By Mohamed Saeed

多くの人にとって今やインターネットは生活の一部に溶け込んでいる存在ですが、今からおよそ30年前の1985年の時点ではそのメリットはおろか、存在そのものすら知らなかった人がまだまだ一般的だったはず。そんな時代にスティーブ・ジョブズ氏は雑誌「Playboy」に語ったインタビューで「人々はコミュニケーションネットワークに接続するためにコンピューターを購入するだろう」と語っていました。

Longform Reprints: Playboy Interview: Steve Jobs by David Sheff

http://longform.org/stories/playboy-interview-steve-jobs

In 1985, Steve Jobs predicted the internet would inspire everyone to buy computers | The Verge

http://www.theverge.com/2014/12/15/7396569/Steve-jobs-internet-interview

インタビューが行われた1985年前後といえば、Appleからは1983年に初のGUIインターフェースを搭載した「Lisa」が、そして翌1984年には「Macintosh」が発売された頃で、日本ではNECの「PC-8800」シリーズに続く16ビットパソコンの「PC-9800シリーズ」が主流となっていた時代。インターネットが広く普及し始める1995年ごろより10年も前の時点で、ジョブズ氏はネット社会の展望について以下のように語っています。

◆ネットワークに接続するために人々はコンピューターを手に入れるようになるJobs:

現時点でコンピューターを手に入れるのは、ビジネスのため、もしくは自身や子どもの教育のためという何らの目的があるものですが、今はある「変化」がおこっています。具体的に何かはハッキリとはわかりませんが、時代は変わり、コンピューターは各家庭にとってなくてはならないものになるでしょう。

Playboy:

どのような変化が起こるのですか?

Jobs:

人々はみな、全国規模のコミュニケーションネットワークに接続するためにコンピューターを買うことになるでしょう。我々はいま、多くの人たちにとって大きな前進となるブレイクスルーが起こる最初の段階にいます。その変化は、電話が発明された時と同じぐらい重要なものと言えます。

Playboy:

具体的には、どのような変化のことを言ってるのですか?

Jobs:

まだ推測するしかありません。私がいる業界の中ではその一端を見ることができますが、最終的な結果は具体的に誰もまだわかっていません。しかし、何か巨大で素晴らしいものになるであろうことはわかります。

Playboy:

ということは、人々はまだよくわからないもののために、3000ドル(当時のレートでおよそ50〜60万円)というお金をホームコンピューターに投じるべきだということですね?

Jobs:

未来になると、その本当の姿が明らかになるでしょう。現段階ではまだ姿も形もわからないものについて質問されているような状況です。100年前、発明家グラハム・ベルに「電話を使って、何ができるようになるんだ?」と尋ねても、当の本人ですら電話が世界に与える影響について語ることはできなかったでしょう。ベルにとっても、人々が電話を使って上映中の映画を問い合わせたり、商品を注文したり、地球の裏側に住んでいる親戚に電話をかけるような時代が来ることは思いもよらなかったはずです。

しかし、こう考えるとわかりやすいでしょう。1840年代にテレグラフが実用化された時は、非常に大きなコミュニケーション技術として迎え入れられました。ニューヨークからサンフランシスコまで、当時は馬で10日間かかったアメリカ大陸を横断する通信がその日のうちに完了したのです。人々は生産性の向上のために「全ての人々の机にテレグラフを」と語ったものです。しかしそれは実現されることはありませんでした。なぜなら、テレグラフを使うためにはモールス信号などの複雑な知識を習得する必要があったからです。習得するには40時間という学習が必要であり、大部分の人は勉強にすら至らない段階でテレグラフを使わずにいたのです。

そこに登場したのが1876年にベルが発明した電話でした。テレグラフと同じ機能を持つ電話でしたが、人々は既にその便利さを理解していました。さらに電話の優れていたところは、それまでの文字による通信ではなく声による通信が可能で、さらには歌って伝えることさえも可能になったのです。このように、ジョブズ氏はインターネットの革命を電話の実用化になぞらえて説明し、当時はまだ得体のしれなかったインターネットに接続するために将来の人々がコンピューターを手に入れるようになることを予見していました。多くの人々がまだ「コンピューター」が何であるかを理解できていなかった時代であることを考えると、まさに「先見の明」であったことが感じ取れます。



By Jeff

◆「コンピューターとは?」

インタビューでは、そもそもコンピューターとはどのようなものか、ということについて語っている部分もありました。

Playboy:

そもそも「コンピューターとは何か」について話していただけますか?どのような仕組みになっているのですか?

Jobs:

コンピューターは非常にシンプルなものです。たとえば、あなたがごく初歩的な指示しか理解できない状態だとして、ここからトイレに行きたいとします。私はあなたに詳細にトイレまでの歩き方を教えなければなりません。「両足で立つ。左足を上げる。足が水平になるまで持ち上げる。体を前に少し傾けて重心を移動させながら300センチメートル進む」といった指示が必要です。しかし、これを通常よりも100倍速いスピードで実行すると、それはもう魔法のように目に映ります。テーブルの飲み物を落としたとしても、床にこぼれるまでに一瞬のうちに全てをすくって元通りに戻せてしまうかもしれません。しかも、それを見ていた私には一瞬の出来事すぎて何が起こったのか知覚できないのです。

これがまさに、コンピューターがやっていることです。コンピューターは例えば、「数字を取得する。別の番号に加える。結果をここに入れる。どちらが大きな数字かを認識する」というごく簡単な命令を実行しているだけなのですが、これを1秒間に100万回というスピードで行います。100万回にもなれば、それはもうまるで魔法のように見えるものです。

これは簡単なたとえですが、重要なことは「コンピューターの仕組みを必ずしも理解する必要はない」ということです。ほとんどの人はオートマチックトランスミッションの仕組みはわからなくても自動車を運転しています。車体の動きを決める物理の法則を理解していなくても、自動車を運転することは可能です。これらのことが理解できていなくとも、マッキントッシュのコンピューターを使うことは可能なのです。このほかにも数々の興味深いトピックについてジョブズ氏は語っています。

◆マウスの導入について

Playboy:

通常のコンピューターはキーボードで入力しますが、マッキントッシュは「マウス」という装置でその作業を行うようになっています。なぜマウスを?

Jobs:

目の前の人のシャツに汚れが付いることを教えてあげる時に「襟から14センチ下がってボタンから左に3センチ行ったところに汚れが付いているよ」とは言わないでしょう?普通は指をさして「そこ!」と言うだけで十分です。「指さし」は誰にでも理解できるメタファーです。Appleでは多くのテストを実施し、例えば「カット&ペースト」などの作業を素早く、しかも効率的に行えることを確認しています。

◆LisaプロジェクトとApple解任

Playboy:

あなたはLisaプロジェクトを担当したかった。しかし、Appleの創業者の一人であるマイク・マークラとスコット社長(当時)は適任でないと判断した。間違いないですね?

Jobs:

Lisaのフレームワークとプロジェクトの鍵となるスタッフと技術をセットアップした段階で、スコット社長から「プロジェクト遂行に十分な経験がない」と判断されました。とても傷つきましたが、そうするしかありませんでした。

Playboy:

Appleが自分の手から離れていくと思いましたか?

Jobs:

少しだけ。しかし、私にとってつらかったことは、当初共有していたビジョンを持たない人をAppleがLisaプロジェクトのために雇い入れたことでした。Lisaプロジェクトでは、「従来のApple流の商品を作りたい側」とヒューレット・パッカードから雇い入れられて「大企業向けに売れる商品を作りたい側」との衝突が起こりました。

私は距離を置き、小さいグループで「ガレージ時代」のような体制でマッキントッシュコンピューターの設計を行いました。しかし、会社からはあまり重要とは思われていなかったようです。スコット社長は私の機嫌を取るように調子を合わせていたようです。このインタビューから数か月後、ジョブズ氏は社内での仕事のほぼ全てを剥奪されて事実上の解任状態となり、1985年9月にはAppleを去ることになりました。



By Matthew Pearce

◆IBM互換機を開発しなかった理由

Playboy:

独自路線を捨ててIBM互換機を開発しなかった理由は、IBMに屈したくないというものですか?ある評論家はIBM互換機の道を選ばなかった理由について「ジョブズはIBMに対して『Fuck You(くそくらえ)』と言ったから」と語っていますが?

Jobs:

別の路線を採ることで、男らしさを見せつけるためだったわけではありません。

Playboy:

では本当の理由は?

Jobs:

最も重要なのは、我々が開発した技術のほうが優れていたからということです。IBM傘下に入っていたら、これほど良いものにはなりません。みんな私たちがIBM互換機の道を選ばなかったことについて「馬鹿げている」と語りましたが、それには2つの理由があります。1つは、IBMはその「傘」の下に入れた企業に対して対抗措置を取り、相手をつぶしにかかることがわかっているからです。そして別のさらに重要な理由は、製品作りに関する企業のビジョンの違いです。私たちAppleは、コンピューターは人類の歴史の中で最も優れたツールだと考えており、多くの人にコンピューターを届けることによって世界を変えることができると考えています。しかし、IBMタイプの技術を使っていたら、それは実現不可能なものです。だから私たちはIBMとは違う道を行くことを決めたのです。

◆スティーブ・ウォズニアック氏との出会い

Playboy:

初めてスティーブ・ウォズニアック氏と出会ったのは?

Jobs:

私が13歳の頃、友人のガレージで知り合いました。彼は18歳でした。ウォズは初めて私よりもエレクトロニクスに詳しかった人物で、すぐに友人になりました。コンピューターに関して同じ興味を抱いていたし、ユーモアのセンスも一緒でした。いろいろなイタズラをしました。

そしてある時、ウォズがとてつもなくすごいものを発明したと言って学校のカフェテリアに持ってきました。そこから私たちのブルー・ボックスのビジネスがスタートしました。

Playboy:

ブルー・ボックスは電話回線を悪用して長距離電話を無料でかけられるようにする違法な装置でしたよね?

Jobs:

有名なエピソードでは、ウォズがヘンリー・キッシンジャーを装ってバチカンに電話をかけたことがありました。相手は就寝中のローマ教皇を起こしてくる、と言ったので、ウソがバレる前に慌てて電話を切ったことがあります。

Playboy:

大変な目に遭ったことはなかったのですか?

Jobs:

そうですね、何度か学校を追い出されそうになりました。

By Athanasios Kasampalis

◆日本企業について

インタビューの中では、日本企業について、そしてそれに対抗するための考え方も述べられていました。Playboy:

エプソンや、そのほかの日本のコンピューターメーカーについてはどう思いますか?

Jobs:

日本企業は苦境に瀕しているといえます。エプソンはこのマーケットで失敗を犯しました。

Playboy:

コンピューター市場と同じく、自動車産業は日本企業に圧倒されようとしています。半導体業界では窮地に立たされるアメリカ企業の話をよく耳にしますが、Appleはどのようにして優位性を保つつもりですか?

Jobs:

日本は興味深い国です。ある人は「日本はコピーしている」と言いますが、私は日本人がやっていることは「再発明」だと考えています。既にある技術をよく理解したうえで、その「第2世代」バージョンを再発明してくるのです。この戦略は技術が安定したマーケット、たとえばオーディオ機器や自動車産業のような分野には有効なものですが、その再発明サイクルには数年の期間が必要とされるため、コンピューター産業のような動きの速いマーケットが相手の場合にはあまり効果がありません。

「パーソナルコンピュータ」の定義が変化を続ける限り、日本は厳しい状況に置かれ続けるでしょう。しかし、その進化が鈍ってきた時に、日本はコンピューター産業を支配してくるでしょう。これは日本の国策でもあるので間違いありません。

◆コンピューターとソフトウェアの将来について

インタビューの最後では、1985年時点におけるその後のコンピューター業界の展望について語るジョブズ氏の言葉が綴られていました。Playboy:

これから先のコンピューターとソフトウェアはどのように進化しますか?

Jobs:

ここまでのコンピューターは、私たちの「よき召使い」として使われてきました。表計算ソフトで作業をさせたり、文章を打ち込んで手紙を作ったり、という作業で、それらはコンピューターが得意とするものでした。しかし、ここから先のコンピューターはガイドやエージェントになってきます。コンピューターがさまざまな物事をモニタリングして、ある特定の出来事がおこった場合に対処し、私たちに知らせるという仕事を行うようになります。

Playboy:

例えばどのような?

Jobs:

毎日の株価をチェックするようなケースが考えられます。設定した一定のラインを下回った時に、コンピューターが株のブローカーに電話をかけて自動で売却を行い、その結果を私に知らせるという仕事です。また、毎月の月末になるとデータベースをサーチして売り上げ実績を20%以上上回った営業マンに対して表彰メールを書いて「電子的郵便システム(現在のEメール)」で送信し、私のところには月次レポートが送られてくる、というようなものになります。

近い将来、コンピューターが100以上のタスクを実行して私たちのアシスタント・エージェントとなる時が訪れるでしょう。いくつかは1年以内に実現されることになりそうですが、まだ3年はかかります。これは次のブレークスルーとなります。このように、1985年という時代背景を考えるとなかなか興味深いインタビュー内容となっていました。

全編が掲載されている内容では、少年時代にヒューレット・パッカードのビル・ヒューレット社長に直接電話をかけて電子部品をねだった結果、同社のインターンとして働くようになった経緯や、さらに詳しいAppleの企業方針、そしてインタビュアーに養子縁組や実父のことについて聞かれ「答えたくない」と返すジョブズ氏の生々しいやりとりなどを読むことができ興味深い内容となっていました。

なお、このインタビューは雑誌「Playboy」のインタビューを一冊にまとめた書籍「The Playboy Interview: Moguls」に収録されています。Amazonでは、ジョブズ氏以外にも20世紀フォックスの会長などを歴任したBarry Diller氏やGoogleのラリー・ペイジ氏とサーゲイ・ブリン氏、オラクルのラリー・エリソン氏、Amazonのジェフ・ベゾス氏、ヴァージングループ総帥のサー・リチャード・ブランソンなどのインタビューが掲載された「The Playboy Interview: Moguls」のKindle版を購入することが可能です。

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