全日本フィギュア開幕!王者の分厚さ・悲恋の極北・恐るべき新世代が三つ巴となって熱い正月休み始まるの巻。
王者は頂点を目指し、ライバルは極北を目指す!

まるで世界大会のようなハイレベルな戦い。真冬の頂上決戦、全日本フィギュア選手権が開幕しました。初日、何と言っても注目は男子シングル・ショートプログラム。世界王者・羽生結弦、世界一の極北・町田樹、世界一のジュニア選手・宇野昌磨、そこに今季GPシリーズの勝者である無良崇人&村上大介、そして世界選手権のメダルを持つ小塚崇彦らが集えば、熱気渦巻く激戦となるのは当たり前。

しかし、その激戦にあっても、王者・羽生氏は強かった。

ジャンプのミスや、スピンでレベルを取れないという判定もあり、完璧とまでは呼べない演技。ただ、そうした綻びによって掘り出されるように、これまで取り組んできた演技の分厚さが露出してくるからこその王者でもあります。単に「決まった!」「決まらない!」ではなく、演技構成の時点で地盤のように固い基礎があるからこそ、多少の綻びではビクともしない。表面のタイルが剥がれたあとで、堅牢な壁面が露出するように、王者の演技には厚みがありました。

例えばSPの冒頭で行なう単独の4回転トゥループ。同じく冒頭に4回転を跳ぶ町田樹選手はココを4T-3Tというコンビネーションにしています。一見すると、町田さんのほうがより高度な演技にも見えますが、実は基礎点を計算するうえでは必ずしも「より高度」ということではありません。

羽生氏はSPのソロジャンプの要件である、「コネクティング・ステップまたはそれと同等の他のフリー・スケーティング動作からただちに行なうジャンプ」を4回転トゥループで実施しています。要するに、何かステップとかをしてからリズムよく跳ぶという、小技をきかせた4回転を跳んでいるのです。実はこれが得点計算に大きく寄与しています。4回転をソロジャンプにできることで、演技後半にコンビネーションを持っていくことができ、1.1倍ボーナスで大幅得点アップを狙えるようになっているのです。

両者がSPで行なう予定のジャンプは「4T、3T、3A、3Lz」と同じであるにもかかわらず、どれを単独にしてどれをコンビにするかの差、どのジャンプを後半に持っていき1.1倍ボーナスを得るかの差によって、予定の基礎点は羽生氏が「4T:10.30、3A:9.35(1.1倍)、3Lz+3T:11.11(1.1倍)、合計30.76点」となり、町田さんが「4T+3T:14.40、3A:8.50、3Lz:6.60(1.1倍)、合計29.50点」と最初から差がついているのです。基礎が固いことで、ワンミス程度なら帳消しにできる。そうした小さな積み上げによって生まれた分厚さこそが王者の強さなのではないか。全日本でライバルが素晴らしい演技を見せてもなおトップに君臨した王者に、改めてそんなことを思うのです。

最近はとかく陰謀論などを掲げ、得点に一喜一憂したり、不満を持ったりする向きも多いようです。確かにフィギュアスケートの歴史上、そうしたこともあったかもしれません。僕も●●●が●●●●●で●●●●を●●●ときには、机を叩きながらスポンサー企業を罵ったものです。しかし、いつもいつも陰謀を疑っていては、何を見ても楽しくないでしょう。得点計算にはルールや基準があり、何人もの人間が見ているのですから、そこは専門家に任せておけばよいのです。

選手側もルールを承知したうえで、自分の内なる芸術性と折り合いをつけて戦っています。特に町田さんなどはそうです。「第九は最低でも曲を5分間は流したいな…ヨシ最初に20秒ほど止まっていよう」というマイ芸術性から出発して演技を組み立てる男です。得点のみを追って演技しているわけではないでしょう。それなのに、せっかくの極北熱演が得点表示によって「んん?」みたいな空気になるのは、お客にとっても選手にとっても勿体ない話。

スポーツなので順位は決めますが、順位だけでは価値が決まらない面白さがフィギュアスケートにはあるはず。だからこそ、現在のような大きな人気を獲得したのでしょうし、プロとしての公演もあるのでしょう。得点を取るための最適化もあれば、極北へ向かうための最適化もある。極北とは何なのかいまだによくわかりませんが、これが極北だなという熱演が生まれたら、それを極北と思えばよいのではないでしょうか。極北は得点によって決まるものではないのですから。

ということで、頂点と極北は別の地点である可能性を検討しつつ、26日のフジテレビ中継による「全日本フィギュア選手権 男子SP」をチェックしていきましょう。

◆世界最激戦区・男子シングルは、新時代への扉がSPで半分開いた!

新たな時代への戦い。全日本フィギュア男子シングルは、にわかに「世代交代」がテーマとなりました。その火付け役は、先のジュニアGPファイナルで表彰台に立った宇野昌磨クンと山本草太クン。特に宇野クンが見せた演技は驚くべきものでした。得点はもちろん、構成内容でも日本のトップに何らヒケを取らない演技。全日本で最終グループに残るようなことになれば、いやがおうにも先輩の心に火が点くというセンセーショナルなものでした。

そして、その予感は現実のものとなります。第3グループで登場した宇野クンは、冒頭のトリプルアクセルをクリーンに決めると、つづく4回転トゥループも鮮やかに決めます。フリップからのコンビネーションも見事に決め、GOEでも加点をもらいます。そして、特に見事だったのはスピンとステップ。今大会はスピン、ステップで厳しい判定がつづく中、宇野クンはすべてのスピン・ステップでレベル4を獲得。詳しい採点が公開されていないので、確認できない状態ではありますが、おそらくオールレベル4は宇野選クンだけだったはず。ジュニアからの挑戦者ではなく、若き刺客。かつての羽生結弦氏のような末恐ろしさを感じます。うーん、宇野クンすごい。

↓新時代が開いてしまうな!諸先輩方もコレに勝つのは相当大変だぞ!


演技終わったあとの「ハイ終わりでーす」みたいな顔!

驚くべき落ち着きぶりと、ハイレベルな構成!

この子はヤバイ!食われる!

よほどの覚悟で臨まないと食われる!

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誕生日を迎えて17歳になったばかりの少年が叩き出した85.53点の高得点。世界のどこに出しても戦える得点を、ここで出されてしまった。スポーツの世界には「同じチカラなら若い方」という大原則があります。今、互角では来年の席はない。背筋に走る戦慄。猛追する若手のエッジ音を感じ、先輩たちも震えざるをえません。

つづく第4グループには、王者・羽生氏と、おそらく3つ目の席を宇野クンと争うであろう無良・村上両名が登場。まずは高橋大輔さんのコスプレで魅せる村上大介さんの演技。冒頭の4回転サルコウをキレイに決めると、つづくトリプルアクセル・トリプルフリップもクリーンに決めます。大きなガッツポーズも飛び出す81.28点の熱演は優勝したNHK杯での自身の結果をも超えるもの。宇野クンには及ばないものの、僅差でフリーへと進みます。うーん、普通にGPシリーズ優勝者をおさえるとは、宇野クンすごい。

コチラもGPシリーズ優勝者、無良崇人さんは22番目での登場。しかし、冒頭の4回転トゥループでは転倒。認定はされるもののGOEでマイナス3点がつきます。得意のトリプルアクセルでは雄大なジャンプで加点を取りますが、スピン・ステップではほかの大会でも安定してレベル2判定のスピンがやっぱりレベル2だったりと、宇野クンの演技を見たあとでは構成的には物足りなく感じる部分も。実績ある先輩の演技を見て、そのたびに新時代を感じさせるとは、3回目になりますが、宇野クンすごいです。

さぁ、ここで登場するのが王者・羽生氏。羽生氏は冒頭の4回転トゥループを難しい入りから大きく高く滑らかに決め、GOEで3点を加える素晴らしい出来栄え。さらに、今季どの大会でも高い評価を得ているトリプルアクセルでもGOEで3点を取るというミラクルな出来栄え。コンビネーションジャンプは乱れて2回転となる場面もありましたが、それを補って余りある圧巻の2発でした。

ただ、GPファイナルではレベル4をズラリと並べたスピン・ステップでは厳しい判定がつづきます。最初の足換えのシットスピンでは、難しい入り・難しいシットフォワード(自由な足を前に)・難しいシットサイドウェイズ(自由な足を横に)・難しいシットビハインド(自由な足を後ろ側に)、という4項目でレベルを取るのですが、最後のシットビハインドが基準となる「2回転」に足りないと判断されたでしょうか。レベル3判定となります。やや辛かったかもしれません。

そして、つづくフライングキャメルスピン。ここでは難しい入り・キャメルアップワード(上を向く)・キャメルサイドウェイズ(いわゆるドーナツスピン)・片足で8回転、という4項目でレベルを取るのですが、上向きスピンの回転がやはり足りなかったでしょうか。ほかの項目は見た限り外しようがないものですので、足りなかったのでしょう。「ギリを攻めるとレベルを落とす」傾向がある大会なのかもしれません。

ステップは面倒臭いので飛ばして(!)、最後の足換えのコンビネーションスピン。こちらでは、キャメルスピン中のチェンジエッジ・難しいアップライトフォワード(胴体を前に倒す)・非基本姿勢(頭の上にスケート靴)・難しいアップライトストレート(足をクロス)、の4項目でレベルを取ります。あるとすればチェンジエッジの前後での回転数不足でしょうか。これもほかは取りこぼしようのないものなので、やはり「ギリを攻めるとレベルを落とす」傾向を感じます。

↓それでも、もともと立っている位置が違う!シーズンベストを更新する94.36点はお見事!オーライオーライ!


終わったあと、ほかの選手に声援を送る姿!

優しさGOE加点で3点足しときますね!

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そして迎えた最終グループ。王者の強さに対抗できるとすれば、やはり大トリで登場する町田樹さん。王者・羽生、新世代・宇野というワンツーが動かないまま迎えた最終演技、哲人は悲恋の極北でここに割って入ります。哲人は冒頭の悲恋ポーズから、4回転+3回転の悲恋コンビネーションを決めると、トリプルアクセルでは悲恋着氷で加点をもらう滑り出し。

しかし、哲人もスピンに鬼門がありました。最初の足換えの悲恋キャメルスピン。哲人は、片足で8回転・キャメルアップワード(悲恋顔で上を向く)・アップワード姿勢中のチェンジエッジ、3項目でレベルを取るレベル3構成です。ちょっとどれが問題なのかわからないのですが、あえて言うなら最初の8回転でしょうか。ビシッと姿勢を定めてからキッチリ回らないと認定してもらえないようです。

つづくフライング悲恋シットスピン。哲人は、難しい入り(空中で悲恋シット姿勢)・難しいシットフォワード・スピン中のジャンプ・難しいシットビハインド、の4項目でレベルを取りますが、ジャンプのあとのシットフォワードの姿勢の切り上げが早かったかもしれません。

トリプルルッツをキレイに決めたあとの、最後の足換えの悲恋コンビネーションスピン。ここでは、非基本姿勢(キャメル後の手で足を持って悲恋顔を見せる)・難しいアップライトフォワード(胴体を前に倒す)・ジャンプによる足換え・難しいアップライトストレート(足をクロス)、の4項目でレベルを取ります。レベルを失ったのはジャンプによる足換えのところだと思われますが、ここは着地後の回転切り上げが早かったか、そもそもジャンプ自体がショボいという判定か。いずれにせよ、明確にしっかりやらないとレベルが取れないという判定。全日本の厳しさがうかがえるジャッジでした。

場内のお客さんが一斉に立ち上がり、大きな拍手が上がる熱演。その後、思ったほど伸びない得点にサーッと空気が静まるわけですが、「例年なら得点モリモリアゲアゲの全日本が逆に辛い」という状況を踏まえれば、得点に落ち込む必要はないでしょう。例年どおりの点なら十分にシーズンベストだったはずですし、大テーマであった悲恋の極北は見せられたように思います。「おやおや?」みたいな雰囲気があったのでネチっこく「しゃーない」という説明をやりましたが、そういう細かいことを気にしないほうが、極北は伝わってくるように思います。そもそも、PCSの採点基準に「極北」があれば、ほかの選手は基本0点ですが、哲人は9点ほどプラスされて他を圧倒しているわけです。採点基準にないからこうなっているだけで。それは哲人にはどうしようもない部分ですからね。

↓極北感としては、すごくよかったんじゃないですかね!


スタンディングオベーションからの得点を見てガックリの流れ!

得点は罪だな!せっかくのイイ演技がガクッってなるわ!

それにしても、この辛い判定でもキッチリレベル4を揃える宇野クンはすごい!(5回目)

↓そして哲人は「悔いはない」「氷は味方している」「風はコチラ側に吹いている」と明日への意気込みを語った!


どうでもいいけど、「風はコチラ側に吹いている」ってのは、よく考えたら「逆風」ってことじゃないのか!?

逆風だけど大丈夫か!?

むしろ極北感の表現には逆風が必要という意味でアリなのか!?

よくわからんけど、さすが哲人、深いな!

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これで27日のフリーは、想定通りの日本のトップ6が最終グループで直接対決を迎えることとなりました。おそらく、表彰台に乗った3人が世界選手権へと駒を進め、今後の日本フィギュアの中心となることでしょう。新たな時代は訪れるのか。先輩が意地を見せるのか。そして極北とは何なのか。2014年の締めくくりにふさわしい戦いが、待っています。正月休みの初日から、こんなイイもの見られるなんてたまらないですね。僕は酒飲んでゴロゴロしますので、そのぶんまで選手のみなさんは頑張ってください!

逆風の中でこそ極北は見える!見せろ、シンフォニックナントカの極北!