redjuiceイラストメイキングインタビュー! 「アナログハック・オープンリソース」とは?

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2月28日(土)から30日(火)まで開催される「コミックマーケット87」にて発売されることになった、SF小説『BEATLESS』のベースともなっている、長谷敏司先生によるSF世界設定『アナログハック・オープンリソース』をテーマにしたコンピレーションイラスト集『ANALOGHACK』。

総勢18人のイラストレーターが考えるそれぞれのアンドロイド(hIE)像を描くこの本の表紙イラストを務めるのは、小説版『BEATLESS』のキャラクターデザイン・イラストも担当しているredjuiceさんだ。

今回はredjuiceさんに表紙イラストが完成するまでのメイキング紹介と共に、今回のイラスト集への意気込みをうかがった。

記事の最後には、制作風景を生放送した際の6倍速動画も公開!

イラスト集『ANALOGHACK』とは一体どんな本?


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完成イラスト



──表紙イラストを手掛けられた今回の『ANALOGHACK』ですが、一体どのようなコンセプトの本なのでしょう?

『BEATLESS』原作者である長谷敏司さん自身が、作品の世界観を他の創作者も自由に使えるようにする「アナログハック・オープンリソース」という試みを進めています。

それに賛同する形で、各イラストレーターに自由なイメージで思い思いのhIE(Humanoid Interface Elements)と呼ばれるロボットを描いていただこうという企画ですね。

──redjuiceさんはすでに本編である小説などでもhIEのイラストを描かれていますが、今回の企画ではどのようなコンセプトでイラストを描かれたのですか?

今まで本編の中では「戦う女の子」をたくさん描いてきたので、今回は「戦わない女の子」を描いてみたいなと思い、スポーツをするためのスプリンター型hIEという設定で考えました。

現代のGTグランプリのように、市販モデルをベースにした個体を決められたルールの中で改造して争うレースが22世紀でもhIEによって盛んに行われているという設定で、今回の子はその短距離スプリントのクラスで活躍するモデルです。

キャラクターのデザインを考える キャラクター設定〜ラフスケッチ


──今回のスプリンター型hIEという設定に決まるまでにほかの選択肢はありませんでしたか?

スポーツ選手ということでは他にも水泳やモータースポーツなど、色んな競技を考えたんですが、表紙を飾る絵として一番わかりやすいのは陸上選手かな、と。

実は、初期の段階では傭兵として描く案もあったのですが、今回の参加者の中で戦闘ロボットをラフで挙げていただいた方がいて、多様性を持たせるためにもこのテーマとなりました。

キャラクターデザインとラフスケッチ

キャラデザイン(左)と今回のイラストのラフ(右)



──人間ではなくhIEを描くということで特別意識することはありますか?

基本的にhIEは見た目では人間と大差ないという設定なので、特別意識を持って人間とは変えることはないように描いてますね。今回は特に市販モデルと大きく変えないというコンセプトでもありますし。唯一ボディスーツのデザインにこだわったくらいで、表情や体つきは自然体で描いてます。

ちなみに今回のイラストについては普段とすこし進め方が違っていて、キャラクターデザイン先行ではなくイラスト先行だったので、デザインの方が後からついてくる感じなんです。一応ラフはあるんですが、そこではまずおおまかなアウトラインをざっくりと描いておいてイラストを進めつつ、ラフにも描き足したりバランスの調整を加えながら、というスタイルで進めました。

──ラフの段階から全てデジタルで作業されているんですか?

そうですね、すべてデジタルです。仕上げはPhotoshopですが、キャラクターを描くときは基本的にCLIP STUDIO PAINTです。最近はラフの段階から使っていますね。

──この段階で細かいパーツ類もすでに頭のなかでは考えていたりするのでしょうか?

正直なところ機能性というよりは見た目でかっこ良ければいいという、感覚先行で描き始めているので、細かいパーツ分けまでは意識していないです。こういう感じにしていこうという大体の見立ては持ちつつ描いていますね。

──作業をはじめてからラフまで、大体どれくらいかかりましたか?

早ければ描き始めてからラフの完成までは数時間なのですが、今回はちょっと悩んだので1日くらいかかっていますね。

──どのような点で悩まれたんですか?

キャラのポージングをどうするか、いくつかパターンを試しながら悩んでいました。

例えば車の広告を意識したような、走者のスターティングポジションの姿勢を側面から描いた構図もあったんですが、横長の構図では表紙に収めにくいということもあり、最終的には正面から捉えた今の構図になりました。

【次ページ】ラフを元に本格的なイラスト制作へ

本格的なイラストの作画へ 主線〜色分け


ラフでおおまかな見立てを立てたので、これを元に本格的にイラストを描いていきます。

──線画には大体どれくらいの時間をかけるものですか?

例えば今回は、線画自体は約1時間くらいで起こせましたね。シンプルな絵柄だったので比較的早くできた方です。どちらかというとラフにかける時間の方が長いので、こちらはささっと進めますね。線画を描く際に細かい切り欠きやパーツの凹凸の線も追加しながら、デザインを詰めていくような内容です。

線画の起こし

ラフスケッチを元に細かいディティールをつけながら線画を起こしていく



──線画で苦労するポイントはあります?

僕の場合、鉛筆のような線の質感をそのまま残す描き方なので、まつ毛のような、表情を見せる部分には気を使います。今回のコンセプトとして企業の広告塔でもあるhIEということで、表情も愛嬌のあるものにしてキャラクター性を強調しています。営業スマイルですね。

──ラフよりややつり目がかっているようですがこれも設定合わせということで……

それは単純に僕の好みです。(笑)

表情の描き込み

目元などは特に線の質感を大切に



──ちなみに以前はペイントツールとしてSAIも使われていましたが、最近はCLIP STUDIO PAINTだけですか?

SAIはここ2年くらい使っていないですね。SAIの場合32bitのメモリの制限に引っかかることが多かったのですが、CLIP STUDIO PAINTはファイルサイズの増大やメモリ不足によるエラーをを気にすることなく作業することが出来るので、今はCLIP STUDIO PAINTに移行しています。

──ソフトを乗り換えるときの違和感などはありませんでしたか?

慣れるまでは色々とカスタマイズしました。SAIは何も設定しなくても割と気持ちよく線が書けるんですが、CLIP STUDIO PAINTOの場合は最初に設定しないといけないことが多くて、筆圧検知のレベルや各ブラシごとのパラメータ調整も細かく手を加えていますね。ブラシも基本的には全部自分でカスタマイズしたものを使っています。

──線画を終えて次に塗りの作業に入りますが、ラフの段階で大体の配色も決まっているようですね。

そうですね、おおよその色はラフの段階から付けていました。

普段ラフの段階から色を付けるかどうかは半々くらいなのですが、今回はボディスーツが特徴的だったのでラインの取り回しがどうなるかなというのを見るためにも、色を付けながら進めていった感じです。

他の参加者のラフもいただいて見ていたんですが、大体の方がラフにも色を付けているんですね。色を付けずにざっくりと描く僕のやり方だと雑なのかなとも……。

初期段階ではスーツの配色をオレンジ系で描いていたんですが、色々考えた上で赤に落ちつきました。なんだかんだで赤が好きなんです。この辺はコンセプト合わせというよりは直感頼りですね。

塗りの違いやテクスチャを用いて質感をつくりだす


塗り分け

線画を元にしてパーツごとに塗り分け


──塗り分けのあとは陰影で立体感を出していく工程となっていますが、影の付け方はどうされていますか?

ベースを描いた時点で試しに光源を設定しておいて、上から、前から、奥から、一体どこから光があたっているとキャラクターが映えるのかを考えます。今回はメインライトフィルライトバックライトという基本的なライティング要素である3つの光を用いて陰影を付けていきました。

ライティング

光源の位置を確認しつつそれぞれの質感を見ながら陰影をつけていく



──服や肌、各パーツなどの素材の違いによる質感の違いはどのように意識されますか?

肌については水彩ブラシでオーソドックスに塗っていますね。今回特に気を使っているというと、スーツの赤いライン部分でメタリックな印象を出したかったので、フラットというブラシでパキパキっとした塗りにしています。

あとは、未来的な要素もほしいなと思って、黒のインナー部分にはカーボン調のテクスチャを入れてますね。これがないと結構そっけない雰囲気にもなってしまうので。

カーボンテクスチャ

ライブラリから「カーボン」のテクスチャを呼び出して黒のインナー部分へ



──こうしたテクスチャのストックは普段から揃えているのですか?

フリーのストック画像を素材に加工して用意しています。それらを登録したCLIP STUDIO PAINT内のライブラリのほかにもHDDにマテリアルというフォルダを用意していて、そこに大量の素材を保管している感じです。

イラストを描く度に素材を追加しているので、現在だとおそらく数千枚近くテクスチャのストックもあるんじゃないかな。フリー素材を利用する他に、自分で水彩絵の具で描いて取り込むということもありますね。

スーツテクスチャ

スーツのメタルの質感を出すためにも自作3Dモデルをテクスチャに活用



背景があることでモチベーション維持にも


──ひと通りのキャラクターの塗りが出来たところで、背景のオブジェクトは今回どのように制作されたんですか?

今回の作業の流れの中で、実はキャラクターを描く前に背景を先に描いているんです。
このあたりの順番は作品ごとによるんですが、先に背景があるほうが最終的な完成に向けて作業の目処を付けやすいということもありますし、背景がある方が作業のテンションが上がるんですよね。カンバス上に人物だとどうも味気なくて。

今回の背景の場合は、なげなわツールで囲んで塗って削って、をしたものをレイヤーで重ねていった形です。

──背景ではテクスチャに3Dの素材を利用している様子も見えたのですが、こちらはどのようにつくっているのですか?

3D素材もライブラリを持っていて、今回使ったものは今年の別企画で制作したストックを活用しています。

3Dモデル

テクスチャとして利用している3Dモデル



オブジェクトの制作には「Two Profiles」と言って、空間に置いた2つの線から3次元の面をつくり出す機能を利用しています。適当な配置で線を置くことでランダム性を持った不思議な模様ができるのですが、これにさらにひねりのエフェクトを加えたりしながら偶然性重視で造形しています。

Softimage画面

Softimage上でのTwo Profilesによるモデリング



──3DCGというと手間がかかると思われがちなところもありますが、こんな少ない手順でさっと用意できるのは意外かもしれませんね。

ただ素材にする上で5000pxのサイズで書き出したりするので、モデリングよりもレンダリングに時間がかかっちゃうことが多いですけどね。

【次ページ】色の調整や装飾を加えて最後の仕上げに

最終的な仕上げはPhotoshopへ


──仕上げはCLIP STUDIO PAINTからPhotoshopに移って作業されていますが、ソフト間をまたぐときの注意点はありますか?

CLIP STUDIO PAINTもPhotoshopもpsdファイルでやりとりできますが、片方のソフトにしかないレイヤー効果であったり、どうしても細かい仕様の違いはあります。例えばトーンカーブも同じ所にカーブ座標の点は置かれるんですが、補完方法が違う影響で他方のソフトで開くと色が変わってしまうということがあり、調整レイヤーまわりはPhotoshopで作業するようにしています。

たまにPhotoshopからどうしてもCLIP STUDIO PAINTに戻ってキャラの修正をしなくてはいけないとなった場合には、その部分だけを抽出したpsdをつくってCLIP STUDIO PAINTに持っていって、手入れしたものをPhotoshopに戻して合成するというやり方をしていますね。

──身体に貼るロゴなどの「デカール」と言われる装飾?は主にIllustratorでつくられていますね。

そうですね。一部はPhotoshop上でもつくっていますよ。最初にいくつか使えそうなデカールをつくっておいて、その中から選んでイラストにはめ込んでいきます。

デカールをAiで

ロゴ類はIllustratorを使って制作。ここからさらにPhotoshop上で要素を組み合わせることもある



実はこのあたりの素材も、これまでの制作物から流用することがあって、SF作家・伊藤計劃さんの『ハーモニー』や画集でも使ったお気に入りのロゴが今回もあったり。作品を越えて使われるという点では、弐瓶勉さんの作品で登場する東亜重工のような雰囲気もあるかな。

デカール

今回用意したロゴ(左)。最終的には使用していないものもある



ちなみに今回のインスピレーション元の一つに『WipEout』というレースゲームがあって、これに登場するマシンの持つ未来感を、デザインラインの一つの目標としていました。

表紙を手掛ける上ではデザイナーとの信頼も



申し送り

完成イラストにトリミング位置などの申し送りを添えてデザイナーの元へ



──今回は表紙のイラストということで、デザインを担当されている草野剛さんとの取り決めもありましたか?

僕は基本的には草野さんにお任せで、僕からもイラストは自由につかってくださいと言ってお願いしていました。イラストを渡す時にトリミング位置など簡単に指定を伝えてはいるのですが、草野さんの場合はお渡しすれば大体いい感じにしてもらえます。『ギルティクラウン』以来「BEATLESS」関連やEGOISTのジャケットでも草野剛デザイン事務所とは一緒に仕事をしているので、信頼関係は成り立っているのかな、と勝手に思っています。

表紙完成版

タイトル文字や装飾が加えられ完成した表紙



アナログハック・オープンリソースをもっと活用しないともったいない



──今回の本について、あらためて参加していかがでしたか?

今回こうして多くのクリエイターの方々にhIEを描いていただき、自分でもその設定を読み解くことで、アナログハック・オープンリソースの示す未来のカタチを、よりはっきりと感じることができました。

アナログハック・オープンリソースの設定を使ってストーリーやイラストを展開している人たちはすでにいて、このプロジェクトについてもコミケの企業ブースでの販売ではありますがオフィシャルの派生作品ではなく、あくまで自由に扱える設定を利用してつくった同人誌の立ち位置なのです。

『アナログハック・オープンリソース』は、イラストレーターに限らず、様々なクリエイターに向けて用意された大きな遊び場です。SF作品を作り上げていくためのに緻密に作り込まれたデータベースとなっています。長谷敏司さんによって、現在も更新され続けています。今回のこの本だけでなく、様々な派生作品が生まれることを楽しみにしています。

ANALOGHACK Cover Drawing