“低視聴率女優”の前田敦子が映画監督たちに愛される理由
 2015年1月に劇場公開される映画『さよなら歌舞伎町』が早くも話題だ。主演の前田敦子は、これまで黒沢清や山下敦弘といった、そうそうたる映画監督の作品に出演し、彼らから絶賛の言葉を受けている。

 日本テレビ系ドラマ『Q10』で共演した柄本時生、池松壮亮、高畑充希らの影響で演技の楽しさに目覚め、今年8月に閉館した新橋文化劇場にも足を運ぶほどのシネフィルという、“あっちゃんの映画好き”エピソードは有名である。

 一方で、女優・前田敦子に対する世間の風当たりは強い。『情熱大陸』(MBS)に出演した際は、ネット上で「態度が悪い」などといった批判が殺到した。ひとたびテレビドラマに出演すれば、アンチや視聴者から厳しい声を浴びせられる。挙げ句の果てには、前田が出演したフジテレビ系ドラマ『信長協奏曲』の第3話だけ視聴率が低いことから、“低視聴率女優”の汚名まで着せられてしまう始末だ。

◆黒沢清は「前田敦子なくして日本映画は存在しえない」とまで

 そんな彼女だが、映画監督たちは次のような言葉で激賞している。

『もらとりあむタマ子』で監督を務めた山下敦弘は、前田について「誤解を恐れずに言うと、秀でた才能があるわけでも、めちゃくちゃ美人なわけでも、すごく歌がうまいわけでも、飛び抜けて演技力があるわけでもない。それは本人も分かっていることだけど、普通はそれだと器用貧乏でつまんなくなる。でも、あっちゃんには輝くものがあるんですよ。ネコっぽいというか、どこか気まぐれなところがあるし、でも考えてないようでしっかり考えている。とても魅力的ですね。」(『eo映画 特集』2013年12月6日)と語っている。

 さらに黒沢清監督は『Seventh Code』の舞台挨拶で、「前田敦子は、周囲の何ものにも頼らず、たったひとりでその場所に堂々と存在することのできる、日本ではめずらしいタイプの俳優です」「映画なくして彼女は生まれず、彼女なくして日本映画もまた存在しえない、そんな時代がやってきたようです」とベタ褒め。

 犬童一心監督も、「バカなこと、くだらないことを、躊躇や疑問なく挑戦してみる姿勢がいいですよね」「一緒に仕事をした人は、きっと彼女のことを好きになるんじゃないかな」といった趣旨のコメントを寄せている。

 名だたる映画監督からこれだけ愛されているにも関わらず、どうして世間では「女優・前田敦子」の存在が評価されないというギャップが生まれるのだろうか。そこで今回は、前田敦子を称賛するひとりであり、彼女と親交がある映画監督の松江哲明さんに話を聞いてみた。

◆“何もしない”ことができる前田敦子

――前田敦子さんは、女優としてどういったところが魅力的でしょうか。

松江哲明(以下、松江):デビュー作の輝きってあるじゃないですか。前田さんはどの作品を観ても、いまだに新人女優の初々しさがありますね。『さよなら歌舞伎町』にもその輝きは残っていました。女優さんの場合、映画の現場をやればやるほど、自分の見せ方や得意な役がだんだん見えてきて、イメージがついてくる。でも、前田さんにはそれがないんです。

山下(敦弘)くんや黒沢清監督は、基本的に役者に任せるんですよね。山下くんが言うには、あっちゃんは“何もしない”んですよ。“何もしない”ができる前田敦子のおもしろさが、映画での評価なんです。前田さんも、監督には何も聞かないみたいで。テレビドラマって“何かしなきゃいけない”ので、それと映画は演出が全然違いますね。

――“何もしない”というのは、具体的にどういうことでしょうか。

松江:ただ立ってるだけ、とか。でも、落ち着いて立てない俳優さんがほとんどなんですよ。タバコをくわえたりして、みんな役づくりしちゃうんです。“何もしない”っていうのは本当に難しいんです。前田さんは、久しぶりに出てきた完璧な引き算の、空っぽの人。だから、昔ながらの映画らしい演出――引きの絵で、風景のなかにぼーっと立ってるだけで存在感がある、昔の北野武監督みたいな映画の作り方にはハマりますね。西島秀俊さんや山田孝之さんも、“何もしない”ことができる人なんです。いい意味で自分がないというか、引き算なところが似てますね。