音楽を聴き放題のストリーミング(逐次再生)音楽配信サービス、電子書籍、携帯電話のかけ放題など、定額制の○○放題を展開するビジネスが急成長している。これら「放題ビジネス」の隆盛による企業マーケティングの構造変化の方向性と、新たな可能性について大前研一氏が解説する。

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「放題ビジネス」のポイントは、実際には「○○放題」にはなっていない、ということである。つまり「好きなだけ/ご自由に」と言われても、だんだん量が減ってくるのだ。たとえば「聴き放題」も、最初のうちは嬉々として聴いているが、いつでも聴けるとなると、不思議なことにそのうちあまり聴かなくなるのである。

 私の友人が地方のホテルを立て直した際も、バイキング形式の「食べ放題」に酒の「飲み放題」を付け、さらに「エステ放題」と謳ったら、ネット予約で新規客が殺到した。ところが、その友人に言わせると、たとえば1500円で飲み放題にしても、あまり酒が飲めない人もいるから、平均すると1500円までいかない。食事は高級食材を限定することでコストを抑えられるし、エステは先着順で埋まるから施術者の人数分以上のコストはかからない。

 ○○放題は、集客効果が高い割にコストが比例して上がらないわけだ。

 この「放題ビジネス」は、研究すればするほど様々なアイデアが出てくる。経営学的には「固定費に対する限界利益の貢献を最大化する」というアプローチで、これは非常に重要なイノベーションの戦略的手法の一つである。

 実は「放題ビジネス」で、制約条件があるのは企業(提供者)側ではなく利用者側だ。音楽を聴く時間や映画を見る時間や本を読む時間は無限ではない。制限時間内で食べられる料理や飲める酒の量も限られている。永遠に電話し続ける人もいない。それを逆手にとって「安い」と思わせるのが放題ビジネスの要諦である。

 また、企業の固定費で一番高いのは人件費だ。それを最大限に活用するためには、どうすればよいのか。従業員が働いている間の操業度を上げるしかない。その方法の一つが放題ビジネスであり、それが成り立つのは固定費の比率が高い事業である。

 たとえば、お台場・パレットタウンの大観覧車の料金は1人(4歳以上)920円だが、混むのは週末だけである。これを月額1000円で「乗り放題」にすれば、人件費や電気代などの固定費は変わらないから、利用者が増えることで今よりも儲かるはずだ。

 あるいは、現在、映画館の基本料金は大人1人1800円だ。これをシネマコンプレックス(一つの施設に複数のスクリーンがある映画館)の場合、月額2000円で見放題にしたらどうか。

 イオンシネマを展開するイオンエンターテイメントは邦画・洋画の名作(旧作)を平日に限り月額1200円、年額9800円で見放題にしているが、私は新作も週末・祝日も一律に見放題にすればよいと思う。仮に映画館の原価が満席時に観客1人300円くらいで、実際はトータルで座席が6分の1ほどしか埋まらないから1800円の値付けになっているとすれば、月額2000円を払ってくれる人は、従来の観客6人分余に相当することになる。
 
 その見放題サービスを「年間パス(満席時は利用不可)」のようにすれば、稼働率はグンと上がるだろう。

 そのように考えると、赤字続きの企業や客が入らないレストランなど固定費に悩んでいる多くの事業が「放題ビジネス」をヒントにすることで新たな可能性が開けてくると思う。

※週刊ポスト2014年12月26日号