マンチェスターの両雄とアーセナルに挑んだ3連戦のすべてに出場。約2か月ぶりの実戦だったが、吉田はワールドクラスのFWとほぼ互角に渡り合う。 (C) Getty Images

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「オレ、移籍するのか!?」
 
 筆者があるメディアに書いた原稿を読んだ吉田麻也は、そう言った。今年の1月1日、チェルシー戦を受けての記事だった。
 
 草稿では「今後の“展開次第”では移籍志願をする可能性もある」と婉曲だった表現が、紙幅の関係で、よりダイレクトな言い回しになって世に出ていた。
 
 それを目にした吉田が、ちょっと本気で怒りながら、苦笑交じりに口を開いたわけだ。チェルシー戦の翌週の取材現場でだった。上記のように釈明し、納得してもらったが、ただチェルシー戦後の話しぶりから「移籍志願の可能性」が感じ取れたのは本当だった。
 
 あれから1年が経とうとしている。サウサンプトンでの立場は、当時とほぼ変わっていない。CBの3番手だ。それでも、冬の移籍の可能性は1年前よりも低いと判断するのが妥当だろう。
 
 サウサンプトンと吉田の契約は今シーズンいっぱいで満了する。延長しなければ、吉田は来年の夏にフリーの身となる。つまり移籍金ゼロでどこへでも移籍できるわけだ。こうした状況だけを踏まえれば、クラブは契約下にあるいまのうちに売りに出し、少しでも移籍金を得たいと考えるだろう。
 
 だが、いまの吉田はチームが必要とする戦力だ。選手層が薄いうえに今シーズンは故障者が重なっていることもあり、在籍3年目で計算の立つCBの放出はダメージが小さくない。
 
 吉田自身の心情も、ワールドカップを控えた1年前とは違う。出場機会の少なさを懸念する焦りが、そこまで大きくないのだ。なにより、本人にはサウサンプトンに対する愛着がある。地元紙の取材に応えてコメントしたのは、12月初旬のことだ。
 
「(チームに)残りたい。練習施設は素晴らしいし、スタジアムも最高。サウサンプトンの街も大好きだ。妻もここでの生活に満足している」
 
 だからといって、控えという立場を甘受しているわけではなし、そうするつもりはない。
 
「これで毎週試合に出られたら、全く問題ない。でも、実際はそうではなく、出場機会が限られている。クラブがどう考えているのか分からないし、12月は非常に重要な1か月になる。自分としてはプレーに集中するしかない。あとは代理人に任せている」
 
 思いがけず出場機会が巡ってきたのは、そんな折だった。マンチェスター・シティ、アーセナル、マンチェスター・ユナイテッドというビッグクラブとの3連戦(13〜15節)のすべてのピッチに立ったのだ。シティ戦とアーセナル戦は、故障者に代わってのスクランブル発進だったにもかかわらず、そして2か月以上も実戦から離れていたにもかかわらず、吉田はこの3連戦で安定したパフォーマンスを披露した。
 
 対峙したのはセルヒオ・アグエロ、アレクシス・サンチェス、オリビエ・ジルー、ロビン・ファン・ペルシ、ウェイン・ルーニーといったワールドクラスのFW。それでも吉田はほぼ互角に渡り合ったのだ。
「途中から入って無難にこなせる術を覚えた。経験から学んだ。昨シーズンはアピールしようとして空回りすることが多かった」
 
 吉田は久しぶりの出場試合を振り返り、自虐的に笑ったが、たしかに1年前とは異なり、肩肘張らずにリラックスしてプレーができている。自分の置かれた立場を理解しながらも、気持ちに余裕がある。そんな印象が強い。
 
 もちろん、だからといって諦めのようなものがあるわけではない。向上心は持ち続けているし、それはユナイテッド戦後の言葉からも明らかだ。
 
「やはりこういったピリピリした空気の中でプレーできるのは幸せ。ただ、このピッチに立つだけで満足するのではなく、さらに上を目指してやっていかないと先はないと思うし、現状に満足しているわけでもない。監督に信頼してもらえるような選手にならないといけない」