神戸発・22歳のバンドに世界が注目。「The fin.」は本物だ
 何の気なしにつけていた音楽チャンネルで、ふと手を止めてしまうほどの楽曲に出会うことがごくまれにあります。

 MTV12月のHOT SEATに選ばれたThe fin.というバンドの「Night Time」という曲が、まさにそれでした。洗練されたハーモニーと過不足のないタイトな演奏。それは歪ませたギターをかき鳴らして、青筋を立てて金切り声を搾り出すようなロックとは無縁の世界。久々にアンサンブルという言葉が浮かんでくる滋味深い演奏なのです。

⇒【YouTube】The fin.- Night Time http://youtu.be/9EtEFFg3iwo

 一体どんな手練れた集団なのかと思いきや、神戸をベースに活動する22歳の男性4人組と、実に若い。12月3日にファーストアルバム『Days With Uncertainty』がリリースされたばかりですが、その前から各種フェスへの参戦や海外からのオファーも殺到しているという注目の新世代バンドなのです。

<1980年代〜1990年代のシンセポップ、シューゲイザー・サウンドから、リアルタイムなUSインディー・ポップの影響やチルウェーブなどを経由したサウンド・スケープを聴かせる>というレーベルからの紹介文を見て、「そんなバンドは掃いて捨てるほどいるだろう」と思われる人もいるかもしれません。

 しかしThe fin.は、そのような淡いトーンのサウンドに甘ったれていない。ボーカルスタイルやメロディライン、コードのチョイスなどは確かに印象派的なニュアンスが見受けられますが、バンドとしての存在感はまさしくロックそのもの。その無骨な基礎を支えているのが、ドラムとベースが築く土台にあるのではないでしょうか。それは『Days With Uncertainty』の冒頭を飾る「Illumination」という曲からも明らかです。

 イントロで聴こえるシンセサイザーによる和音の連打が、スコットランドのバンド、ザ・ブルー・ナイルの「Broken Loves」(アルバム『High』収録)を思わせます。そこから北欧っぽいひんやりとした景色が浮かぶようなスペイシーなギターが十分な隙間をもって絡んでくる。いかにも“1980年代〜1990年代のシンセポップ”のフォロワー然としたサウンドです。

⇒【YouTube】The Blue Nile‐Broken Loves http://youtu.be/22zVK6Nnv4Q

 しかし特筆すべきは、それらを最下部で支えるドラムのキックの力強いこと。そしてそれに導かれるようにゆったりとした幅のフレーズを奏でるベースの安心感たるや、他に類を見ないほどの貫禄があるのですね。そこが“掃いて捨てるほどいる”バンドと一線を画しているところでもある。

 The fin.のリズム隊はこれ見よがしのテクニックを披露して、曲を台無しにする心配がありません。この徹底した余裕がアルバム全体を通じて保たれています。繰り返しになりますが、まだ22歳とは思えないほどのアダルトな演奏ぶりです。

⇒【YouTube】The fin.‐Without Excuse (Home Session) http://youtu.be/nSn-KFElSVo

 もっとも全て英語詞による楽曲には、まだいくらか改善の余地があります。英単語のアクセントとメロディの抑揚が一致していない箇所が少なからず目につきますし、楽曲そのものも最初のアイデアを展開しきれずに引き延ばされているのではないかと思われるものもあります。

 それでもこのバンドには落ち着き払ったアンサンブルという大きなアドバンテージがある。それが長く活動を続けていくうえで財産になることは言うまでもありません。そしてソングライティングの技術は、その基盤の上で時間をかけて成長させていくことができるでしょう。

 The fin.はロックがドラム、ベース、そして鍵盤のトリオから始まった音楽であることを再認識させてくれるバンドです。その意味で“リアルタイムなUSインディー・ポップの影響”にとどまらない、実に含蓄に富んだ音楽を奏でているように思います。

<TEXT/音楽批評・石黒隆之>