WIREDが主催するCREATIVE HACK AWARD。2014年の準グランプリ受賞者である長田淳美は、大学を卒業して印刷会社に就職した後、デザイナーを目指して再び専門学校に入学する道を選んだという、クリエイティヴに対する熱い想いの持ち主だ。そんな彼女に、受賞作のコンセプトとHACKの極意を訊いた。

「「3つのつながりを1冊の“絵本/小説”で表現」:CREATIVE HACK AWARD 2014 準グランプリ受賞者の素顔」の写真・リンク付きの記事はこちら

長田淳美ATSUMI OSADA
専門学校桑沢デザイン研究所ビジュアルデザイン専攻科2年。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、大日本印刷で商業印刷分野の営業を担当。2013年に桑沢デザイン研究所に入学。社会人と学生との両立生活を約1年半送った後退職し、現在はデザイナーになるべく学業に専念中。

──現在、どのようなテーマをもって、どのような活動や研究をなさっているのでしょうか?

専門学校の桑沢デザイン研究所でグラフィックデザインの勉強をしています。

もともと高校生のころからデザインには興味があったのですが、大学も仕事も、ものづくりに広く携われる場所を選択しながら、デザインは趣味として続けていました。だけれど、趣味としてのデザインも個人的なものから一般の方向けの告知ツール制作などへと幅を広げるなかで、やはりデザインを仕事にしたいという想いが強くなり、改めて学校で学ぶことにしました。

いま、勉強するなかで心がけているのは、「やったことのない表現手法に積極的に挑戦する」ということです。これまで趣味で行ってきたデザインは、はじめからPCの中でつくって完結することが多かったのですが、桑沢では入学当初は手で描く授業が多く、自分のつくってきたものが限定的だったことをすごく実感しました。

かつての自分がそうであったように、いまはデザインソフトを一般の人でももっていて使いこなせるので、「ソフトがあるからつくれるもの」ではなく、「デザインを学んだからこそつくれるもの」を、きちんとつくれるようになりたいと思っています。なので、これまで敬遠していた人物写真の撮影やイラストでの表現を取り入れたり、実験的な試みとして、磁石と砂鉄を用いた新しい表現を行ったりしています。

その上で、できるだけ多くの場面でデザインを活かせるようになりたいと思っています。そのために、デザインの分野もできる限り狭めることなく、ブランディングからパッケージ、アドバタイジング、エディトリアル等々、広く意欲的に取り組むようにしています。

また、通常のグラフィックデザインの領域を越え、メディアアートやイベント企画にも興味をもっているので、分野を横断して面白いことができればと思っています。イベント企画としては、友人と一緒に参加型のドミノ倒しイベントの企画・運営を数回行ってきました。その中で、運営上でデザインの重要性を感じることも多く、まだまだデザインが必要になる領域が多くあるのではないかと思っています。

──CREATIVE HACK AWARDに応募されたきっかけはなんだったのでしょうか?

今回応募した作品の構想は以前からもっていて、それを数人の友人に話したところ、ほとんどの人にその面白さがきちんと伝わりました。それで、周りから応募した方がいいと後押しをもらい、自分でも世の中の反応を見たいと思っていました。

ただ、グラフィックや絵本、小説というカテゴリーに当てはめにくい作品だったので、応募する適切なコンペが見つからず、しばらく寝かせている状態になっていました。ある日、コンペのポータルサイトでこのCREATIVE HACK AWARDを知り、カテゴリーにとらわれずに応募出来るコンペだと思い、テーマも一致していたのですぐに応募を決めました(そのCREATIVE HACK AWARDにしても、グラフィック部門というカテゴリーにあてはまっているのか不安でしたが)。

CREATIVE HACK AWARD 2014の授賞式前に行われたピッチセッションにてプレゼンテーションを行う長田。事前に行われたピッチセッションのワークショップに参加した成果が発揮されたのか、的確でよどみないプレゼンを披露した。

準グランプリ受賞作品「わたしと私」。小説側が「子どもに戻りたい大人の物語」、絵本側が「大人になりたい子どもの物語」になっている。

──今回の受賞作品のコンセプトを、具体的に教えてください。

子どものころ読んだ絵本を読み返したときに、当時は気付いていなかった深い意味が込められていて、驚くことがあります。以前、友人の子どもに絵本を読んであげたときに、自分の方が感動をしてしまったということがありました。

今回作成した「わたしと私」という本は、そんな体験をもとにした成長に合わせて物語が膨らむ作品として制作しました。この作品には、今回のテーマである「つながり」が3つ含まれています。

1つ目のつながりは「ビジュアルのつながり」です。

この本の見開き右ページは「小説」、左ページは「絵本」になっています。右ベージの小説の中の言葉を拾って、左ページの絵本の文章が作られているのですが、そのときの軌跡が、絵本の絵の輪郭になっています。

2つ目のつながりは「ストーリーのつながり」です。

小説側が「子どもに戻りたい大人の物語」、絵本側が「大人になりたい子どもの物語」になっています。はじめは、大人であること/子どもであることを、それぞれの主人公が嘆いているところから始まります。ふたりの主人公はその思いから自分勝手な行動をしていまい、仕事のミスをしたり、迷子になったりと周りに迷惑をかけてしまいます。その出来事からふたりが出会い、成長し、大人/子どもであることを受け止めていくというストーリーになっています。

子どものころは絵本のページを読んで楽しむことができ、大人になってから小説も合わせて読むことで、その背景にあった物語を知ることが出来るようになっています。そして、その大人が子どもと一緒にこの本を読み、その子どもがさらに大人になってこの本を読んで、また子どもにつないでいく…。そんなカタチで、世代を越えてつながるようにという思いも込めました。これが3つ目のつながり「世代間のつながり」です。

これらのつながりは、アナログな本だからこそ感じられるものだと考えています。いつまでも同じカタチで残せる“アナログな本の存在価値”も合わせて問うことができればと考えています。

──「既成概念をHACKする」ことの難しさ、面白さ、重要さを、それぞれ教えてください。

振り返ってみると、わたしは普段から「既成概念をHACKする」ということに面白みを感じて作品をつくっていたことに気付きました。
正確に言うと、わたしが行ってきたのは「既知のもの同士をつなげて新しいものをデザインする」ということなのですが、これもHACKの一つの方法だと思います。

今回の作品も、「小説」と「絵本」という既知の要素をつなぎ合わせることで新しいものをつくっています。また、いまは「地図」という既知のものに興味をもってアイデアを練っています。

HACKの面白さは、なんといっても伝わるのが早いことです。既に認識としてあるものを利用しているので1から説明することはなく、HACKの部分の面白さをすぐに感じてもらえます。面白い感覚の共有もしやすくなります。そのため、多くの人に共通の身近な既成概念であればあるほどそれをHACKしたときの反応が大きくなると感じています。

その反面、文化が違う場合は「既知」自体の違いがあって逆にうまく伝わらないこともあるので、気を付けなければならないと思っています。
また、HACKするときに重要なのは、シンプルにすることだと思います。アイデアの部分を盛り込みすぎないようにする。ただし、既知の部分ばかりが目立ってしまっても新しいものには見えないので、それぞれのルールをシンプルに抽出してバランスをとることが大事で、それが難しい部分だと思います。

これからは、もっとHACKすることが必要になってくると思います。モノもサービスも進化・変化のスピードが速くなっているので、既成概念にとらわれていると置いてきぼりになってしまう危険があるからです。今後の日本の技術や文化の発展にも、HACKができるかどうかが重要になるのではと思っています。

──今後の活動についての展望を教えてください。

日本の製品・サービスの価値をあげていけるようなデザイナーになりたいと思っています。2020年の東京オリンピック開催決定をきっかけに日本の成長を考えることが増え、デザインの力で参戦できるようになっていたいという思いが強まりました。

デザインが日本の売り込みに寄与できれば、デザイン自体の重要度が高まることにもなります。そうして、最終的には生活の質の向上にまでつながっていけば嬉しいです。

そのために、これからも考えること、つくること(そしてHACKすること)を日々怠らずに続けて成長していきたいと思っています。
まだ卒業後の進路は決まっていないのですが、そんな風に広くデザインと日本の成長を考えているような方々と一緒に仕事をすることができればと思っています。

CREATIVE HACK AWARD 2014