消費税増税をなんとか実施したい安倍政権にとって、「地方創生」は最重要課題である。関連2法が成立したが、法律ができたところで、地方が蘇ることはない。そう断言する大前研一氏が、地方創生のモデルプランを提起する。大前氏はイタリアのあり方に注目しているようだ。

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 イタリアは財政破綻国家という印象が強いが、実は国家が滅びても地方は全く困らない。それどころか、どっこい地方は栄えている。なぜなら約1500の小さい町の大半が自前の産業を持って世界化し、経済的に自立しているからである。いわば「国破れて地方都市あり」なのだ。

 もともとイタリアは都市国家の集合体である。都市国家は「自衛」「自治」「自分で稼ぐ」という意識が非常に強く、その歴史と伝統から各地方都市の多くが「世界で1位のものを1つだけ」作っている。バッグの留め金だけ、ベルトのバックルだけ、照明器具だけといった具合である。

 たとえばニットの伝統的な産地は、カルビという人口1500人ほどの小さな町だ。ニットは、とくに女性ファッションで非常に重要な商品であり、その中心地のカルビでは年1回、来シーズンのファッションのためのニットショーが開かれる。そこに世界中から有名なファッションデザイナーやバイヤーがやってきて、翌年の商品を注文していくのだ。

 イタリアに見習いたいもう1つのポイントは、生産部門を他国に切り離しても、デザイン部門は頑として動かさなかったことだ。

 靴やバッグをはじめとする革製品、洋服、家具などの製造部門はトルコやルーマニアに拠点を置いて製造ノウハウを移転しているが、デザインだけは絶対に教えない。

 イタリアからデザイナーが金曜日の夜に現地へ飛んで日曜日の夜に帰ってくる、というようなことまでして死守している。イタリア製品にとってデザインは”生命線”だからである。

 一方、日本の地方都市で自前の産業を持って世界化している例としては、福井県鯖江市の眼鏡フレームが挙げられる。しかし、残念ながらOEM(相手先ブランド名製造)が大半で、世界に通用する自前のブランドを持っていない。デザインを他人に依存し、受託生産しているのが現状だ。

 あるいは日本には、陶磁器なら薩摩焼や伊万里焼、九谷焼など素材としては素晴らしい伝統工芸品がある。しかし、海外では知名度がまだまだ低く、多くの上流家庭が食器棚に並べている常備品にはなっていない。

 今こそ、産地の市町村がイタリアの地方都市のように、国家や政府に頼らず自力で世界化を目指すべきであり、その気になれば高額商品を世界中に普及・販売することも不可能ではないはずだ。

 実際、イタリアに限らず、ドイツのマイセンやローゼンタール(以下、陶磁器・洋食器の産地・メーカー)、デンマークのロイヤル・コペンハーゲン、イギリスのウェッジウッド、ハンガリーのヘレンドなどはそれを実践し、世界に高額商品を売りさばいている。

 日本の地方がイタリアモデルに学ぶべきことは、実に多い。もはや、選挙対策にすぎない「地方創生」などのスローガンを掲げる国家には頼っていられないのである。

※SAPIO2015年1月号