹さんの電撃的な引退発表でした。世界選手権の代表に選ばれ、リンクに登場して挨拶をする場面での突然の発表。スタンドでは悲鳴のような声があがりますが、それに動じることなく、淡々と決意を発表するさまは最後まで哲人・町田樹という姿でした。

正直なところ、この発表に驚きはありません。来春にも関西大学を卒業する町田さんは、すでに早大大学院への合格を決め、この冬も卒論提出に向けて奮闘をつづけていたといいます。その影響の有無についてはクチを濁しますが、今季の後半戦での不振は多忙による練習不足が影響していたでしょう。文武両道と言葉にするのは簡単ですが、必ずしもそれが50対50とは限らない。人生には50対50では過ごせない瞬間があるものです。

この冬は、両立の中でも「文」に重きを置いた。それが町田さんの答えだったように思います。やがて来る将来像…「文」の道に生きる自身を見据え、その道に向かって歩みを進めた。このまま何となくスケートをつづけ、何となくコーチになる将来像ではなく、自らを「文」の道で高めて再びスケートと巡り合うために。哲人らしい将来設計と勝手な決断・勝手な発表。こうでなくちゃ哲人ではありません。いつも人より一歩先を考え、人を置きざりにしてきたからこそ「哲人」として愛されもしたのです。

町田さんは引退への決断にあたり、「セカンドキャリアへの一歩」という言葉をクチにしました。

素人目には世界選手権のほうが重たい舞台のような気もしますが、実はそうではない。全日本こそが自分を試され、自分の将来を懸ける舞台である。そんなフィギュア界の現実が見えるような言葉です。全日本で台落ちすることは、来季の立場が危うくなるということ。フィギュアスケート選手として生きられるほんの一握りの枠から「こぼれる」ということです。

町田さんはどこかで…早ければ大学卒業を控える今季開幕前、遅くとも全日本でのフリー演技中までには、自分がもうその枠に留まれない、あるいは留まるべきではないと感じていたのではないでしょうか。つけ損ねたコンボをやり直すでもなく、自分とコーチと振付師とで作り上げた第九をなぞり、理想形の表現に専心したのも、この作品が最後と思えばこそだったように思います。

得点よりも、勝敗よりも、極北へ。今回の引退発表も、いつも自ら定めた到達点へと邁進してきた選手が、今度はその到達点を「文」の道の向こう側に定めたというだけのこと。やることも、生き様も、その独特さも何も変わらない、独自の哲学に基づく攻めの引退。幕引きではなく、町田劇場・第二幕の幕開けとして応援したいものですね。

ということで、僕は風邪で寝込んでしまっていたのでまとめて駆け足になりますが、27日・28日のフジテレビ中継による「全日本フィギュアスケート選手権」をチェックしていきましょう。

◆最後まで哲人は哲人だった!自分で何かを考え、勝手に発表する!

まずは27日の男子フリー。何と言っても今大会は宇野昌磨クンの大会でした。ジュニアの枠を超える演技構成と精神力。この大舞台で、表彰台を懸けた戦いをつづける中で堂々たる演技を見せました。加点をもらえる4回転、厳しい判定がつづく今大会にあってもレベル4が取れるスピン・ステップ。小さなミスはあるものの、このまま世界の舞台に送り出してもまったく遜色のない演技。羽生氏1強の流れを押しとどめ、羽生・宇野で築く2強時代への扉を開けた…そんな演技だったように思います。

宇野クンの高得点は少なからず先輩たちへのプレッシャーとなったことでしょう。普通に食われる得点、しかも向こうが若い。2年後、3年後の未来まで暗鬱とさせるほどに重たいプレッシャーがのしかかってきます。宇野クンにつづいて登場した無良崇人さんは、ジャンプで失敗がつづく低調な演技。今季の序盤は新境地へと一段上がったように思われましたが、一段下がっての終盤戦となりました。何やかんやの玉突きで世界選手権の代表に選ばれることとなりましたので、心機一転してもらいたいもの。

↓最終グループ3番手で登場した羽生氏は、ただひとり別次元の演技で別次元の優勝です!


まぁ、普通に滑ったらこうなるわな!

そもそも立っている位置が違う!

ちょっとほかの話題が多いので、今日は割愛させていただきます!

さぁ、そして最終グループ4番手の小塚崇彦さん。今大会、もっとも熱い演技を見せたのは小塚さんでしょう。今季は不振をきわめ、ジュニア選手の台頭や自身の年齢面など、世代交代の波に押し流されそうになって迎えた全日本。SPでは本来の演技とはほど遠い内容での6位発進となり、表彰台も遠くに霞みました。

しかし、小塚さんはここで勝負に出た。予定の演技内容から大幅に難度を上げ、4回転を2つに増やし、予定では組み込まれていたダブルアクセルもトリプルサルコウに変更。世界選手権銀メダリスト・小塚崇彦の演技構成へ戻してきたのです。誰よりも自分自身が小塚崇彦を信じていたからこその挑戦。採点上は回転数やエッジに対して小さな減点もありましたが、採点には表れない部分での加点がそれを補いました。「感動」とでも呼ぶべき加点が。

↓戦う意志!本番に強い男がその強さを見せた!


失敗SPから勝負のフリーへ!

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そして登場した町田樹さん。シンフォニックナントカの極北へ、思いを込めた演技が始まります。冒頭の4回転をキレイに決めるも、予定のコンボはつけず。では次のジャンプでリカバーするかと思いきや、2度目の4回転は転倒となりコンボはつけられず。しかし、今季は2回同じジャンプを跳んでも「REP」扱いで救済されますので、まだまだリカバーのチャンスはあります…あるのですが、町田さんはそのチャンスを活かしにはいきません。自身の予定の内容を、コンパルソリーでもやるかのようになぞっていきます。

思い返せばグランプリファイナルの演技もそうでした。まったく同じように冒頭の4回転2連続でコンボがつかず、それをリカバーせずに終わりました。どこでもいいからセカンドジャンプに3Tをつければ得点の上積みができるのに、そうしない。そこにはやはり、勝負と理想のどちらを取るかと言われれば理想を取る哲人・町田ならではの哲学があったように思います。自分・コーチ・振付師の作り上げた理想の舞を踊ることを、とにかくちょっとでもいい点取って上に行くことよりも重視した。そんな哲人らしさが。

結果として、理想の内容には及ばなかったものの、心は最後まで理想に向かって羽ばたいていた(※「火の鳥」のパタパタの動きで)。「全身全霊追いかけたけれど届かなかった」というのは、次の道へ踏み出すいいキッカケになるでしょう。滑り終え、リンクに向かって手を胸に当てる姿は別れの儀式そのもの。いつも何かを考え、いつも観衆を置き去りにしていく。町田樹らしい振る舞いでした。

↓そして哲人はさわやかに現役引退を発表した!


五輪にも出たし、世界のメダルも獲ったし、最高じゃないか!

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そして女子シングル。誰が勝っても初優勝というフレッシュな戦い。有力選手の中で最初に登場したのは、意外にも村上佳菜子ちゃんでした。まさかのSP9位発進。今大会は非常に厳しいジャッジがつづいていますが、まさにその厳しさに引っ掛かる格好となり、大きく出遅れを喫しました。この日も多くのジャンプにアンダーローテーションを示す「<」が刺さり、TESは40点台に留まります。PCSでは高い評価を受けますが、本人の気落ちは目に見えるほどでした。それでも世界選手権の代表に選ばれたのは、まだまだ日本女子を引っ張ってもらわなければ困るという期待の表れでもあるでしょう。心と身体を立て直し、自分がリーダーなんだという自覚を持って、再起してもらいたいものです。

↓自分で自分にガックリきているせいか、リンクから上がるときにコケかける一幕も!


しっかりしろ!まだ20歳だろ!

ここからもうひと伸びして平昌へ行くぞ!

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迎えた最終グループ。1番手は今季GPファイナル出場も果たした本郷理華さん。SP1位発進となった本郷さんは、冒頭のトリプルフリップ・トリプルトゥループのコンビネーションを決めると、その後のジャンプも安定した着氷。今大会はジャッジの目が非常に厳しく、多くのジャンプに「<」が刺さりますが、スピンやステップではしっかりとレベルを取る丁寧な滑り。立場が人を作るとは言いますが、日本の頂点を獲りに行くという気持ちがこもった演技だったように思います。

最終グループ2番手は全日本ジュニアで187.95点という高得点をたたき出した樋口新葉さん。一気に頂点も…と期待された今大会でしたが、若き才能の前に全日本の壁が立ちはだかりました。冒頭のルッツが抜けて1回転となると、コンビネーションにする2回目のルッツでもオーバーターンしてしまいます。もうひとつチカラを出し切れない演技だったでしょうか。全体的に本来のスピード感を欠いたような印象もあります。

演技後には表情を曇らせ、会見では悔し涙も見せましたが、それでも3位表彰台はお見事。言うてもまだ13歳、あの浅田真央ちゃんですら初めて全日本の表彰台に乗ったのは14歳なのですから、これ以上を望めないほどの戦いだったと思います。それに13歳で頂点を獲りでもすれば、人生を持ち崩すというもの。若く才能あふれる少女のもとには、パパラッチとかめっちゃ来るらしいですからね。パパラッチに来られると生活が大変ですからね。今は立ちはだかってくれた壁に感謝すべきかもしれません。

そして頂点に立ったのは、最終演技者として登場した宮原知子さん。自分次第ですべてが決まる緊張の場面、宮原さんは素晴らしい演技で重圧を跳ね返します。冒頭のトリプルルッツからの3連続をクリーンに決めると、その後のジャンプも安定した着氷。コンビネーションジャンプ2つを演技後半に実施するなど、演技構成も世界仕様です。さらにスピン・ステップでもすべてレベル4を取るなど、大トリにふさわしい素晴らしい圧巻のパフォーマンス。勝って納得、負けて納得の演技で、嬉しい全日本初優勝を決めました。

↓16歳での全日本優勝は歴代の名選手と並ぶ快挙!初優勝おめでとう!


ミス・サイゴンという選曲もよかった!

東南アジア感、すごい出てたよ!

この結果を踏まえて、世界選手権の代表には男子シングルから羽生・小塚・無良(※町田樹は辞退)の3名、女子シングルから宮原・本郷・村上の3名、そしてペアの高橋・木龍組が選ばれ、四大陸選手権の結果次第でリード組が選出されることとなりました。

女子シングルは初出場2名を含むフレッシュな顔ぶれですが、この全日本を乗り越えた選手たちならきっと大丈夫。今大会はとにかくジャッジが厳しかった。GPシリーズなら取られないであろうエラーや回転不足を多くの選手が取られまくりました。例年なら非公認記録であるのをいいことに上げ底のブーツを履かせていたものが、素足で地べたに立つような採点がつづいた大会だったように思います。

しかし、それでよいと思うのです。多くの選手にとっては全日本こそが頂点であり、全日本の結果こそが自分の実力です。そこで非公認の上げ底ブーツを履いていれば、世界に出たとき無用な戸惑いを生むでしょうし、何より選手たちの成長の妨げになります。これ以上ない厳しい目で見守ってこそ、日本フィギュアの発展もあり、「全日本」という舞台にふさわしい重さも出るというもの。

その意味で、非公認記録ではありますが、今大会の評価は世界のどこに行っても通じるものです。胸を張れる結果です。女子シングル・宮原さんの出したトータル195.60点は、ロシア勢と対抗し、メダル争いに食い込めるだけの得点。来季の出場権3枠確保という当面の大目標だけでなく、その先へ踏み出せる記録です。自信を持って堂々と勝負してきてもらいたいもの。

全日本を勝ち抜いた選手なら必ずできる。

それだけの重さと価値がある戦いだったと思います。

今年も素晴らしい戦いをありがとう!お疲れ様でした!


風邪など引かぬよう、体調管理にお気を付けください!よいお年を!